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59話 Mettya 舟盛り
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ユキムラは朝から燃えていた。
海で手に入れたたくさんの素材をもとに次から次へとレシピを作っていく。
お造り、寿司はもちろん、塩焼き、味噌焼き、蒸し焼き、煮物、鍋、丼、様々なものを作り出す。
そして大量のレシピを調理班へと回す。
醤油にも改めて力を入れている。濃口、薄口、たまりに再仕込みに白醤油まで。
スキルを使えば時間の掛かる工程も一瞬だ!
昆布だし、かつおだし、いりこだし、日本人のソウルフードが目白押しだ。
今日の夜は……
お祭りだ!!
「師匠の情熱が怖い……」
「わん!」
猛烈な熱量を持ってレシピ開発を続けているユキムラは置いておくとして、タロは順調に成長している。もともとホワイトウルフという希少なモンスターだが、生まれた時から人の手で育てられており、ユキムラはペットシステムで使うステータスアップ系玩具や食事をやりたい放題使っていた。
誰も気がついていないが、普通のホワイトウルフとは別次元の強靭で賢い生物へと変貌を遂げている。
タロ自身は人間のことが大好きで可愛がられて育っている今の環境に満足している。
ぶっとい手足にもっこもこの白い毛で愛嬌を振りまくタロが大活躍するのはもう少し先になる。
ユキムラは満足するほどのレシピを完成させ今日の宴の会場へと来ていた。
今日の主役の準備のためだ。
彼は、今狂っている。
興奮状態で彼がやろうとしていることは、刺身を船に見立てた器に入れる舟盛り。
そう、彼は本当に船サイズの舟盛りを作ろうとして、その船を作成している。
狂人にそれを実行できる能力と経済力を与えることの恐ろしさよ。
スキルによりみるみるうちに美しい木目の船が完成する。
しかも魔道具により上に置かれた刺し身を低温保存できる、努力の方向性が斜め上の代物が完成した。
ブツブツとこれぞ舟盛り、本物の舟盛りじゃぁ……とつぶやいているユキムラは、なにか変なものに憑かれたのではないかとレンは心配になってしまう。
「し、師匠? 大丈夫ですか?」
「ん? ああ、レン。今晩は最高の会になるぞ、ジュナーのサイレンさんやレックスさんも呼ぼう!」
ものすごく楽しそうなユキムラをみてレンは心配するのは止めることにする。
ここ最近でここまで楽しそうなユキムラの姿を見たことはなかった。
よっぽど海の幸が嬉しいんだろうなぁ……
海から距離があり、刺し身という食べ方を知らないレンのこの反応は仕方がないものだった。
そしてこの日の宴からプラネテル王国に空前の海鮮ブームが訪れる事になる。
そんな空回りとも言えるユキムラの張り切りのもとに大山脈開通記念ははじまった。
会が始まってもなかなか生魚に手を出す人はいなかった。
旧ファス村は地理的に新鮮な海魚は手に入らなかった。
川魚は火を通さないと危険と古くから伝えられており、幻のサーモン以外は生で食べる習慣はない。
サーモンは幻の魚だから生で食べられるだけ、そういう風習が根強かった。
巨大な船に乗せられた様々な刺し身の美しい姿には目を奪われるものの、遠巻きにみてなかなか手を出せなかった。それ以外の料理も様々に用意されていてそちらもべらぼうに美味しい。
冒険をする必要がなかったのだ。
「おっしゃー! 舟盛りいくぞー!」
完全にキャラ崩壊したユキムラが挨拶回りから解放されて中央のオブジェへと駆け寄った。
周囲の町人の視線が集中する。
ユキムラはわざわざ複数の醤油を入れられる刺身を食べるためだけの特製皿まで準備していた。
「いっただきま~す」
まずは青魚、アジだ。
パンパンに肥えたアジ、漬けた醤油皿に油が広がるほど脂が乗っている。
「くーーーーーー~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
口いっぱいにアジの脂の旨味が広がる。
青魚とは思えない濃厚な脂の味。
今まで漁で取られることもなく大海原を自由に生きていいたからこその味わいなのかもしれない。
もうユキムラの箸は止まらない、俺は人間機関車だぶおおん。
次は鯛に行ってしまおう、少し甘みのある醤油にちょんと漬けて口に放り込む。
ぐにっぐにっぐにっ
素晴らしい歯ごたえ、歯と顎が喜んでしまう。次の瞬間舌が鯛の旨味に締め上げられる。
「ほぁぁあああああああああ……」
淡白な味わい!? 馬鹿言っちゃいけない!
