老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

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76話 クイーンスノーアント VS ソーカ

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【シャラララララララララ】



 威嚇音のような音を出しながら少し距離を取ってクイーンスノーアントがこちらの様子を見ている。

 ソーカもその異形に少し嫌悪感を覚えたが、日頃から言われている平常心を直ぐに取り戻す。

 タロはすでにいつでも行けるよ! と言わんばかりに構えている。



「行こう!」



 ソーカは一気に距離を詰める。

 

【ギシャー!】



 クイーンの雄叫びに合わせてボコボコと地面からバトルスノーアントが湧き出てくる。

 しかし、地面から出る。その隙をタロが見逃すはずもない。

 その真っ白な美しい被毛をオーラのような物が包み、急速に加速する。

 あっという間にアントたちの上半身と下半身をお別れさせてしまう。



 ソーカはタロの速さに驚きはしたが、その援護を利用して一気にクイーンに肉薄する。

 クイーンはムチのような前足を振るう、ビュオ! っと靭やかな前肢による攻撃がソーカのいた場所を打つ。

 すでにソーカはサイドステップでそれを避けているが、前肢の攻撃を受けた場所は鋭い切れ味で地面がえぐり取られている。

 アレをまともに受けるのは得策ではない。

 ソーカはユキムラがかけてくれた強化魔法バフによってかなり身体能力も強化されている。

 目にも止まらぬほどの速度のムチが無数に迫る中、確実にクイーンに傷を負わせていく。



 タロは正面はソーカに任せ、巨大な図体側と、湧いてくるバトルアントを相手に遊んでいるように戦っている。

 こちらは全く危なげがない、時たま振るった爪から強力な斬撃を飛ばしているようにも見える。

 流石タロだ。



「だいぶ慣れてきた。これなら……」



 ソーカは一層集中力をあげる。

 迫り来るムチの連続攻撃の中に強力な一撃を混ぜてくるクイーン、それに合わせる。

 目前に迫る攻撃をギリギリで弾く、同時に身体が動く!

 疾風のようにクイーンの脇を抜き胴のようにすり抜ける。

 ゴボォと嫌な音と共にクイーンの緑色の体液が脇の大きな傷から溢れ出す。



 【カタカタカタカタカタカタカタカタ】



 明らかに深い傷を受けて、クイーンは警戒音を激しく鳴らす。

 ズルリ、下半身部分の巨大な身体が外れる。

 それと同時にバッと、クイーンの巨体が後方へと飛び退く。



 頭部、胸部、腹部。

普通の巨大な蟻の身体へと変貌したクイーン。

 自らの生殖能力を一時犠牲にしての変態だ。

 正確な理科的な意味での変態は蝶においての蛹から蝶になるときなどの完全変態などの使われ方だが、変態でも変身でもいい。

 何にせよ、これで戦闘能力は先程までと比べ物にならないほどに上昇したことは間違いない。



「気をつけろよソーカ、ここからだぞ」

 

 ユキムラも大事な場面であることをソーカへと伝える。

 もちろんソーカには一片の油断もない、ユキムラもそれはわかっている。



「ガウ」



 先にタロがオーラに包まれた突進を見せる。

 今まで為す術なくその身を刻まれていたクイーンが、今までとは別次元の速度で避ける。

 タロも予想の範囲内で壁を蹴り、すぐに追撃をする。



 ガギン!!



