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(2)祠の先
これからどうなるの?
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「申し訳ありません! 私、失礼なことを」
慌ててその場にひれ伏した山女を、しかし辰は即座に手を引いて立たせると、「別に怒っちゃいない。それより山女。折角綺麗な着物を着ているんだ。そう再々地面に這いつくばるもんじゃない」とひざに着いた土まで払い落としてくれる。
「でも――」
「寧ろ俺は人に見えると言われるのが嫌じゃないんだ。だからそんな泣きそうな顔をしてくれるな」
そればかりか山女の言葉を遮るようにして、ポンポンと元気付けるように背中を撫でてくれた辰の大きな手からは、嘘偽りなどないように思えて。
山女は、神と言うのはもっと簡単に機嫌を損ねてしまう恐ろしいものだと思っていたから、辰の穏やかさに拍子抜けしてしまった。
「辰様は私が里で教え込まれた龍神様像とはまるで違っておられます」
山女にとってはいい意味での相違なのだけれど、だとしたら何故荒ぶる神を鎮めるみたいに、郷里では定期的に生贄などを捧げているのだろう?
「まぁ、俺は彼女とは違うからな」
そんな山女に辰がポツリとつぶやいた〝彼女〟とは一体誰を指すのだろうか?
聞いてみたいと思った山女だったけれど、辰が気持ちを切り替えるみたいに「いつまでも土間に立っているのは落ち着かん。履物を脱いで上がれ」と背中を押してきて、結局聞けず終いになってしまった。
***
辰は山女の手を引いて奥の畳敷きの場所まで誘うと、「さすがにこのままでは障りがあるな」とつぶやいた。
「さわり?」
山女がわけも分からず聞き返したら「お前は女子なのだから、いつも俺の目に晒されていては落ち着くまい?」と聞いてくる。
「え?」
「だからな、お前のために仕切りを作ってやらねば、と言っておるのだ」
「仕切り……」
今まで里長の家の片隅。
自分のための空間なんて与えられたことのなかった山女は、辰の言わんとする事がぴんと来なくて戸惑った。
胸が膨らみ始めても尚、着替えは皆のいる前で背中を向けて隠れるようにするのが当たり前だったのだ。
初潮が来たことにすぐ気付かれてしまったのだって、そういう環境の中で暮らしてきたからに他ならない。
そんな山女だ。いきなり自分だけの場所を与えてやろうと言われても、今一実感が湧かないのは当然だった。
「そんなにして頂かなくても……」
辰の気遣いが、馴染みがなさ過ぎてどうしていいか分からない。
「子供がそんなに畏まらずともよい。俺はお前の面倒を見ると言っただろう? 約束したからにはきっちり責任は果たす。寧ろ必要なものがあるなら遠慮なく言ってくれ。俺は女の事には疎いからな。言ってくれんと分かってやれん」
畳み掛けるようにそう告げられた山女は、辰の心遣いの数々に圧倒押されてただただ立ち尽くしてしまう。
と、トロリと股の間から経血の流れ出る感覚がして、思わず足にギュッと力を込めた。
「あ、あの……もし可能なら、その……端切れ布を幾枚か頂けたら助かります」
いつまでも婚礼衣装のままで居ることも窮屈に思えたけれど、それよりも今は血の穢れが外に漏れ出てしまうのを防ぐことが先決に思えて。
足を固く閉じたままそわそわと辰を見上げたら、「承知した」と頷かれた。
「しばし出てくるが、お前は決して外には出るな? 良いな?」
――出れば戻れなくなると念押しするように言い置いて扉を抜けて行く辰を見送ってから、山女はストンとその場にしりもちをついた。
(私、これからどうなるの?)
そんなことを思いながら。
慌ててその場にひれ伏した山女を、しかし辰は即座に手を引いて立たせると、「別に怒っちゃいない。それより山女。折角綺麗な着物を着ているんだ。そう再々地面に這いつくばるもんじゃない」とひざに着いた土まで払い落としてくれる。
「でも――」
「寧ろ俺は人に見えると言われるのが嫌じゃないんだ。だからそんな泣きそうな顔をしてくれるな」
そればかりか山女の言葉を遮るようにして、ポンポンと元気付けるように背中を撫でてくれた辰の大きな手からは、嘘偽りなどないように思えて。
山女は、神と言うのはもっと簡単に機嫌を損ねてしまう恐ろしいものだと思っていたから、辰の穏やかさに拍子抜けしてしまった。
「辰様は私が里で教え込まれた龍神様像とはまるで違っておられます」
山女にとってはいい意味での相違なのだけれど、だとしたら何故荒ぶる神を鎮めるみたいに、郷里では定期的に生贄などを捧げているのだろう?
「まぁ、俺は彼女とは違うからな」
そんな山女に辰がポツリとつぶやいた〝彼女〟とは一体誰を指すのだろうか?
聞いてみたいと思った山女だったけれど、辰が気持ちを切り替えるみたいに「いつまでも土間に立っているのは落ち着かん。履物を脱いで上がれ」と背中を押してきて、結局聞けず終いになってしまった。
***
辰は山女の手を引いて奥の畳敷きの場所まで誘うと、「さすがにこのままでは障りがあるな」とつぶやいた。
「さわり?」
山女がわけも分からず聞き返したら「お前は女子なのだから、いつも俺の目に晒されていては落ち着くまい?」と聞いてくる。
「え?」
「だからな、お前のために仕切りを作ってやらねば、と言っておるのだ」
「仕切り……」
今まで里長の家の片隅。
自分のための空間なんて与えられたことのなかった山女は、辰の言わんとする事がぴんと来なくて戸惑った。
胸が膨らみ始めても尚、着替えは皆のいる前で背中を向けて隠れるようにするのが当たり前だったのだ。
初潮が来たことにすぐ気付かれてしまったのだって、そういう環境の中で暮らしてきたからに他ならない。
そんな山女だ。いきなり自分だけの場所を与えてやろうと言われても、今一実感が湧かないのは当然だった。
「そんなにして頂かなくても……」
辰の気遣いが、馴染みがなさ過ぎてどうしていいか分からない。
「子供がそんなに畏まらずともよい。俺はお前の面倒を見ると言っただろう? 約束したからにはきっちり責任は果たす。寧ろ必要なものがあるなら遠慮なく言ってくれ。俺は女の事には疎いからな。言ってくれんと分かってやれん」
畳み掛けるようにそう告げられた山女は、辰の心遣いの数々に圧倒押されてただただ立ち尽くしてしまう。
と、トロリと股の間から経血の流れ出る感覚がして、思わず足にギュッと力を込めた。
「あ、あの……もし可能なら、その……端切れ布を幾枚か頂けたら助かります」
いつまでも婚礼衣装のままで居ることも窮屈に思えたけれど、それよりも今は血の穢れが外に漏れ出てしまうのを防ぐことが先決に思えて。
足を固く閉じたままそわそわと辰を見上げたら、「承知した」と頷かれた。
「しばし出てくるが、お前は決して外には出るな? 良いな?」
――出れば戻れなくなると念押しするように言い置いて扉を抜けて行く辰を見送ってから、山女はストンとその場にしりもちをついた。
(私、これからどうなるの?)
そんなことを思いながら。
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