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15.結葉、ごめん
〝二度目の〟一目惚れ
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(実際は諦める理由を見つけるために会うんですけどね)
とは到底言い出せなかった偉央だ。
だけど――見合いより先にややフライング気味に――会った〝自然体の〟結葉は、写真よりもはるかに美しかったし、偉央の予想を裏切って、嫌なところをひとつも見つけられなくて困ったのだ。
結葉の、今時珍しく一ミリも染められることなく自然な色合いを残したまま腰まで伸ばされた艶々の黒髪が、特に印象に残ったのを覚えている。
あの美しい黒髪に触れられる立場になれたなら、と希う気持ちを表に出さないよう必死に押し殺して、ゴールデンハムスターを連れてきた彼女の応対をしたのだ。
診察室に入るなり室内を興味津々な様子で見つめる結葉の姿を黙って見つめながら、すぐさま声をかけられなかったのは彼女の子供のようなキラキラした眼差しに目を奪われていたからだなんて、偉央は自分でも信じられなかった。
福助の飼育環境を確認するためともっともらしい理由をつけて、往診ついでに家まで行く約束まで強引に取り付け、あまつさえ病院の電話番号ではなく自分の個人的な携帯番号まで握らせてしまった――。
きっとそれが結葉でなかったなら、飼育環境なんて次に来た時に写真か動画を見せてください、で済ませていたと思う。
実際に結葉もそうしましょうか?と提案してきたのだ。
だけどそれを素直に受けることが出来ない程度には、偉央のなかで結葉はどうにかして縁を取り付けたい相手になっていた。
写真で一目惚れをした結葉に、偉央は初見で〝二度目の一目惚れ〟をした。
そうして見合いでその想いが揺るぎないものになったと確信させられた偉央は、勝ち目のない勝負だと分かっていて、強引に結葉に言い寄った。
結葉が自分の気持ちに応えてくれた車の中での一幕を、偉央は忘れたことがない。
目の前に、偉央には絶対に勝つことが出来ないと思っていた彼女の幼馴染みがいたにも関わらず、あの日結葉は自分を選んでくれたのだから。
心の底から結葉のことを大切にしたいと、あの夜自分は心に誓ったのではなかったのか。
「結葉、ごめん……」
意識のない結葉の髪にそっと触れると、偉央は唇を噛み締めた。
あんなに慈しみたいと願った結葉の美しい黒髪を、激情に駆られた自分がどんな風に酷く扱ったのか、記憶にないわけじゃない偉央だ。
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あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします。
今年一年が皆様にとって素敵な一年になりますように。
2022年1月1日 鷹槻れん
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とは到底言い出せなかった偉央だ。
だけど――見合いより先にややフライング気味に――会った〝自然体の〟結葉は、写真よりもはるかに美しかったし、偉央の予想を裏切って、嫌なところをひとつも見つけられなくて困ったのだ。
結葉の、今時珍しく一ミリも染められることなく自然な色合いを残したまま腰まで伸ばされた艶々の黒髪が、特に印象に残ったのを覚えている。
あの美しい黒髪に触れられる立場になれたなら、と希う気持ちを表に出さないよう必死に押し殺して、ゴールデンハムスターを連れてきた彼女の応対をしたのだ。
診察室に入るなり室内を興味津々な様子で見つめる結葉の姿を黙って見つめながら、すぐさま声をかけられなかったのは彼女の子供のようなキラキラした眼差しに目を奪われていたからだなんて、偉央は自分でも信じられなかった。
福助の飼育環境を確認するためともっともらしい理由をつけて、往診ついでに家まで行く約束まで強引に取り付け、あまつさえ病院の電話番号ではなく自分の個人的な携帯番号まで握らせてしまった――。
きっとそれが結葉でなかったなら、飼育環境なんて次に来た時に写真か動画を見せてください、で済ませていたと思う。
実際に結葉もそうしましょうか?と提案してきたのだ。
だけどそれを素直に受けることが出来ない程度には、偉央のなかで結葉はどうにかして縁を取り付けたい相手になっていた。
写真で一目惚れをした結葉に、偉央は初見で〝二度目の一目惚れ〟をした。
そうして見合いでその想いが揺るぎないものになったと確信させられた偉央は、勝ち目のない勝負だと分かっていて、強引に結葉に言い寄った。
結葉が自分の気持ちに応えてくれた車の中での一幕を、偉央は忘れたことがない。
目の前に、偉央には絶対に勝つことが出来ないと思っていた彼女の幼馴染みがいたにも関わらず、あの日結葉は自分を選んでくれたのだから。
心の底から結葉のことを大切にしたいと、あの夜自分は心に誓ったのではなかったのか。
「結葉、ごめん……」
意識のない結葉の髪にそっと触れると、偉央は唇を噛み締めた。
あんなに慈しみたいと願った結葉の美しい黒髪を、激情に駆られた自分がどんな風に酷く扱ったのか、記憶にないわけじゃない偉央だ。
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あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします。
今年一年が皆様にとって素敵な一年になりますように。
2022年1月1日 鷹槻れん
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