ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する

鷹槻れん

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16.それぞれの屋敷で

主人はキミだ

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「今までは何も出来ていなかったかもしれないけど、これからは違うだろう? ね、リリー。僕が何のためにウィルに頼んで、キミが心地よく過ごすための人員を手配してもらったと思ってるの?」
「それは……」
 ただ単に、昔を懐かしんで涙するためでないのだけは確かだ。
「リリー。キミはこの四年間、クラリーチェ先生の元で沢山勉強をしただろう? 最初は戸惑うかも知れないが、身に着けた知識はきっと役に立つし、分からないことがあっても皆が助けてくれる。――もちろん、僕だってリリーのためなら何だってするつもりだ。だから自信を持って? ここの主人あるじは紛れもなくキミ――リリアンナ・オブ・ウールウォードだ」
 真摯な眼差しで見下ろされたリリアンナは、小さく頷いた。そんな二人のやり取りを、心配そうに見つめていたナディエルだったけれど、リリアンナのその言葉を聞いてホッとしたように肩の力を抜いた。
 それは目の前で二人のやり取りを見ていたラウにしても同じだったらしい。
「リリアンナ様、どうかこのラウめにご指示を」
 胸に手を当て、頭を下げる。
「あ、あの……じゃあ私、荷物を置いたらランディと一緒に庭を回りたい。さっきベルトンが言ってた、チュリーヌの花を……見に行きたいの」
 今は下がってしまった庭師の名を告げてそう言えば、
「かしこまりました。ではそのように手配いたしましょう」
 ラウがうやうやしく一礼をした。


***


 リリアンナは、ラウから指示を受けた侍女頭マルセラの案内を受け、ナディエル、ランディリックとともに屋敷内へ入る。入ってすぐ、玄関ホールから見渡せる位置に大きな階段があった。
 マルセラは二階の部屋へ皆を案内するつもりらしい。侍従らが、荷馬車から下ろしたランディリックとリリアンナの旅箱ヴァリスを捧げ持ち、一行のあとへ続く。
「リリアンナお嬢様は昔使っていらしたお部屋にご案内いたしますね。お付きの侍女様はそのお隣のお部屋、侯爵閣下様はお嬢様の向かいのお部屋を用意させて頂いています」
 リリアンナの使っていた部屋の向かい側の部屋は両親が使っていた部屋だ。リリアンナが一〇歳の時――両親の死をきっかけに叔父一家が移り住んできてからは、叔父のダーレンとその妻のエダが占拠してしまった。当然のように、リリアンナがいまから案内されようとしているかつての自室は、従妹のダフネに奪われた。
 そうしてリリアンナは――。
 ふと階段下にある物置部屋の扉に視線を向けて立ち止まってしまったリリアンナに、ナディエルが「お嬢様?」と声を掛ける。
「あ、な……なんでもないっ」
 言って階段を登り始めたリリアンナだったけれど、そこで過ごした二年間は地獄のようだった。
(お父様、お母様……)
 そのつもりはなくても、ウールウォード邸には色んな思い出が詰まり過ぎている。どうしても亡き両親のことを思い出して切ない気持ちになってしまった。
「リリー。無理に気持ちを押し殺す必要はないんだからね?」
 そんなリリアンナの心の機微を、ランディリックは見逃さない。ほんの少し身体をかがめるようにしてリリアンナの耳元でそうささやいてくる。
「ランディ」
 呼んで、潤んだ瞳でランディリックを見上げたら、革鞄マルレを持っていない側の手を優しく繋がれた。
 ナディエルは、そんな主人らの様子を数歩下がったところで見詰めながら、何も聞こうとはしなかった。きっと、リリアンナが話す気になったら、ポツポツとでも語ってくれるだろう。ナディエルはその時を待つつもりでいる。
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