上 下
91 / 233
見くびっていてすみません?

4

しおりを挟む
日織ひおりさん、貴女はとても聡明そうめい女性かたです」

 抜けているとかぼんやりしているとか評されたことはあったけれど、聡明だと言われたことはなかったので、一瞬何を言われているのか分からなくてキョトンとする。

 ソウメイ……ソウメイ……と頭の中で繰り返してから、“僧名そうめい”?と変換して絶対違う、と頭を振る。

 それなのに。途端、頭の中に何人ものお坊さんが向かい合わせになって座られて、お一人お一人が自己紹介を始めてしまわれた。
 無意識に名乗られたお名前を「英信えいしんさんに明慧みょうけいさん……」と復唱してしまってから、自分の声に気付いて恥ずかしくなる。

「日織さん?」
 一人で真っ赤になってあたふたする私に、修太郎しゅうたろうさんが怪訝けげんそうなお顔をなさってから、それでも優しく私の頭をポンポン、と撫でてくださった。

庁舎職場でなければ抱きしめているところです。――日織さん、絶対今、変な想像してましたよね?」

 そう仰ってから、「本当に貴女って人は……」とお顔を覆われて吐息交じりにつぶやかれる。

「修、太郎さん?」
 呆れさせてしまったのかと心配して覗き込んだら、涙目になっていらして。

 肩を震わせながら必死に笑いを堪えておられた修太郎さんが、私と目があった瞬間、堪えきれないようにふっと頬を緩められて「英信えいしんさん、明慧みょうけいさんって……っ。もう、可愛いすぎて……いっそ、凶悪です……ッ」と大笑いしながら言われて。

 修太郎さんの言葉をお聞きした途端、恥ずかしくて「復唱禁止ですっ」と抗議してみたものの、こんな風に子供のようなお顔で笑われる修太郎さんを拝見するのは初めてで……。気がつくと、いつしか一緒に笑ってしまっていた。

(修太郎さんこそ、笑顔が可愛すぎますっ! 胸がギュッと苦しくなるくらい大好きです!)

 そう思ったけれど、悔しいので口に出して言うのはお預けにしておきます。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異常な日常「宇宙から君達が来た日」

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

思考

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:0

やり直しは別の人と

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:2,380

乙女ゲーム関連 短編集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,526pt お気に入り:155

幼馴染みを優先する婚約者にはうんざりだ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:426pt お気に入り:7,379

そらのとき。~雨上がりの後で~

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:2

幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:468pt お気に入り:4,498

貴方の子どもじゃありません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:26,905pt お気に入り:3,877

処理中です...