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実感してしまいました

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日織ひおりさん、これからどうなさいますか?」

 時計をみると十四時を少し過ぎたところで。
 健二けんじさんと佳穂かほさんは最初からそう約束をなさっていたかのように、私達に別れを告げると、二人で連れ立ってどこかへお行きになられた。
 付き合っていらっしゃるのだから当然なんだけれど、お二人の後ろ姿を見送りながら、改めて“健二さんと佳穂さんはそういう御関係なのだ”と実感させられた気がして。

 修太郎しゅうたろうさんと一緒にいることを、もう健二さんに後ろめたく思う必要なんてないんだと、そう思ったらふいに涙がこみ上げてきた。

 鼻の奥がツンとして、慌てて目頭めがしらを押さえたら、修太郎さんに驚いた顔をされてしまう。

「ひ、日織、さんっ?」
 人通りの多いホテル一階ロビーでのことだったので、修太郎さんは私を慌てて人目から隠すように壁際に連れて行ってくださる。
「ご、ごめっなさっ」
 一度せきが切れてしまった涙腺はなかなか閉まってくれなくて。悲しいわけでも何でもないのに……むしろ嬉しくてたまらないくらいなのに……ついには呼吸まで乱れてしまって、私は自分の激情に翻弄ほんろうされて戸惑う。

「大丈夫ですよ、僕がついています」
 修太郎さんが優しく頭を撫でてくださるのが心地良くて、それが嬉しくてまた涙が追加されて。
 自分でもどうしていいか分からなくなってしまう。
 私の、よく分からない感情のたかぶりがおさまるまでたっぷり十五分間。
 その間、修太郎さんは通行人から私を隠すようにずっと壁になってくださっていた。

「修太郎さん、もう……」
 大丈夫です、と続けようとして、私はせっかく止まった涙が話した刺激でまた出てきてしまいそうになって、慌てて口を閉ざした。
 代わりにチョン……と修太郎さんのお洋服を引くと、一応に涙の止まった瞳で彼を見上げてから、小さくうなずいてみせた。
 修太郎さんはそんな私の顔を見ると、ホッとしたように肩の力をお抜きになられて、小さく「良かった……」とつぶやかれた。

 それから私の手をギュッと握っていらっしゃると、
「車に着くまでの間、もうしばらく頑張ってください」
 それだけおっしゃると、私の手を引いてゆっくりと歩き出される。
 時折私を引っ張りすぎていないか、チラチラと振り返りながら、歩調を合わせてくださるのが分かって、私はそんな修太郎さんにご迷惑をお掛けしないように一生懸命ついて行く。
 涙で泣き濡れた顔を上げるのは恥ずかしかったので、俯き加減で、しっかりと結ばれた手ばかりを見つめながら歩いた。

 ややして、ホテル地下の駐車場に停められた修太郎さんのお車にたどり着くと、彼は私を後部シートへいざなわれる。
 修太郎さんに導かれるまま奥側に詰めると、彼も私の横に乗り込んでいらして、扉が閉じられた。
 集中ドアロックがかかる音と同時に、ルームランプがゆっくりと明度を落としていくと、車内は薄暗い闇に包まれる。
「修、太郎さん?」
 薄暗がりの中、彼のお名前を呼ぶと同時に、修太郎さんが私をギュッと抱きしめていらした。
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