 タロの爪からの斬撃が変身したクイーンの鎌のような前足の一撃と交差する。

 ギャリギャリと火花を散らすが、タロの斬撃を見事に防ぎ切る。

 先程のムチよりもソコに秘められた力の大きさが大きいことを表している。

 タロもタロで誘われるがままに体当たりで行かないところは流石の一言だ。



ソーカの装備はユキムラと同じロングソード、クイーンの2本の鎌の攻撃をどう躱しクリティカルを狙うか、必死に考えていた。

 その迷いが動きにも出てしまう。

 先程まで、もっと早いと言っても良かった攻撃を避けていたのに、今は回避に余裕がなくなっている。

 鎧を鎌の先端が引っかき大きな筋を入れられる。

 鎧の持つ自己再生で凹んだ部分はもとに戻るが、明らかに動きが悪い。



「ソーカ、俺の真似をしようとしなくていい。

 ソーカにはソーカの戦い方があるだろ?」



 ユキムラはソーカが何を考えているか理解していた。

 ソーカはユキムラと同じことをしようとしているんだ。

 敵からの攻撃を弾きクリティカルを入れる。

 決まれば確かに強力な攻撃だ、ただハイリスクなのだ。



 そして、この戦いかたは40年という積み重ねの上で出来上がった代物。

 昨日今日VOの戦闘スタイルを手に入れた者がどんな時でもどんな相手でも発揮することは、当然不可能だ。



 ソーカはユキムラの言葉で幾度となく繰り返した戦闘訓練を思い出す。

 ユキムラは様々な武器を使って戦闘を行う。

 その全てが超越した技術を持っている。

 その中でもソーカはある武器を用いたユキムラの戦闘に心を奪われ、そして必死に鍛錬を積んできていた。

 サリナにも特別に自分用の武器を作ってもらっているほどの熱の入れようだった。



「ユキムラさんは、なんでもわかっちゃうんですね」



 タロが牽制のような攻撃を繰り返してくれている。

 凄まじい速度で壁、床を利用して縦横無尽に攻撃を放つもクイーンの前腕による鎌の防御カーテンは抜けない。

 今、本当のソーカの独り立ちの戦いが始まる。



「震鳴剣 鈴蟲。参ります」



 ソーカは一本の刀を取り出す。

 ソーカが心を奪われた武器、それが日本刀であった。

 サリナ特製の一振り。

 ユキムラの放った一つの技、ソーカを一目で魅了し、脳裏へと焼き付けた技、居合斬りに特化した彼女専用の武器だ。

 ユキムラをしてもこの武器の本当の威力を引き出すことは出来ない。

 その一点だけならソーカはユキムラを超えている。

 鞘は黒に近い碧。柄や鍔は白に近い銀、静やかでそれでいて深く強い意志を感じさせるその姿。

まさにソーカを表しているような刀の姿だ。



 ソーカは体を捻り居合の構えを取る。

 女性としての柔らかさを最大限に活かし、鞘が背中越しに斬る相手に向かうほどの独特の全身を捻られた構え、ユキムラでも真似出来ない、筋肉の爆発的なしなりとスピード、それらが合わさった時、鈴蟲は本当の力を見せ彼女の居合を完成させる。



 ソーカは集中する。

 目の前のクイーン、それに自分。

 それ以外の存在がすべて消え去るような感覚を憶える。

 世界がスローモーションになる。

 タロの斬撃を時には避け、時には撃ち落とすクイーンに一見、隙はない。

 針の穴を通すような瞬間。その一点に全てを賭ける。



 ソーカの姿がブレる、タロの一撃を振り払った鎌を引き戻すその一瞬の隙に自らの身体をねじ込む。

 しかしクイーンも驚異的なスピードで引き戻した鎌を振り下ろしてくる。

 ソーカは更に身を捻り、より低身に構える。

 命を刈り取る鎌がわずか、頭上数ミリ上を掠かする。

 何層もの魔力による防壁が一瞬のうちに削られるが、その全てをソーカは気にも止めていない。

 全てはこの一太刀のため。



 りーーーーん



 鈴蟲が鳴くような独特の音が響く。

 場違いな物静かで美しい声おと、恐ろしい鈴蟲の真の力が発動した証だ。

 

 クイーンの脇をすり抜けたソーカ。

 掠ったこめかみから鮮血が華のように散る。



 手に持つその刀の刀身はりーーーんと音を立て揺らめいている様に見える。



 ずるり



巨大なクイーンの体がずれる。

 脇下から肩ぐりに抜ける逆袈裟斬り。

 コアごと完全に分断されたクイーンはその命の火を消した。

 

その瞬間、ソーカはユキムラから卒業し、1人の剣士となった。

 

 
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