ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する

鷹槻れん

文字の大きさ
111 / 144
18.勝者のつもりで

条件の話

しおりを挟む
 銀色の美しい髪色。感情を読ませない表情。
 紫水晶アメジスト色の静かな視線。

 ダフネは、軽く顎を引いた。

 それは遠慮でも畏怖いふでもない。
 身内になる者としての、形式的な礼だった。

(この人が、私の後ろ盾になる男)

 そう思った瞬間、胸の奥に小さな高揚が生まれる。

 ――ここから先は、条件の話。

 どう考えても優位に立っているのは自分なのだから、交渉だって有利に進められるはず。
 ダフネには勝者としてのゆとりがあった。


***


 ランディリックが一礼して室内に足を踏み入れると、執事は静かに扉を閉めた。
 部屋に残ったのは、四人だけ。
 応接セットの席はダフネの横しか空いていなかったが、だからだろうか。ランディリックは座ることなく立ったまま三人を見つめる。
「ランディ、座らないの?」
「長居をするつもりはない。このままで――」
(私以外の横が空いていたら座るつもりでしょう?)
 ダフネはちょっとムッとしながら、名案を思い付いた。

「セレン様、こちらにいらっしゃいませんか? ライオール侯爵様も、養女とはいえ、私の横だと落ち着かれないんだと思います」
「えっ」
 セレンが戸惑いの表情を浮かべるのを余裕の笑みで迎え撃つと、ダフネはさらに続けた。
「ライオール侯爵様も、お友達のペイン男爵様の横になら座りやすいと思うの」
 暗に、未婚の女性である自分の横へ座るのはためらわれるのでしょう? といったニュアンスを含ませてチラリとランディリックを見上げたダフネだったけれど、これまでならば嫌味のひとつくらいは確実に返してきそうなランディリックは、何も言い返してこなかった。
(ふふっ。今までさんざん私をコケにしてきた男がだんまりなの、いい気味ね!)
 そのことに気をよくしたダフネは、セレンの返事も待たずに彼の前へ置かれたティーカップとソーサーを自分の隣に移動させた。
 セレンが助けを求めるようにウィリアムとランディリックを交互に見遣ったけれど、二人ともダフネに頭が上がらないみたいに何も言わない。
 セレンは諦めたように席を立つと、ダフネの隣へ移動した。だが、せめてもの抵抗みたいに椅子の上の身体は、極限までダフネから離している。
「照れていらっしゃるの? かわいい方」
 その様にくすっと笑ったダフネだったが、セレンは何も答えてはくれなかった。
(まぁいいわ。どうせセレン様も私には逆らえないもの)
 今のセレンの移動劇で、それを確信したダフネである。

「さぁ、ライオール侯爵様、お座りください。立ったまま見下ろされるのは私、嫌ですの」

 まるで勝利宣言のようにそう言ってみたダフネに、やはりランディリックは何も文句を言わず、セレンが座っていた位置に腰掛ける。顔はポーカーフェイスを決め込んでいるが、内心ではきっと、はらわたが煮えくり返っているに違いない。
 それを思うと、ダフネは嬉しくてたまらない。
(ホント、楽しい♪)
 ダフネはつい笑ってしまいそうになる。それを素知らぬ顔で紅茶を一口飲んで誤魔化してから、ティーカップをソーサーに戻し、ゆっくりと背筋を伸ばした。

 相手を迎え入れる側として、十分に間を取ってから、再度口を開く。

「――本日はお時間をいただき、ありがとうございます。ライオール侯爵様。……いえ、お義父とう様と呼ぶべきかしら?」

 笑いそうになるのを必死にこらえていたダフネだったけれど、女優張りに声も表情も落ち着いていた。
 感情も、期待も、胸の内にきちんと仕舞い込んだまま、うまく切り出せている。
 対するランディリックも相当に不愉快だろうに、ダフネの言葉に何ら感情を表に出す様子がない。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

テイマーなのに獣人ばかりにモテすぎて困ってます!~彼女はまだツンデレ獣人に番認定されたことに気付いてない~

しましまにゃんこ
恋愛
リリアは、この春、アリシア王国で冒険者になったばかりのテイマーの女の子。早く冒険者として活動したいのに、まだ一匹もテイムすることができずに焦っている。 森に入れば触手に襲われ、街を歩けば獣人に襲われる無自覚天然ドジキャラのリリア。 そんなリリアを溺愛し、陰ながらこっそり見守る黒ヒョウ獣人のロルフは、いつもリリアに振り回されっぱなし。 実は二人の間にはある秘密が!? 剣と魔法、魔法道具が使えるファンタジーな世界で、テイマーとして活躍したい女の子と、好きなのに好きといえない獣人の男の子の、勘違い、溺愛、ジレジレ、時にヤンデレなドタバタ系ラブコメです! 『王女様は聖女様!?おてんば姫の冒険録~全属性の賢者、500年後に転生する!ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しにいきます!』と同じ世界です。今後「王女様~」のほうでも登場予定です。お楽しみに! 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 最終回まで予約投稿済みです。 毎日8時・20時に更新予定です。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

処理中です...