【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

文字の大きさ
154 / 228
28.初めての夜

サンリコのマイハモ

しおりを挟む
 明日も仕事があるからとせりが後ろ髪を引かれるようにしながら帰ってしまって、アパートにそうと二人取り残された結葉ゆいはだ。

 せりは食べたものの片付けまでしてくれたから、後は入浴を済ませて寝るだけ。


 そうは買ってきたばかりの布団を出して「これ、お前の、な? ホントは一旦干してからのほうがいいんだろうけど」と申し訳なさそうに眉根を寄せる。

「大丈夫だよ。そうちゃん」

 結葉ゆいははそんなにやわじゃないと自分では思っているのだけど、そうは昔から結葉ゆいはのことをこれでもかと言うくらい〝女の子扱い〟してくれて、チヤホヤしてくれるところがある。

 せりと一緒にヤンチャなことをしようとすると、すごく心配されたのを覚えている。


***


 小学三生の頃、近所の川に小一のせりと二人、スカートの裾をまくり上げて入っていたらそうにオロオロされまくったのを思い出した結葉ゆいはだ。

 小魚を狙ってせりと二人網を川に沈めるたび、

『そこ、ヌルヌルしてるから気を付けろ!』

 そう言って最上級生のそうが二人の後をくっ付いて右往左往して。

 余りにバチャバチャ歩き回るものだから、せりに『お兄ちゃん邪魔! お魚逃げちゃう!』と叱られて。

 『すまん』と謝りながらも結局すぐまた同じことを繰り返す。

 そうこうしていたら自分達を気遣っていたそうが、真っ先に転んでびしょ濡れになってしまった。

 せりと二人で大笑いしていたら、結局自分達も滑りやすいコケに足を取られて転んでびしょ濡れになって。

 三人で水を滴らせながら家路を急いだのを思い出す。

 あれは、まだ水浴びするには早い五月の中旬だった。

 あのあと、結局身体を冷やしてしまったのがいけなかったのか、結葉ゆいはは風邪をひいてしばらくの間、学校を休む羽目になって。

 そうが、申し訳なさそうな顔をして、何度も何度もお見舞いに来てくれたのを覚えている。


***


 そんなアレコレをふと思い出してクスッと笑ったらそう怪訝けげんな顔をされた。

「ごめんね。小さい頃のこと思い出しちゃって」

 言ったら、「どうせろくなことじゃねぇだろ」って憮然ぶぜんとされてしまった。

「小学生の頃、川遊びしてて三人で転んだことあったじゃない? あれを思い出しただけ」

 言ったら「いや、あれ、俺にとっては汚点だからな?」と溜め息をつかれてしまう。

 まぁ確かに妹たちを心配して自分が真っ先に転んだとか……そうとしてはいい思い出とは言い難いのかも知れない。

 そう思っていたら「あの後、お前熱出してしばらく休んだだろ。俺がもっとしっかりしてれば、ってめちゃくちゃ後悔したわ」とつぶやかれて、結葉ゆいはは思わずそうの顔を見つめてしまう。

