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14.光の庭と、影の種子
建前の手紙
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ランディリックはその様子を黙って見守りながら、(王都からの〝使者殿〟というのは、つまりこいつのことか)と内心で苦笑した。
「しかしランディ。相変わらず堅いな。お前が笑うトコ、俺はもう十年以上は見ていない気がするぞ?」
「笑う理由もないのにへらへらする方がおかしいだろ」
「そう言うと思った」
軽口を交わしたあと、ウィリアムは焚き火から手を離し、一歩ランディリックに近づいて声を落とした。
「――なぁランディ。どこか落ち着いたところで話せるか? 少し、込み入った話があるんだ」
その声音に、さっきまでの軽さはなかった。
ランディリックは黙ってうなずき、詰所を離れる。
ウィリアムがその背を追った。
風が止み、砦の旗が一瞬だけ静止する。
二人の背中を、灰色の空が見下ろしていた。
***
ヴァルム要塞内にあるランディリックの執務室は、石の冷たさそのものを閉じ込めたような空間だった。
厚い壁が外の風を遮り、唯一の暖源である暖炉がパチパチと時折火の粉をまき散らしながら部屋全体をなんとか外よりは温かく保っている。
壁には国境付近の詳細な地形図と、ニンルシーラ全体の地形図が張られている。執務机の片隅には報告書の山が積まれ、かろうじて半分ほど空いたスペースでランディリックが執務を執り行っているように見えた。
その少しばかり空いたスペースに、封蝋を割らず、下部をランディリック愛用の銀ナイフで綺麗に切り開けられた封書の中身が広げられていた。
ウィリアムはその机の前に、暖炉前へ置かれていた椅子を持って来ると、椅子の背に深緑の外套を掛けてからドカッと腰を下ろしてほっと息を吐いた。
「……王都より伝言を預かっている。陛下からじゃない。――皇太子殿下から、だ」
ランディリックはウィリアムの言葉に黙って顎を引き、手元に置かれた書簡へと視線を落とす。
紙面には、王都の書記官が丁寧に記した筆致が並んでいた。
内容は一見、穏やかで事務的なものだった。
――ニンルシーラの情勢報告、国境警備の維持、そして、ウールウォード家伯爵令嬢リリアンナ・オブ・ウールウォードの健やかな成長に対する祝意。
「随分と……形式的なものだな。それに……この書面にはアレクト様の意向なんて微塵もしたためられていない」
ランディリックがそう呟くと、ウィリアムは苦笑して肩を竦めた。
「まあ、それは表の文面だからな。お前も見て分かっただろうが、本来なら使者を立てて持って来るような手紙じゃない」
ウィリアムが言うように、この手紙の重要度はそんなに高くない。
もちろん国王からの正式な書簡なので、通常のものよりは扱いが丁寧だろう。だが、それにしたって本来ならば王城の書簡局で封を施されたあと、帝国通信院の中継を経てライオール邸へ届けられるという〝正規のルート〟で十分な内容なのだ。
今回こうしてウィリアムが直に持って来たりしなければ、ライオール邸に届けられたあと執事のセドリックが仕分けをして、ランディリック宛の信書だけを要塞へ転送してくるという形を取っていただろう。
それが、王都と辺境を結ぶ正式な書簡の流れだからだ。
だが、今回の封書はその道を通っていない。
王都を発ち、幾つもの中継駅を汽車で乗り継いだのち、雪原を越えて早馬に鞍を替え――。それでもなおウィリアムは、この手紙を自らの手でここへ届けた。
その時点で、これはただの書簡ではないとランディリックが察するには十分だった。
「本題は別にあるんだな?」
ランディリックが問えば、ウィリアムが「ああ……」とうなずいた。
「しかしランディ。相変わらず堅いな。お前が笑うトコ、俺はもう十年以上は見ていない気がするぞ?」
「笑う理由もないのにへらへらする方がおかしいだろ」
「そう言うと思った」
軽口を交わしたあと、ウィリアムは焚き火から手を離し、一歩ランディリックに近づいて声を落とした。
「――なぁランディ。どこか落ち着いたところで話せるか? 少し、込み入った話があるんだ」
その声音に、さっきまでの軽さはなかった。
ランディリックは黙ってうなずき、詰所を離れる。
ウィリアムがその背を追った。
風が止み、砦の旗が一瞬だけ静止する。
二人の背中を、灰色の空が見下ろしていた。
***
ヴァルム要塞内にあるランディリックの執務室は、石の冷たさそのものを閉じ込めたような空間だった。
厚い壁が外の風を遮り、唯一の暖源である暖炉がパチパチと時折火の粉をまき散らしながら部屋全体をなんとか外よりは温かく保っている。
壁には国境付近の詳細な地形図と、ニンルシーラ全体の地形図が張られている。執務机の片隅には報告書の山が積まれ、かろうじて半分ほど空いたスペースでランディリックが執務を執り行っているように見えた。
その少しばかり空いたスペースに、封蝋を割らず、下部をランディリック愛用の銀ナイフで綺麗に切り開けられた封書の中身が広げられていた。
ウィリアムはその机の前に、暖炉前へ置かれていた椅子を持って来ると、椅子の背に深緑の外套を掛けてからドカッと腰を下ろしてほっと息を吐いた。
「……王都より伝言を預かっている。陛下からじゃない。――皇太子殿下から、だ」
ランディリックはウィリアムの言葉に黙って顎を引き、手元に置かれた書簡へと視線を落とす。
紙面には、王都の書記官が丁寧に記した筆致が並んでいた。
内容は一見、穏やかで事務的なものだった。
――ニンルシーラの情勢報告、国境警備の維持、そして、ウールウォード家伯爵令嬢リリアンナ・オブ・ウールウォードの健やかな成長に対する祝意。
「随分と……形式的なものだな。それに……この書面にはアレクト様の意向なんて微塵もしたためられていない」
ランディリックがそう呟くと、ウィリアムは苦笑して肩を竦めた。
「まあ、それは表の文面だからな。お前も見て分かっただろうが、本来なら使者を立てて持って来るような手紙じゃない」
ウィリアムが言うように、この手紙の重要度はそんなに高くない。
もちろん国王からの正式な書簡なので、通常のものよりは扱いが丁寧だろう。だが、それにしたって本来ならば王城の書簡局で封を施されたあと、帝国通信院の中継を経てライオール邸へ届けられるという〝正規のルート〟で十分な内容なのだ。
今回こうしてウィリアムが直に持って来たりしなければ、ライオール邸に届けられたあと執事のセドリックが仕分けをして、ランディリック宛の信書だけを要塞へ転送してくるという形を取っていただろう。
それが、王都と辺境を結ぶ正式な書簡の流れだからだ。
だが、今回の封書はその道を通っていない。
王都を発ち、幾つもの中継駅を汽車で乗り継いだのち、雪原を越えて早馬に鞍を替え――。それでもなおウィリアムは、この手紙を自らの手でここへ届けた。
その時点で、これはただの書簡ではないとランディリックが察するには十分だった。
「本題は別にあるんだな?」
ランディリックが問えば、ウィリアムが「ああ……」とうなずいた。
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