婚約破棄された、女はすごくあざとい

ルイ

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「リリエル・エルステッド、公爵令嬢としての責務を果たせぬ君との婚約は、今この場をもって破棄する」

 王城の広間に、王太子アレクシス殿下の冷ややかな声が響き渡った。豪奢なシャンデリアが輝く空間に、一瞬の静寂が落ちる。そして——

「まあ……なんということ……」
「リリエル様が婚約破棄されるなんて……」

 貴族たちの囁きが広がり、好奇の視線が私に突き刺さる。私は静かにまつげを伏せ、そっと唇を震わせた。

(……さて、ここからが本番ね)

 リリエル・エルステッド。公爵令嬢でありながら、私にはひとつだけ、誰にも言えない「才能」があった。

 それは——あざとさである。

 貴族社会を生き抜くために、完璧な淑女として育てられた私。だけど、ただ「美しい令嬢」では不十分。最も価値のあるのは、愛されること。そのために、私は幼い頃から徹底的に研究してきた。

 美しく儚げに見せる仕草。涙を流す角度。男性の庇護欲をくすぐる声の震わせ方。

 すべては、今、この瞬間のために——

「……そう、ですか」

 私は震える声で呟いた。

 絶望に打ちひしがれたかのように目を伏せ、長い睫毛をゆっくりと持ち上げる。涙を浮かべた瞳でアレクシス殿下を見上げ——

「わたくしが……至らなかったせいですね……」

 そう呟くと、広間の空気が一瞬で変わった。

「リリエル様……」
「なんて健気な……」

 貴族たちの視線が、微妙にアレクシス殿下から私へと移る。

 第一段階、成功。

 この場で怒ったり、泣き喚くのは愚の骨頂。私はあくまで「健気に耐え忍ぶ悲劇の令嬢」を演じるのだ。そうすれば、周囲は私に同情し、彼の冷酷さを際立たせることができる。

 王太子は少しだけ眉をひそめたが、すぐに表情を整えた。

「君は、ただの公爵令嬢ではなく、未来の王妃としての自覚を持つべきだった。しかし、君は——」

「……すみません……」

 私はそっと胸に手を当て、俯いた。まるで耐え切れない悲しみに押しつぶされそうに。

(どう? 今の完璧な「耐える令嬢」っぷり)

 すると——

「リリエル様、お身体が……!」

 誰かが叫んだ。

 そう、ここで倒れるのが、最も効果的。

 貧血を装い、ふらりと体を揺らす。予想通り、近くにいた騎士が慌てて支えてくれた。

「大丈夫ですか、リリエル様!」

「……申し訳……ありません……少し……」

 目を閉じ、唇を震わせながら、ゆっくりと意識を手放す——ふりをする。

 これで私は「突然の婚約破棄にショックを受け、倒れるほどの悲劇の令嬢」になることができる。そうなれば、もう勝ち戦も同然。

 だって、私はすごくあざといのだから。
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