老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

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335話 準備万端!

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 新時代の戦闘に苦労するのは当然ユキムラだ。

 その身に刻み込まれた年数を考えれば当然だ。

 しかし、この世界にきて長年戦い続け走り続けて、この世界に順応し、いい加減キーボードで操作をしているわけではないことはユキムラも気がついている。

 自分の動きをキーボードに当てはめて冷静に動く。

 相手の動きに合わせていつものVOのタイミングで身体を動かす。

 徹底した反復をこの世界でも続けてきた。



 つまり、基礎はこれ以上無いほどに蓄積されている。

 徹底した基礎を追い求めた姿、それがユキムラと言ってもいい。

 やるべきことをやるべきタイミングで行う。

 それを人生をかけて精度を上げたのがユキムラという存在だ。



「もう少しで何か掴めそうなんだけどな……」



「ちょ、ちょっとユキムラにーちゃん、休憩させて、もう何時間戦っていると……」



 戦闘では圧倒するものの、繰り返し繰り返し繰り返し戦闘を行っているエテルナは息も絶え絶えに休憩を要求する。

 ユキムラはフーっと息を整えると淡々ともう一戦行こうかと繰り返す。

 その姿が不気味でもある。



「ああ、ごめん気が付かなかった。少し休憩しようか」



 ダンジョン内部での訓練。外部時間をすすめることなく濃厚な訓練が可能になる。

 欠点としては外部との連絡が全く取れなくなるので、ユキムラは定期的に外に戻っている。

 エテルナも約束通りにダンジョンでの訓練を許されており、メキメキと成長中だ。

 自身で気に入っている十代後半くらいの年齢で外見は停止させているが、その中身はすでに世界最強。

 絶対的力を持つ魔王となっている。

 それでもユキムラに潜む、狂気とも思える向上心には怯えてしまう。

 負けても負けても淡々と修正して挑んでくる。

 ユキムラの成長よりもエテルナの成長が早いので負けはしないが、真綿で首を絞められるように、もしくは詰め路をじっくりと責められているかのように自分が追い込まれていくような感覚がある。



「ユキムラにーちゃん……どうしてそこまで頑張れるの?」



「うん? 楽しいから」



 即答だ。



「楽しいの? 負けてるのに?」



「どうして負けたのか、どうすれば次同じ状況にならないのか、選択肢は無限にあって、その中からバッチリはまった時とか気持ちよくない?

 実際の戦闘だったら負けたら命取りだけど、こうやって試せるってのは楽しいよ」



 本当に楽しそうにそう答えられてしまってはエテルナも返す言葉もない。

 ユキムラという人物はこういう人物だからユキムラなんだなと妙に納得してしまう。



「こういっちゃあれだけど、なんかここのところユキムラにーちゃん迷ってる……?

 なんか、はっきり言っちゃえば弱くなったよね」



「ははは、はっきり言うなぁ。

 そうだね。今全く新しい事やろうとしているから、俺の中で今までずっと築いていたものを根本から作り直すようなチャレンジしているから……でも、見えてきた気がする。

 俺だけの戦い方……」



 ユキムラの目はギラギラと燃えていた。

 マンネリ化したゲームを繰り返しているときには得られないトライアンドエラー、その作業が楽しくて仕方なかった。

 大型アップデートの直後のワクワクみたいな感じだ。

 自分の体の動きが自分の想像を超えるときの快感にどっぷりと嵌っている。

 

「肉体が若返るなんて、現実に起きるはずはないもんな……」



 この世界はやっぱりゲームで、ある日目を覚ますとあの部屋で目がさめるんじゃないか?

 ユキムラはその考えを捨て去ることは未だに出来ずにいた。

 この幸せな世界が自分の最初から生きている世界だったらどんなに素晴らしいか。

 そう、考えない日はなかった。

 得難い幸せを手に入れてしまうと、いつか取り上げられてしまうのではないかという恐怖は大きくなる。

 それでも、この世界を守って、この世界で生きていく。ユキムラはそう決めていた。



「さてと、もういっちょいこうかエテルナ……」



 その日、ユキムラは初めてエテルナから一本取ることに成功した。



「自分の中での最速のイメージが固まりすぎているから、その先の世界が見えなかったんだなぁ……」



 さらっととんでもないことを言っているユキムラに白狼隊メンバーはボーゼンだ。

 

「信じられないだろうけど、ユキムラにーちゃんはその考えで動きに着いてきたよ……」



「時間停止とは違うんですか?」



 すっかり影を潜めているが、VO時代のチートスキル、体感時間を10倍にするモード、現在でも敵がそれを使用してきたらタロがカウンターを放てるようになっている。



「いや、あれとは違うけど、言っちゃえばあの世界に普通の時間の流れで入るような物かなぁ……」



「いやいやいや、ユキムラちゃん、いくらなんでもそれは……マジなの?」



「マジですよーヴァリィちゃん……」



「……それはいくらなんでもユキムラさんだから出来るだけで……私たちは……」



「大丈夫、皆も俺と同じように基礎はしっかりあるんだから、後は思い込みを捨てること。

 もっと早く動けるって信じることだね!」



 精神論である。

 

