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21.名を持たない違和感
私の方を見ようとしなかった
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ウールウォード邸近くの道を、リリアンナはとぼとぼと歩いていた。
屋敷を出た時のことを、はっきりと思い出せない。
確か花売りの男の子がウールウォード邸を訪ねて来て、「外でリリアンナ様に花をプレゼントしたいと待っている人がいるから、お嬢様についてきて欲しい」と言っていると訴えられた。
執事のラウは「ライオール侯爵様に相談なさってからの方が」と言ったけれど、少年の、いかにも急いでいると逼迫した様子に、ついリリアンナはほだされてしまったのだ。
「大丈夫。ちょっと行ってすぐ戻ってくるだけだから」
今現在ウールウォード邸の主人はリリアンナだ。その人からそう告げられては、ラウも強くは言えなかったんだろう。
たまたまリリアンナの侍女ナディエルが彼女のそばを離れていることを懸念しつつも、
「分かりました。ですがすぐにお戻りください。社交会の支度がございます」
と渋々ながらも送り出してくれた。
てっきり、ペイン男爵か……もしくはかつて王都に住んでいた頃のリリアンナを知る知人からの訪問だと思っていたリリアンナだったけれど、少年に導かれるままについて行った先、物陰から姿を現したのはリリアンナが一番会いたくない相手、ダフネだった。
すぐに逃げようとしたけれど、リリアンナがダフネから花を受け取らないと花売りの少年は駄賃がもらえないんだろう。
不安そうにこちらを見上げる男の子の視線に、すぐさま踵を返すことができなかった。
仕方なく花だけ受け取ろうとしたのだけれど……。
ダフネはリリアンナに言いたいことがたくさんあったみたいで、矢継ぎ早に言葉を連ねてきた。
ダフネがいつの間にか、ダフネ・エレノア・ライオールになっていたこと。
ペイン邸でひとつ屋根の下にいる絡みで、セレン・アルディス・ノアール公と、男女の関係になったらしいこと。
――それらのことが、胸の奥に引っ掛かってしまっている。
(ランディ……私にはなんでも話してくれてると思ってたのに……)
養女の件は寝耳に水だった。
セレンにしても、誠実な人だと思っていたから、ダフネの言葉には心底驚かされた。
少なくとも、婚前にそういう関係を持つような方ではないと――、勝手に、自分と同じ価値観の人だと信じてしまっていたからだ。
もちろん、そんなのリリアンナの一方的な思い込みに過ぎないのだが、自分の人を見る目のなさを突きつけられたようで、なんだか無性に悲しかった。
――押し寄せる情報の荒波に、呆然としていたところへ、ある意味渦中の人――ランディリックが来た。
リリアンナはすぐにでもランディリックに説明をして欲しかった。
なのに――。
(ランディ、私の方を見ようとしなかった)
そんなことは今までにはなかったことだ。
ダフネの視線からリリアンナを庇うように間に割って入ってくれた時は期待してしまったけれど……。
結局ランディリックが手を引いた人間は、リリアンナではなくダフネだった。
それがすごくショックだった……。
気が付けば、リリアンナは人々が行き交う道の片隅で、ひとりぼっちで立っていた。
それから先は、まるで霧の中を歩いているみたいだった。
老執事のラウには、すぐ戻ると約束した。なのに無意識にウールウォード邸とは反対方向――ランディリックたちが歩き去った方へ歩き出してしまっていた。
だが、彼らはどうやら辻馬車か何かを拾ったらしく、視線を彷徨わせてみても、もうどこにも姿が見えなかった。
(私……なにしてるんだろう)
戻らなければ、と思うのに、足取りは重いままだ。
屋敷を出た時のことを、はっきりと思い出せない。
確か花売りの男の子がウールウォード邸を訪ねて来て、「外でリリアンナ様に花をプレゼントしたいと待っている人がいるから、お嬢様についてきて欲しい」と言っていると訴えられた。
執事のラウは「ライオール侯爵様に相談なさってからの方が」と言ったけれど、少年の、いかにも急いでいると逼迫した様子に、ついリリアンナはほだされてしまったのだ。
「大丈夫。ちょっと行ってすぐ戻ってくるだけだから」
今現在ウールウォード邸の主人はリリアンナだ。その人からそう告げられては、ラウも強くは言えなかったんだろう。
たまたまリリアンナの侍女ナディエルが彼女のそばを離れていることを懸念しつつも、
「分かりました。ですがすぐにお戻りください。社交会の支度がございます」
と渋々ながらも送り出してくれた。
てっきり、ペイン男爵か……もしくはかつて王都に住んでいた頃のリリアンナを知る知人からの訪問だと思っていたリリアンナだったけれど、少年に導かれるままについて行った先、物陰から姿を現したのはリリアンナが一番会いたくない相手、ダフネだった。
すぐに逃げようとしたけれど、リリアンナがダフネから花を受け取らないと花売りの少年は駄賃がもらえないんだろう。
不安そうにこちらを見上げる男の子の視線に、すぐさま踵を返すことができなかった。
仕方なく花だけ受け取ろうとしたのだけれど……。
ダフネはリリアンナに言いたいことがたくさんあったみたいで、矢継ぎ早に言葉を連ねてきた。
ダフネがいつの間にか、ダフネ・エレノア・ライオールになっていたこと。
ペイン邸でひとつ屋根の下にいる絡みで、セレン・アルディス・ノアール公と、男女の関係になったらしいこと。
――それらのことが、胸の奥に引っ掛かってしまっている。
(ランディ……私にはなんでも話してくれてると思ってたのに……)
養女の件は寝耳に水だった。
セレンにしても、誠実な人だと思っていたから、ダフネの言葉には心底驚かされた。
少なくとも、婚前にそういう関係を持つような方ではないと――、勝手に、自分と同じ価値観の人だと信じてしまっていたからだ。
もちろん、そんなのリリアンナの一方的な思い込みに過ぎないのだが、自分の人を見る目のなさを突きつけられたようで、なんだか無性に悲しかった。
――押し寄せる情報の荒波に、呆然としていたところへ、ある意味渦中の人――ランディリックが来た。
リリアンナはすぐにでもランディリックに説明をして欲しかった。
なのに――。
(ランディ、私の方を見ようとしなかった)
そんなことは今までにはなかったことだ。
ダフネの視線からリリアンナを庇うように間に割って入ってくれた時は期待してしまったけれど……。
結局ランディリックが手を引いた人間は、リリアンナではなくダフネだった。
それがすごくショックだった……。
気が付けば、リリアンナは人々が行き交う道の片隅で、ひとりぼっちで立っていた。
それから先は、まるで霧の中を歩いているみたいだった。
老執事のラウには、すぐ戻ると約束した。なのに無意識にウールウォード邸とは反対方向――ランディリックたちが歩き去った方へ歩き出してしまっていた。
だが、彼らはどうやら辻馬車か何かを拾ったらしく、視線を彷徨わせてみても、もうどこにも姿が見えなかった。
(私……なにしてるんだろう)
戻らなければ、と思うのに、足取りは重いままだ。
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