老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

文字の大きさ
209 / 342

209話 慌ただしくも充実した日々

しおりを挟む
『あら、証拠ならあるわよ』



 突然の女神の来訪である。

 終始冷静だったアスリも目を見開いて驚いている。

 大きく慌てふためかなかっただけでも立派なものだ。



『はじめましてアスリさん。私は月の女神アルテス。

 ユキムラ達が貴方を説得するのに時間をかけていると間に合わなくなりそうなので、手伝いに来たの』



「こ、これは生きて女神様をこの目に見る日が来ようとは……」



『申し訳ないんだけど、貴方には私とあった記憶は消させてもらう。

 それでも『ユキムラの言っていることは真実』という事実は貴方の中に残るわ。

 いつも苦労かけているからそれくらいは手伝わないとね』



「ありがとうございますアルテス様、アスリさん、これで私の言うことが真実だとわかってもらえるようなので安心しました」



「ああ……疑いようもないな。せっかくの記憶が消えるのは残念だが、私は幸運だな」



『それじゃぁ、ユキムラ。頑張ってね』



 ユキムラ達がふわっと風を感じたと思うと、部屋の雰囲気は元の状態に戻っていた。

 さっきまでそこに女神がいた事の残滓も残っていない。



「……信用しよう。ユキムラ殿は嘘を申していない。GUも結界装置も、商会の開店も歓迎する」



 ユキムラ達は覚えているが、アスリは何も覚えていなかった。それでもユキムラは信用に値する。

 その気持は力強くアスリの中に芽生えて根付いていた。

 その後はスムーズに交渉は進み、アスリ達立ち会いのもとスムーズにGUや結界装置の設置も執り行われていった。

 アスリの街での信頼度は非常に高く、その人物が認めたならといろいろなことがスムーズに執り行われていった。



 ユキムラ達は呼び寄せた商会の人間と商店の立ち上げを行い、現地での人員も確保、周囲の採取ポイントの発見など、新しい街でのイベントを迅速にこなしていった。

 センテナからの通信で王都からの派兵が決まったと連絡が来るまで、ユキムラ達はせっせと街での信用を稼ぎ、内職生活に励んでいた。

 ユキムラたちも充実した内政生活、みるみる成長していく商店。

 どんどん改善されていく街の人々の生活に目尻が下がる幸せな日々だ。

 アスリは少なからず自分の力によってこの街を発展させた自負があった。

 それが僅かな時間で目に見えて改善されていくさまを見て、自らが天狗になっていたことに気が付かされた。

 ユキムラ達に持っていた最後の棘もそれによって完全に融解した。

 共に食事をして、酒を飲み、国の将来、世界の将来を語り合い、歳は違えどもユキムラのことを真の友と認めるようになるのに時間はかからなかった。

 彼もまた、この世界を本気でいいものに変えたいという野望を本気で信じていた男だった。



「どうやらセンテナの街から移送が開始されたようだ。

 5日後には王都へと到着。そこで改めて選定がされて、一週間後ぐらいに王都へつけるのが理想だね」



 ユキムラはセンテナの街からの通信を分析して今後の日程を組んでいる。

 既にウラスタの街は軌道に乗っており白狼隊はいつ出立しても問題はない。



「しかし、ここからフィリポネア城まで馬車を乗り継いでも2週間はかかる。

 すぐにでも出なければ行けないんじゃないか?」



 丁度アスリに夕食に招待されていたので、一緒に今後の予定も話しているところだった。



「うちの移動手段を使えば3日で到着できます」



 レンの答えに今更ながら白狼隊の異常性に驚くアスリ。



「あと南西のカフルーイ火山にあるダンジョンも攻略する」



「そんなところにダンジョンがあるとは報告はないが……ユキムラが在るというなら在るんだろうな」



 カフルーイ火山はウラスタ街の南西の端にある活火山で、周囲も細かな噴火が耐えることがない、ガスが出たり火柱が立っていたり、とても普通の人間が近づける場所ではない。

 ユキムラはVOの知識としてそこに洞窟が存在していることを知っている。



「王都へ移動して途中でダンジョンを攻略する。そして王都の防備を整える。

 出立は明日早朝を予定しています」



「ユキムラ、その旅に私は同行できるかな?」



 アスリの提案にユキムラは驚いてしまう。少なくともアスリは直接自身が戦うような人物とは思っていなかったからだ。



「ユキムラはわかりやすいな。これでも私は昔弓の腕は並ぶものなしと呼ばれていた。

 今でも鍛錬は怠っていない」



 確かにアスリの肉体は余分なものは全くないが研ぎ澄まされた肉体の持ち主だった。

 それに冷静沈着な正確を考えれば弓手として理想的な人物と言える。

 齢も50代後半とは言え年齢を感じさせない若々しさが在る。



「かなり苦痛が伴うものになると思いますが……」



「覚悟はできている」



 ユキムラの言う苦痛はどちらかと言えば急激なレベルアップに伴う苦痛を考えていた。



「わかりました。この国にとって貴方のような人間が力を手に入れてもらえるのはありがたい。

 出立は延期にしましょう。明日はアスリの装備を準備します」



 ユキムラは再びアスリの手をがっしりと握る。

 

 翌日ユキムラはアスリの実力を模擬戦で確かめ、装備品の方向性を見出す。

 アスリはユキムラの圧倒的戦闘力に絶句するしかなかった。

 見学をしていた衛兵たちもついでのように白狼隊から手ほどきを受けて改めてその実力に舌を巻くことになる。

 そして、GUに特訓モードが有ることを知って、嬉しさ半分、今後の訓練の難度に頭を悩ませる事になる。

 彼らの未来に幸多からんことを。

 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

yukataka
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...