老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

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96話 ダンジョン突入前夜

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 ギルドの応接室から出て受付前に戻ると、周囲の冒険者の視線がユキムラ達に集中しているのがわかる。

 ヴァリィがイケメン冒険者に投げキッスをしたらユキムラでも目視できない高速で目を逸らされて、ごく局地的な居心地の悪さは改善したが、それでも影でヒソヒソ話されるのは気分がよろしくない。



「今日この街に来たサナダ白狼隊と言います。

 明日からダンジョン探索を始めますので諸先輩方よろしくお願いします!」



 レンがささっと最高の笑顔で挨拶をしてくれる。

 女性陣はあら、可愛い。

男性陣もまぁわかってんじゃねーかって感じで悪い印象は与えない。

 こういう時に得なのである、可愛い系の男子は。



「ついでに外の白い子もパーティメンバーなんでかわいがってください」



 皆が、ああ~~。という感じで優しい目になる。

 動物好きに悪い人はいない。これは数少ない真理だと思う。

 行き過ぎると怖い人もいるが。



 こうしてギルドを後にした一行は、日が傾き涼しくなった街を歩く。

 

「タロもいるからテラスみたいなところで食事できる所が良いね」



 雰囲気の良さそうなお店を探す。たくさんの店があって絞るのは難しいが、大きなテラスを有するお店に決めた。

豪快な肉料理が売りのお店のようだ。

 

「なんか、ワイルドでいいですね!」



 ドーンと用意される肉の塊。これを好きなだけ切り分けて食べるというスタイルだ。

 流石冒険者の街だ。食事も量も大事! って言うお店が多そうだ。

 見た目のワイルドさからは想像できないほど、スパイシーでジューシーな深い味の食事に大変満足した。



 一旦町の外へ出て馬車から車へと進化した拠点へと戻る。

 

「えーっと、たぶんあのダンジョンは50階層。

 最終階は死霊系モンスターが出るので準備はしっかりとしていきます」



「ユキムラちゃんには驚かされ続けているけど、一応聞くわね。なんで分かるの?」



「来訪者としての知識だね。その知恵から言うんだけど。

 今回のダンジョンに入る前にこちらでヴァリィにパーティリーダーを任せます。

 それでダンジョンに侵入したら俺に戻します。

 これで安全性がだいぶ上がるはずだから」



「例のリーダーのレベルで魔物の強さが変化するダンジョンってやつですか?」



「そうだ、こういう入るたびに構造が変化するいくつかのダンジョンはそういう仕組みになっている」



「そんなの聞いたことがないわ……」



「もしかしたら、来訪者である自分と一緒に入る人だけかもしれないけどね。

 まぁ俺の想像と異なっていたら普通に攻略しちゃうつもりだから」



「ヴァリィさん、ダンジョン内でもこの車で寝られますから。お楽しみに」



 ソーカがいたずらっぽい笑みを浮かべながら衝撃的なことをヴァリィへ伝える。



「……もう、驚かないわ。ユキムラちゃん達に任せるわ」



「そーだヴァリィ装備確かめてみた? 直すとこあれば今日中に直すから一度装備してみてくれる?」



 ヴァリィはユキムラから棍と防具一式を与えられていた。

 ヴァリィの要望で防具は道着のような作りで要所にプロテクターがある軽鎧的な作りになっている。

 道着部分は白。これはユキムラのこだわりらしい。

 繊維一つ一つが炭素とミスリルによって作られたマジックカーボン繊維で作られている。

 プロテクター部分は炎のように赤く揺らめいている。

 これはミスリル合金によるゆらめきだ。

 棍は鋼、炭素粉、ミスリルの合金製で硬性と粘性を両立させている。



「ほんとに不思議な素材。これで防御力はとんでもないし、とんでもない効果付きなのよね?」



「そうだねぇ、打撃・斬撃攻撃耐性、魔法攻撃耐性、自然治癒力上昇、自己補修能力、状態異常回復、隠密行動はついてる。緊急時は防御結界展開もあるけど、これは死ぬ一歩手前じゃないと出ないよ」



「聞いたことないわよそんな鎧……」



「棍の方も張り切ったよ。属性変化、伸縮機構、所有者管理、自己補修能力、あとは魔力を込めると破壊力一時的にあげられるよ。込めるだけ上がるけどやりすぎてぶっ倒れないでね」



「こんな装備を持ってやられるわけにいかないわね。私頑張るわ」



「ヴァリィのレベル上げも兼ねているから期待してるよ、あとレンは3巻までもう頭に入れたよね?」



「うっ、はい。大丈夫だと思います……」



「そしたら5巻まで渡しとくからダンジョン中にしっかりと身につけようね」



「な!? ……はい……」



 レンも適性に合わせて装備が変わっている。

 以前は剣士と同じ装備だったが今はローブとスタッフ。

 もちろん両方共とんでもない効果が満載だ。



「ソーカは早いとこ刀を自分の手足のように使えるようになろうね。

 できればダンジョンクリアまでに一刀二刀両方マスターしようね。刀はもう一本作ってあるから」



「は、はい……」



 ソーカは愛刀 蒼華ともう一本、朱をイメージカラーにした 紅華をユキムラからもらっている。

 防具もスピードを活かす形でより軽装で動きやすい作りにはなっているが、防御力などは妥協なく作り込まれている。ちょっとニンジャちっくな鎧と言えば想像しやすいだろう。



 ヒソヒソとレンにヴァリィが耳打ちする。



「ねぇねぇ、ユキムラちゃん怖くない?」



「命にかかわることは一切妥協されないですよ師匠は。ヴァリィさん。頑張って!」



 ヴァリィは過酷な冒険になるであろうことを覚悟した。



「タロはいつもどおりでいいからなー」



 ワシワシとタロを撫でますユキムラ。レンとソーカがいいなぁって目で見つめるのでありました。





 消耗品、各種薬、食料など全て確認する。

 回復剤一つとってもこの世界には超高価なハイポーションしかないのに、エリクサーを99個揃えている。そんなレベルで万全を期している。

 もちろんヴァリィもアイテムボックスとフライングボードをもらっている。

 サナダ街の標準装備、ちょっと豪華版ってことになる。



 準備は万全。後は明日からの攻略に備えるだけだ。

 ユキムラは準備が終わると自室へ入ってあっさりと寝てしまった。



 ソーカなんかはダンジョン攻略という生死をかけた一大イベントを前に、こう、なんというか、男女の色々を覚悟していたのに拍子抜けもいいとこだった。

 まぁ、ユキムラはそういう男だったな。とパーティメンバーもリラックスして眠りの世界へと落ちていく事が出来たのでした。
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