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14.光の庭と、影の種子
アレクト殿下の意向
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「今回俺はさ、ここへ来るの、休暇扱いになってるんだよね」
「は?」
「アレクト様から秘密のお願い事をされてね、お前の顔を見るついでにこの手紙を届けるって体でそれ、預かって来てるんだよ」
「秘密のお願い?」
王城にいた頃、ちょいちょい悪さを仕掛けて来ていた皇太子アレクト・グラン・ヴァルドールの顔を思い浮かべたランディリックは自然と眉根を寄せてしまう。
「アレクト様絡みなんて、どうせろくでもないことだろ」
それでついそう口走ってしまったら、ウィリアムにクスクス笑われてしまった。
「俺もそう思うけどさ、まぁ……あれでも俺にとっては今や直属の上司だからね、逆らえないんだよ」
ウィリアムの吐息交じりの告白に、ランディリックは辺境伯を任じられて良かったと心底思う。
「大変だな」
「まぁね」
言いながら、ウィリアムは懐からもう一通、小ぶりな封書を取り出した。
深緑の封蝋には、皇太子アレクト・グラン・ヴァルドールの私印のみ。
双頭の鷹が翼を広げ、七芒星と橄欖の枝が刻まれている。
「アレクト殿下のご意向で、次のデビュタント――王都エスパハレで行われる式典に、マーロケリー国の皇太子、セレノ・アルヴェイン・ノルディール殿下を密かに招待するらしい。これはそのための書簡」
ランディリックのまなざしが鋭く動いた。
「……王命ではなく、皇太子の独断でか?」
「そうだ。オルディス陛下に知らせるつもりはないらしい」
オルディス・ヴァルター・ヴァルドール。アレクト皇太子の父親で、現イスグラン帝国王の名を出して、ウィリアムが短くうなずいた。
「もっとも、知らせたところで認められるわけがないのはお前も分かるだろう?」
オルディス国王は、マーロケリー国を侵略し、かつて二国がノルディア王国として一国だった頃のように、イスグラン帝国へ吸収することを理想として掲げている王だ。
国として認めるのも嫌だろうマーロケリー国の皇太子を、帝国挙げての祝賀会のひとつ、年に一度の若き貴族らの社交界――デビュタントになど招待するはずがない。
「ああ、有り得ないな」
「だからね、この件は極秘なんだよ。大きな声では言えないけどさ、アレクト殿下はマーロケリーと仲良くしたいんだとさ」
その理想は、父王とは真逆。マーロケリー国はマーロケリー国として、イスグラン帝国と同盟国になってくれたらいい、と本気で考えているらしい。
アレクトは狡猾な男なので、父王オルディスの前ではそんな素振りは微塵も見せていないそうだ。
現にランディリックも、今ウィリアムの口からそんな話を聞かされるまでは、皇太子がそんなことを考えているだなんて、思いもよらなかった。
「表向きは、あくまでも帝国内の若き貴族様の従者として王城へお越し頂く。この書簡はそのための指示書みたいなものだ」
いくら秘密裡とはいえ、実際には一国の皇太子が敵国へ入るのだ。護衛は必要不可欠だ。
だが、非公式の訪問である以上、セレノ殿下の身辺を公にマーロケリー国の兵士らが守るわけにはいかない。
「それはまた、大変な計画だね。けど……それと僕とに何の関係があるというんだ」
実際、ウィリアムにここまで言われて分からないランディリックではない。現にライオール邸には、今年、まさにそのデビュタントへ参加予定のリリアンナがいる。辺境伯の養い子で、マーロケリー国との国境ニンルシーラにいる、若き貴族の女性。これほど今回の計画におあつらえ向きの人間が他にいるはずがない。
だが、大切なリリアンナを巻き込むような計画を認めたくなくて、ついそんな分からずやな発言をしてしまった。
「は?」
「アレクト様から秘密のお願い事をされてね、お前の顔を見るついでにこの手紙を届けるって体でそれ、預かって来てるんだよ」
「秘密のお願い?」
王城にいた頃、ちょいちょい悪さを仕掛けて来ていた皇太子アレクト・グラン・ヴァルドールの顔を思い浮かべたランディリックは自然と眉根を寄せてしまう。
「アレクト様絡みなんて、どうせろくでもないことだろ」
それでついそう口走ってしまったら、ウィリアムにクスクス笑われてしまった。
「俺もそう思うけどさ、まぁ……あれでも俺にとっては今や直属の上司だからね、逆らえないんだよ」
ウィリアムの吐息交じりの告白に、ランディリックは辺境伯を任じられて良かったと心底思う。
「大変だな」
「まぁね」
言いながら、ウィリアムは懐からもう一通、小ぶりな封書を取り出した。
深緑の封蝋には、皇太子アレクト・グラン・ヴァルドールの私印のみ。
双頭の鷹が翼を広げ、七芒星と橄欖の枝が刻まれている。
「アレクト殿下のご意向で、次のデビュタント――王都エスパハレで行われる式典に、マーロケリー国の皇太子、セレノ・アルヴェイン・ノルディール殿下を密かに招待するらしい。これはそのための書簡」
ランディリックのまなざしが鋭く動いた。
「……王命ではなく、皇太子の独断でか?」
「そうだ。オルディス陛下に知らせるつもりはないらしい」
オルディス・ヴァルター・ヴァルドール。アレクト皇太子の父親で、現イスグラン帝国王の名を出して、ウィリアムが短くうなずいた。
「もっとも、知らせたところで認められるわけがないのはお前も分かるだろう?」
オルディス国王は、マーロケリー国を侵略し、かつて二国がノルディア王国として一国だった頃のように、イスグラン帝国へ吸収することを理想として掲げている王だ。
国として認めるのも嫌だろうマーロケリー国の皇太子を、帝国挙げての祝賀会のひとつ、年に一度の若き貴族らの社交界――デビュタントになど招待するはずがない。
「ああ、有り得ないな」
「だからね、この件は極秘なんだよ。大きな声では言えないけどさ、アレクト殿下はマーロケリーと仲良くしたいんだとさ」
その理想は、父王とは真逆。マーロケリー国はマーロケリー国として、イスグラン帝国と同盟国になってくれたらいい、と本気で考えているらしい。
アレクトは狡猾な男なので、父王オルディスの前ではそんな素振りは微塵も見せていないそうだ。
現にランディリックも、今ウィリアムの口からそんな話を聞かされるまでは、皇太子がそんなことを考えているだなんて、思いもよらなかった。
「表向きは、あくまでも帝国内の若き貴族様の従者として王城へお越し頂く。この書簡はそのための指示書みたいなものだ」
いくら秘密裡とはいえ、実際には一国の皇太子が敵国へ入るのだ。護衛は必要不可欠だ。
だが、非公式の訪問である以上、セレノ殿下の身辺を公にマーロケリー国の兵士らが守るわけにはいかない。
「それはまた、大変な計画だね。けど……それと僕とに何の関係があるというんだ」
実際、ウィリアムにここまで言われて分からないランディリックではない。現にライオール邸には、今年、まさにそのデビュタントへ参加予定のリリアンナがいる。辺境伯の養い子で、マーロケリー国との国境ニンルシーラにいる、若き貴族の女性。これほど今回の計画におあつらえ向きの人間が他にいるはずがない。
だが、大切なリリアンナを巻き込むような計画を認めたくなくて、ついそんな分からずやな発言をしてしまった。
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