「師匠が出来ると言うなら、きっと出来ると思います! 明日はよろしくエテルナ!」



「そうね、最初っからユキムラちゃんは無茶苦茶よね!」



「私も、やっります!」



「ワオン!!」



 効果は抜群だ。

 しかし、戦いに明け暮れてきた白狼隊、ユキムラを信じついてきたメンバーにとって、ユキムラが出来ると言えば新しい世界の扉を開いてしまうのだから恐ろしい。

 それぞれ苦労に苦労を重ねることになったが、圧倒的だった魔王エテルナとの差はみるみると縮んでいく。

 長く苦しい修行の日々の結果、白狼隊はとうとう戦闘においてVOの世界の先へとたどり着いたのだ。



「身体が勝手に動く感じよりも早い……ですね……」



 自分たち自身が信じられない世界。

 VOのシステムアシストによる動きでさえも、文字通り目にも留まらぬ動きだと確信していたが、その動きさえも知覚し、対応出来る世界があることに驚きと同時に興奮も覚えていた。



「嬉しいね、まだまだ突き詰められるんだね」



 特に、ユキムラの喜びはひとしおであった。

 これ以上、上がないゲームを淡々と何年、何十年と繰り返す日々に生きていた彼にとって、成長できるということはこの上のない幸せだった。

 

「ユキムラにーちゃんの仲間ってみんなおかしい……」



 全員の相手をさせられたエテルナが一番の被害者だろう。

 まだ若い魔王はスパルタというか逆スパルタというか、この特訓により猛烈に成長していた。

 三獣師は皆、国家運用のために奔走しており、魔王育成はユキムラに任せっぱなしになっていた。

 まさかその間に魔王はボロ雑巾のようにこき使われているとは心にも思わなかっただろう。

 こんな過酷な試練にエテルナが付き合ったのには理由がある。



「今日もありがとうエテルナ、今日は奮発したから好きなだけ食べていってね」



「ふおおおー! これがあるからやめられない!

 消耗するだけ消耗してからのこの食事!!」



 飯で釣られていた。



「おいしー! おいしー! やっぱりユキムラにーちゃん達の食事は最高なのです!」



 本当に幸せそうに食事を頬張るエテルナを皆ニコニコ見ている。

 全員の姪っ子みたいな存在になっている。

 食事が終わるとお腹をパンパンにして満足そうに転がっている。

 こうしていると世界最強の魔王にはとても見えない。

 かわいい女の子にしか見えないだろう。



「さて、そろそろこれからの予定を話さないとね……」



「門の向こうへの侵攻ですよね」



「女神様たちからの話だと、不気味なほど静からしい。

 つまり、向こう側の自分たちの世界で色々とやっているって考えるのが妥当だろね」



「あの悲劇を利用したロクでも無いことを考えてそうですね……」



「女神たちをして、アッチの空間はシステム的な介入が出来ないほど強固に守られているらしいから、何が起きてもおかしくない……それでも、壁を超えられた俺達ならそれなりに戦えると思う」



「あちしも行くー。あいつらにはきっちりお礼しないとね……」

 

 寝っ転がりながらも冷淡で抑揚のない言葉を発するエテルナ。

 自分にされた行為を思い出すとき、魔王としてのソレが漏れ出し、場の空気が冷える。

 怖い魔王様になりそうだ……



「俺ら6人の少数精鋭で敵の本陣に切り込む。

 この戦いを終えればこの世界に害意をもつ存在を駆逐できる。

 みんな、気合を入れていこう」



 決戦はしっかりと身体を休め、一ヶ月後に決行されることになった。

 そこまでに装備の最終調整、物資の確保、訓練の総仕上げとしてのMD攻略。

 やることは目白押しだ。

 長い戦いになるであろうから、ユキムラたちが不在時の対応などの打ち合わせなども含めて、一部の水漏れも許されないほどの濃密な打ち合わせが繰り返される。



 MDを次々に攻略していくと素材もどんどんと強化され装備も充実していく。

 白狼隊の装備もそれに合わせて強化され、可変機能に傾倒していきそうになるユキムラをヴァリィが抑えるのが大変だった。



 そのうち巨大な魔導兵器を作りそうですね、なんてレンが冗談を言った翌日に巨大GUを作ったりしたので、今では製造時はヴァリィが張り付いている。

 周囲の苦労も知らずにユキムラは開発に取り憑かれて、異常な勢いで装備を改良していた。

 可変構造は彼の心の炎を燃え上がらせ、VOでは成し得なかった様々な仕組みを組み込んでいた。



「ここに、こうして、あっ、すっごいなこれ。

 こういう時はこうなってー、クフフ、こんなことになったら驚くだろうなー……」



 ソーカもドン引きの有様になってしまっていた。

 作られるものは革新的で素晴らしいものであったことはユキムラの名誉のために記しておこう。



「さて、明日はとうとう門を起動する。全員準備は万全だね?」



 全員がしっかりと頷く。

 これ以上無いほどしっかりと準備は重ねてきた。

 あとは鬼が出るか蛇が出るか、何が出てもそれに対応できるだけの準備をしている。



「今日はゆっくりと休んで、明日から頑張ろう!」



 ユキムラの乾杯の音頭で旅立ち前の宴が開始される。

 どんちゃん騒ぎの大騒ぎではなく、主要なメンバーを集めての静かな食事会。

 白狼隊、最後の最強の相手との戦いの準備の総仕上げだ。

 この世界でユキムラが出会った、たくさんの人々との縁を改めて感じる。

 異世界の戦いを勝利で終え、もう一度皆が居るこの世界に帰ってくる。

 白狼隊のメンバーは強くそう誓うのでありました。



 
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