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特典④『春の味覚』

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「ねぇ花々里かがり、キミの皿には俺の割り当て分も入っていたの、気がついていたかい?」

 無防備に、ほろ苦いタラの芽の天ぷらに思いを馳せる花々里に歩み寄ると、そう言って彼女の手を取って、あごをすくい上げる。


「……より、つな?」

 戸惑いをあらわに、そんな俺を見上げてくる花々里の大きな瞳に、躊躇ためらいとともにほんの少し俺に対する情愛が含まれている気がするのは気のせいじゃないよね?

 ほんの少し前まではそんなの、微塵もなかったと思うんだけど、少しは俺のことを男として意識し始めてくれていると思ってもいいだろうか。


「タラの芽数個分の対価を、今もらっても構わないかな?」

 本当はそんなもの必要ない。

 だけど、こうでも言わないと、この子はなかなか触れさせてはくれないから。


 俺のことを雇い主だと言って譲らない花々里だから、こう言うふうに追い詰められるのに本当に弱い。


「何で……支払えばいい、の?」

 不安と戸惑いとほんの少しの期待にゆらゆらと揺れる花々里の濡れた瞳を見て、この子はなんて綺麗な目をしているんだろう、何てまつ毛が長いんだろう、と魅入られそうになる。


「そうだな。俺のタラの芽とりぶんを味わったその可愛い唇で、にキスしてくれるとかどうだろう?」

 チョンチョン、と自分の唇を指先で指し示したら、途端花々里かがりが真っ赤になって「そっ、そんなのっ、む、無理に決まってるっ」と大慌てで全否定するんだ。

 その全力でフルフルと首を振る仕草が、怯えた小動物みたいで本当に愛しくて。
 俺の花々里はなんて初心うぶでオクテなんだろうと微笑ましく思う。


「じゃあどこなら平気なのかな?」

 それでも対価をもらうことだけは譲れないんだよ?と言外に含めたら、ソワソワと泣きそうな顔で俺を見つめてきた。


「ほ……」

 ややしてポツンと小さくつぶやかれた声に、俺は全神経を傾ける。

「ほ?」


 聞き返したと同時、かすめるように花々里の柔らかな唇が頬に触れて。

 え?と思った時には「はい、おしまいっ!」とシャッターを降ろされてしまった。


 ねぇ、花々里、今ので終わりとか本気で言ってるの?


 俺はあまりの電光石火ぶりに一瞬固まって、でもすぐにいいことを思いついてニヤリとする。
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