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(3)君の名は

地雷てんこ盛りの我が家

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 結局道路に敷いちゃったおっもぉーい掛け布団は、ふわふわさん(仮名)が持ってくださって。

「けっ、怪我人なのにホントすみませんっ!」

「多分ですけど……どこにも怪我なんてしてないので大丈夫です」

 布団越し、ふわふわさんからニコッと柔らかな笑顔を向けられて、助けるどころか助けられているのは自分ではないかと思ってしまった日和美ひなみだ。


「……お邪魔します」

「どうぞ、どうぞ。狭いところですがご遠慮なく」

 そこまで言って、寝室に置いてある秘密の本棚はなぞののことを思い出してヒヤリとした日和美だったけれど、まぁふわふわさんが和室――寝室――に入っていらっしゃらなければ問題ないかと思い直して。

 それでもやっぱりふわふわさんの美貌に惑わされて考えなし。
 地雷てんこ盛りの我が家へ彼を招き入れてしまったことを今更のように後悔せずにはいられない。

 日和美はそれを気取られないよう笑顔で取り繕いながら、我が家の構造に思いを巡らせる。


 日和美が住んでいるアパートは、北側にある玄関を入ってすぐがアイランドキッチンを備えた六畳ちょっとのダイニングキッチンで、そのすぐそば――東側――に水回りをまとめるためだろうか。キッチンと空間を二分にぶんする形で洗面所兼脱衣所やお風呂場、それからトイレなどが配置されていた。

 玄関からダイニングキッチンを真っ直ぐ南側に抜けた先にリビングにしている五畳半の洋間と、その右隣に万年床と趣味の本たちがズラリと並んだ六畳ほどの押入れ付きの和室。
 洋間と和室両方から出入りできる形で南側、道路に面した広めのベランダが横たわっていた。

 そんななので玄関を開けたらすぐ、真っ正面にベランダへと続く洋間リビング側の掃き出し窓が開けっ放しになっているのが見えて。
 当然と言うべきか、干そうと柵に立て掛けたまま放置された敷布団と、まだ持ち出せていないもう一枚の掛け布団が床に放置されているのまで丸見えになってしまっていた。

(ゲッ)

 そのことに内心青褪あおざめた日和美ひなみだったけれど、それでも不幸中の幸いだろうか。

 いま日和美たちが立っている台所側からは、日和美がひた隠しにしておきたいエッチな本てんこ盛りの和室寝室は見えない構造になっていた。

 ベランダに出て、和室の中をしげしげと覗き込んだり、リビングとの境目の引き戸を開けなければ大丈夫。


 そのことに一応ホッとしたものの、日和美だって自分が可愛い。危険はなるべく回避したい。


「あ、あの……ソレ」

 前述したように、ここはベランダが和室と洋室を繋ぐ形の構造になっているのだ。

 和室の方は、本が傷まないよう日中でも常時UVカットのレースカーテンを閉めていたけれど、それにしたって!と思ってしまった日和美ひなみだ。

 ふわふわさんには、手にした布団を即座に当たり障りのないに下ろして頂いて、〝秘密の花園〟に通じるベランダには近付いて欲しくない。


 それで、家に入るなり、ふわふわさんが手にした布団を指差したのだけれど――。

「はい、どこまで運びましょう?」

 曇りない天使みたいな表情でふわりと微笑まれて、毒まみれの日和美はグッと言葉に詰まってしまった。

(そっ、その笑顔は反則です!)


「これ、きっとベランダに干している最中だったんですよね? ――差し支えなければ、僕がこのままあそこまでお持ちしようと思うんですけど?」

 ふわふわさんがそう言って、布団越し。こちらを澄み切ったキュルルンとした眼差しで見詰めてくるから、日和美はキューッと心臓が握りつぶされそうに苦しくなってしまった。

「よ、よろしくお願いしますっ」

 本当は差し支えありまくりだと声を大にして叫びたい。
 いや、それを言わなくても、「そこまでして頂かなくても……」とクネクネとしなを作りながらお断り申し上げることだって出来たはずだ。

 なのに!
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