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(8)記憶の扉を開くカギ

日和美さん、ごめんなさい

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 その作者の本を中心にズラリと本が並んでいて。

 さすがにここまで「好き!」を感じさせられたら気になってしまうではないか。

 痛む頭を押さえながら何冊か手に取って表紙を見て。
 中世ヨーロッパの王侯貴族が身にまとっているようなきらびやかなドレスを着たヒロインや、いかにも王子さまでございと言った男たちが描かれた表紙に軽い嫌悪感を覚えてしまう。

(何でだろう。……僕はどうやらファンタジーものに拒絶反応があるみたいだ)

 表紙絵はそこまでファンタジーしていないものもあるにはあったけれど、タイトルを見るとどう考えてもそれっぽいのばかりだったから、結局犬の本みたいにページをめくる事もなく棚に戻したのだけれど――。

 何故か頭の中に、こういうジャンルの本はティーンズラブって言うんだっけ、と言う知識がふわりと舞い降りてきて、不破ふわは「おや?」と思わされる。

(僕は……何故そんなことを知ってるんだ?)

 ルティのことを思い出させてくれたことと言い、ファンタジーものに対する不可解な拒絶反応と言い、何故知っているのか分からないような妙な知識が突如降って来たことと言い……。

(この手のジャンルの本に触れたら何か思い出せるかも?)

 不破がそう思ってしまったのも無理はないだろう。

日和美ひなみさん、ごめんなさい……)

 不破ふわが昼食を食べるために、と日和美が置いて出てくれた千円札を握りしめると、不破は日和美の勤め先とは違う本屋に足を向けたのだった。

 そして出向いたその先で、不破はある人物と出会うこととなる――。


***


「あの……今、その本は不破さんの私物だって聞こえた気がしたんですけど……」
 ――何かの間違いですよね?

 そう続けようと戸惑いに揺れる瞳で不破を見詰めたら、「はい、確かにそう言いました」と信じられない言葉が返ってきて。

 日和美は思わず「嘘……」とつぶやいていた。

「男がこういう本を好きだと気持ち悪いですか?」

 途端悲しそうに眉根を寄せられて、今の「嘘」は決してそんな偏見から出た言葉ではないのだと、日和美は思いっきり首を横に振る。

「ちっ、違うんですっ。あ、あのっ。わ、私もっ……実はそういう本が大好きで……。でも大抵誰に話しても『ああ、エッチなやつね』って軽くあしらわれちゃってたから……。その、ひ、人に言うのはダメだと思い込んでて……それで……」

 最近は同性の友達にだってこういうTLが好きだとは言えなくなっていた日和美だ。
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