なんというパンチの有る旨味のクロスカウンター!
歯ごたえで歯を楽しませてからのこの濃厚な絡みつくような旨味。
絶対日本酒だ。誰がなんと言おうが辛口の日本酒だ。
「つ、次!!」
周囲の人たちもどんどんとその輪を縮めていく、ユキムラの表情があまりにもうまそうで恐る恐る近づいてきているのだ。
ユキムラは青柳に手を出す。
美しく輝くその橙の身がぷりっぷりとしている。
独特の匂いもたまらない、濃口の醤油に半身をつける。
そして勢い良く口にダイブさせる!
「ふおおおおおおぉぉぉぉぉ……」
貝独特の香りと濃厚な生命のエキスと旨味が舌を支配していく。
その支配に身を委ねるとほのかな苦味、いや、コクを与える旨味と言っていい。
これはビールだ。
隣に小柱の軍艦がある。これを食べるのは今だ。
手づかみで放り込む。
「ああ……磯の香り……」
海苔が凄い。少しすごすぎる、小柱の歯ごたえ、甘み、旨味、それらを持ってしても海苔が旨い。
そう感じてしまう。
これは、たまらない。
酢飯と海苔と小柱と醤油。
口の中でオーケストラを奏でている。
ユキムラの瞳から涙が一筋ホロリと落ちる。
それをきっかけに町人たちは刺し身に手を付ける。
!!!
絶句である。
今まで全く食べたことのない食感、そして圧倒的な美味しさ。
船一面に宝石のように散りばめられたすべての刺し身が違う美味しさを奏でる。
こんなに幸せな食べ物がこの世にあったことを今始めて知るのであった。
その後、舟盛りはゆうに5回転はすることになるのであった。
海で手に入れたたくさんの素材をもとに次から次へとレシピを作っていく。
お造り、寿司はもちろん、塩焼き、味噌焼き、蒸し焼き、煮物、鍋、丼、様々なものを作り出す。
そして大量のレシピを調理班へと回す。
醤油にも改めて力を入れている。濃口、薄口、たまりに再仕込みに白醤油まで。
スキルを使えば時間の掛かる工程も一瞬だ!
昆布だし、かつおだし、いりこだし、日本人のソウルフードが目白押しだ。
今日の夜は……
お祭りだ!!
「師匠の情熱が怖い……」
「わん!」
猛烈な熱量を持ってレシピ開発を続けているユキムラは置いておくとして、タロは順調に成長している。もともとホワイトウルフという希少なモンスターだが、生まれた時から人の手で育てられており、ユキムラはペットシステムで使うステータスアップ系玩具や食事をやりたい放題使っていた。
誰も気がついていないが、普通のホワイトウルフとは別次元の強靭で賢い生物へと変貌を遂げている。
タロ自身は人間のことが大好きで可愛がられて育っている今の環境に満足している。
ぶっとい手足にもっこもこの白い毛で愛嬌を振りまくタロが大活躍するのはもう少し先になる。
ユキムラは満足するほどのレシピを完成させ今日の宴の会場へと来ていた。
今日の主役の準備のためだ。
彼は、今狂っている。
興奮状態で彼がやろうとしていることは、刺身を船に見立てた器に入れる舟盛り。
そう、彼は本当に船サイズの舟盛りを作ろうとして、その船を作成している。
狂人にそれを実行できる能力と経済力を与えることの恐ろしさよ。
スキルによりみるみるうちに美しい木目の船が完成する。
しかも魔道具により上に置かれた刺し身を低温保存できる、努力の方向性が斜め上の代物が完成した。
ブツブツとこれぞ舟盛り、本物の舟盛りじゃぁ……とつぶやいているユキムラは、なにか変なものに憑かれたのではないかとレンは心配になってしまう。
「し、師匠? 大丈夫ですか?」
「ん? ああ、レン。今晩は最高の会になるぞ、ジュナーのサイレンさんやレックスさんも呼ぼう!」
ものすごく楽しそうなユキムラをみてレンは心配するのは止めることにする。
ここ最近でここまで楽しそうなユキムラの姿を見たことはなかった。
