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18.勝者のつもりで
条件の話
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銀色の美しい髪色。感情を読ませない表情。
紫水晶の静かな視線。
ダフネは、軽く顎を引いた。
それは遠慮でも畏怖でもない。
身内になる者としての、形式的な礼だった。
(この人が、私の後ろ盾になる男)
そう思った瞬間、胸の奥に小さな高揚が生まれる。
――ここから先は、条件の話。
どう考えても優位に立っているのは自分なのだから、交渉だって有利に進められるはず。
ダフネには勝者としてのゆとりがあった。
***
ランディリックが一礼して室内に足を踏み入れると、執事は静かに扉を閉めた。
部屋に残ったのは、四人だけ。
応接セットの席はダフネの横しか空いていなかったが、だからだろうか。ランディリックは座ることなく立ったまま三人を見つめる。
「ランディ、座らないの?」
「長居をするつもりはない。このままで――」
(私以外の横が空いていたら座るつもりでしょう?)
ダフネはちょっとムッとしながら、名案を思い付いた。
「セレン様、こちらにいらっしゃいませんか? ライオール侯爵様も、養女とはいえ、私の横だと落ち着かれないんだと思います」
「えっ」
セレンが戸惑いの表情を浮かべるのを余裕の笑みで迎え撃つと、ダフネはさらに続けた。
「ライオール侯爵様も、お友達のペイン男爵様の横になら座りやすいと思うの」
暗に、未婚の女性である自分の横へ座るのはためらわれるのでしょう? といったニュアンスを含ませてチラリとランディリックを見上げたダフネだったけれど、これまでならば嫌味のひとつくらいは確実に返してきそうなランディリックは、何も言い返してこなかった。
(ふふっ。今までさんざん私をコケにしてきた男がだんまりなの、いい気味ね!)
そのことに気をよくしたダフネは、セレンの返事も待たずに彼の前へ置かれたティーカップとソーサーを自分の隣に移動させた。
セレンが助けを求めるようにウィリアムとランディリックを交互に見遣ったけれど、二人ともダフネに頭が上がらないみたいに何も言わない。
セレンは諦めたように席を立つと、ダフネの隣へ移動した。だが、せめてもの抵抗みたいに椅子の上の身体は、極限までダフネから離している。
「照れていらっしゃるの? かわいい方」
その様にくすっと笑ったダフネだったが、セレンは何も答えてはくれなかった。
(まぁいいわ。どうせセレン様も私には逆らえないもの)
今のセレンの移動劇で、それを確信したダフネである。
「さぁ、ライオール侯爵様、お座りください。立ったまま見下ろされるのは私、嫌ですの」
まるで勝利宣言のようにそう言ってみたダフネに、やはりランディリックは何も文句を言わず、セレンが座っていた位置に腰掛ける。顔はポーカーフェイスを決め込んでいるが、内心ではきっと、はらわたが煮えくり返っているに違いない。
それを思うと、ダフネは嬉しくてたまらない。
(ホント、楽しい♪)
ダフネはつい笑ってしまいそうになる。それを素知らぬ顔で紅茶を一口飲んで誤魔化してから、ティーカップをソーサーに戻し、ゆっくりと背筋を伸ばした。
相手を迎え入れる側として、十分に間を取ってから、再度口を開く。
「――本日はお時間をいただき、ありがとうございます。ライオール侯爵様。……いえ、お義父様と呼ぶべきかしら?」
笑いそうになるのを必死にこらえていたダフネだったけれど、女優張りに声も表情も落ち着いていた。
感情も、期待も、胸の内にきちんと仕舞い込んだまま、うまく切り出せている。
対するランディリックも相当に不愉快だろうに、ダフネの言葉に何ら感情を表に出す様子がない。
紫水晶の静かな視線。
ダフネは、軽く顎を引いた。
それは遠慮でも畏怖でもない。
身内になる者としての、形式的な礼だった。
(この人が、私の後ろ盾になる男)
そう思った瞬間、胸の奥に小さな高揚が生まれる。
――ここから先は、条件の話。
どう考えても優位に立っているのは自分なのだから、交渉だって有利に進められるはず。
ダフネには勝者としてのゆとりがあった。
***
ランディリックが一礼して室内に足を踏み入れると、執事は静かに扉を閉めた。
部屋に残ったのは、四人だけ。
応接セットの席はダフネの横しか空いていなかったが、だからだろうか。ランディリックは座ることなく立ったまま三人を見つめる。
「ランディ、座らないの?」
「長居をするつもりはない。このままで――」
(私以外の横が空いていたら座るつもりでしょう?)
ダフネはちょっとムッとしながら、名案を思い付いた。
「セレン様、こちらにいらっしゃいませんか? ライオール侯爵様も、養女とはいえ、私の横だと落ち着かれないんだと思います」
「えっ」
セレンが戸惑いの表情を浮かべるのを余裕の笑みで迎え撃つと、ダフネはさらに続けた。
「ライオール侯爵様も、お友達のペイン男爵様の横になら座りやすいと思うの」
暗に、未婚の女性である自分の横へ座るのはためらわれるのでしょう? といったニュアンスを含ませてチラリとランディリックを見上げたダフネだったけれど、これまでならば嫌味のひとつくらいは確実に返してきそうなランディリックは、何も言い返してこなかった。
(ふふっ。今までさんざん私をコケにしてきた男がだんまりなの、いい気味ね!)
そのことに気をよくしたダフネは、セレンの返事も待たずに彼の前へ置かれたティーカップとソーサーを自分の隣に移動させた。
セレンが助けを求めるようにウィリアムとランディリックを交互に見遣ったけれど、二人ともダフネに頭が上がらないみたいに何も言わない。
セレンは諦めたように席を立つと、ダフネの隣へ移動した。だが、せめてもの抵抗みたいに椅子の上の身体は、極限までダフネから離している。
「照れていらっしゃるの? かわいい方」
その様にくすっと笑ったダフネだったが、セレンは何も答えてはくれなかった。
(まぁいいわ。どうせセレン様も私には逆らえないもの)
今のセレンの移動劇で、それを確信したダフネである。
「さぁ、ライオール侯爵様、お座りください。立ったまま見下ろされるのは私、嫌ですの」
まるで勝利宣言のようにそう言ってみたダフネに、やはりランディリックは何も文句を言わず、セレンが座っていた位置に腰掛ける。顔はポーカーフェイスを決め込んでいるが、内心ではきっと、はらわたが煮えくり返っているに違いない。
それを思うと、ダフネは嬉しくてたまらない。
(ホント、楽しい♪)
ダフネはつい笑ってしまいそうになる。それを素知らぬ顔で紅茶を一口飲んで誤魔化してから、ティーカップをソーサーに戻し、ゆっくりと背筋を伸ばした。
相手を迎え入れる側として、十分に間を取ってから、再度口を開く。
「――本日はお時間をいただき、ありがとうございます。ライオール侯爵様。……いえ、お義父様と呼ぶべきかしら?」
笑いそうになるのを必死にこらえていたダフネだったけれど、女優張りに声も表情も落ち着いていた。
感情も、期待も、胸の内にきちんと仕舞い込んだまま、うまく切り出せている。
対するランディリックも相当に不愉快だろうに、ダフネの言葉に何ら感情を表に出す様子がない。
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