よっぽど海の幸が嬉しいんだろうなぁ……
海から距離があり、刺し身という食べ方を知らないレンのこの反応は仕方がないものだった。
そしてこの日の宴からプラネテル王国に空前の海鮮ブームが訪れる事になる。
そんな空回りとも言えるユキムラの張り切りのもとに大山脈開通記念ははじまった。
会が始まってもなかなか生魚に手を出す人はいなかった。
旧ファス村は地理的に新鮮な海魚は手に入らなかった。
川魚は火を通さないと危険と古くから伝えられており、幻のサーモン以外は生で食べる習慣はない。
サーモンは幻の魚だから生で食べられるだけ、そういう風習が根強かった。
巨大な船に乗せられた様々な刺し身の美しい姿には目を奪われるものの、遠巻きにみてなかなか手を出せなかった。それ以外の料理も様々に用意されていてそちらもべらぼうに美味しい。
冒険をする必要がなかったのだ。
「おっしゃー! 舟盛りいくぞー!」
完全にキャラ崩壊したユキムラが挨拶回りから解放されて中央のオブジェへと駆け寄った。
周囲の町人の視線が集中する。
ユキムラはわざわざ複数の醤油を入れられる刺身を食べるためだけの特製皿まで準備していた。
「いっただきま~す」
まずは青魚、アジだ。
パンパンに肥えたアジ、漬けた醤油皿に油が広がるほど脂が乗っている。
「くーーーーーー~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
口いっぱいにアジの脂の旨味が広がる。
青魚とは思えない濃厚な脂の味。
今まで漁で取られることもなく大海原を自由に生きていいたからこその味わいなのかもしれない。
もうユキムラの箸は止まらない、俺は人間機関車だぶおおん。
次は鯛に行ってしまおう、少し甘みのある醤油にちょんと漬けて口に放り込む。
ぐにっぐにっぐにっ
素晴らしい歯ごたえ、歯と顎が喜んでしまう。次の瞬間舌が鯛の旨味に締め上げられる。
「ほぁぁあああああああああ……」
淡白な味わい!? 馬鹿言っちゃいけない!
なんというパンチの有る旨味のクロスカウンター!
歯ごたえで歯を楽しませてからのこの濃厚な絡みつくような旨味。
絶対日本酒だ。誰がなんと言おうが辛口の日本酒だ。
「つ、次!!」
周囲の人たちもどんどんとその輪を縮めていく、ユキムラの表情があまりにもうまそうで恐る恐る近づいてきているのだ。
ユキムラは青柳に手を出す。
美しく輝くその橙の身がぷりっぷりとしている。
独特の匂いもたまらない、濃口の醤油に半身をつける。
そして勢い良く口にダイブさせる!
「ふおおおおおおぉぉぉぉぉ……」
貝独特の香りと濃厚な生命のエキスと旨味が舌を支配していく。
その支配に身を委ねるとほのかな苦味、いや、コクを与える旨味と言っていい。
これはビールだ。
隣に小柱の軍艦がある。これを食べるのは今だ。
手づかみで放り込む。
「ああ……磯の香り……」
海苔が凄い。少しすごすぎる、小柱の歯ごたえ、甘み、旨味、それらを持ってしても海苔が旨い。
そう感じてしまう。
これは、たまらない。
酢飯と海苔と小柱と醤油。
口の中でオーケストラを奏でている。
ユキムラの瞳から涙が一筋ホロリと落ちる。
それをきっかけに町人たちは刺し身に手を付ける。
!!!
絶句である。
今まで全く食べたことのない食感、そして圧倒的な美味しさ。
船一面に宝石のように散りばめられたすべての刺し身が違う美味しさを奏でる。
こんなに幸せな食べ物がこの世にあったことを今始めて知るのであった。
その後、舟盛りはゆうに5回転はすることになるのであった。
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