そうちゃ……?」

 あの時も今も。
 そうはやっぱり変わらずずっと、結葉ゆいはのことを自分のこと以上に心配してくれる。

 そう思ったら胸がキュッと切なくなった。

「いつも……私のこと、気にしてくれて本当に有難う」

 その気持ちをお礼の言葉に託したら、そうがうつむいたまま短く「おう」と返してくれて。

 こっちを見ようとしないそうが、耳まで真っ赤にしているのに気付いた結葉ゆいはは、それに当てられて自分まで何だか照れてきて困ってしまう。

「あっ、あのっ、そうちゃん。わ、私も手伝うっ」

 袋の中から布団カバーなどを取り出すそうを見て、結葉ゆいははその恥ずかしさを跳ね飛ばすようにわざと明るい声で勢いよく手伝いを申し出て。

 一瞬驚いた顔をしたそうに、
「……じゃ、敷き布団のほう頼むわ」
 って、袋から取り出したばかりのカバーを渡された。


 受け取った薄桃色のカバーに描かれた絵柄を見て、結葉ゆいはは思わず笑ってしまう。

 結葉ゆいはが小さい頃にすごく好きで親にねだってはグッズを集めていた、サンリコのウサギキャラ、マイハーモニー柄だったから。

 サンリコはマイハモ以外にも沢山の人気キャラクターを展開している、女の子なら誰もが一つくらいはそのグッズを持っている有名なキャラクター企業だ。

 結葉ゆいは偉央いおと結婚する前は結構沢山のマイハモグッズに囲まれて生活していた。

 大人になってからは、別に熱心に集めていたわけではないけれど、ポーチとかシャーペンとか……可愛いなと思ったら何の気なしに買っていた感じ。

 ピンク色を基調としたふんわりした絵柄のマイハモは、見ているだけで気持ちが和んだから。

 でも……。
 そのグッズをそうが買っているところを想像すると、どうしても笑いが込み上げてきてしまう。

 余りにも似合わなさ過ぎて。


「――んだよ?」

 一人で笑っていたら、そうに不機嫌そうな声で問われて、結葉ゆいはは思わず肩を跳ねさせた。

「ごっ、ごめんね、そうちゃ……っ。かっ、カバーがマイハモだったからちょっと、そのっ、ぎゃ、しちゃって」

 言っているそばから笑ってしまって、うまく喋れなかった結葉ゆいはだ。
 それにギャップ萌えだなんて言ってしまったら、自分が何を想像して笑っているのかバレバレじゃない!と、すぐに失言だったと思ったけれど後の祭り。


「笑うな。俺だって買うの、すっげぇ恥ずかしかったんだからな?」

 今度こそそうが真っ赤になっているのがしっかり見えて、結葉ゆいははキュン、と胸が高鳴るのを感じずにはいられない。

そうちゃん、可愛い……)

 完璧主義の夫に対してはただの一度もそんなこと思ったことなかった。

 偉央いおのことは「かっこいい」と思うことはあっても「可愛い」だなんて感じさせられる要素は皆無だったから。


「お、前がっ、このキャラ好きだったな、って思い出したからこれにしただけで……」


 そういえば、今日一緒にショッピングモールに行った時にも、結葉ゆいはは百均でマイハモのグッズをひとつ買っていた。

 そうがアパートの合鍵をくれると言うから、その鍵につけるキーホールダーにひとつ、マイハモのを選んだのを思い出す。

 そうはそれを見て「そういえば」って思ってくれただけだと思う。


 そうが、一生懸命ゴニョゴニョと言い訳をしてくるところもまた、堪らなく愛しく思えてしまった結葉ゆいはだ。

 そうは基本的にはいつも優しくてカッコイイお兄ちゃんだ。

 だけど時々。
 そう、本当に時々。
 こんな風に照れて可愛らしいところを見せてくれて、それが結葉ゆいはにはすごく魅力的に思えてしまう。

 何年も離れていたけれど、やっぱりそうちゃんはそうちゃんだ、と改めて実感させられて。

 結葉ゆいははそれだけで心がほんのりと温かくなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】経理部の女王様が落ちた先には

Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位 高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け ピンヒールの音を響かせ歩く “経理部の女王様” そんな女王様が落ちた先にいたのは 虫1匹も殺せないような男だった・・・。 ベリーズカフェ総合ランキング4位 2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位 2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位 関連物語 『ソレは、脱がさないで』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位 『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

私を抱かないと新曲ができないって本当ですか? 〜イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い〜

入海月子
恋愛
「君といると曲のアイディアが湧くんだ」 昔から大ファンで、好きで好きでたまらない 憧れのミュージシャン藤崎東吾。 その人が作曲するには私が必要だと言う。 「それってほんと?」 藤崎さんの新しい曲、藤崎さんの新しいアルバム。 「私がいればできるの?私を抱いたらできるの?」 絶対後悔するとわかってるのに、正気の沙汰じゃないとわかっているのに、私は頷いてしまった……。 ********************************************** 仕事を頑張る希とカリスマミュージシャン藤崎の 体から始まるキュンとくるラブストーリー。

お前が愛おしい〜カリスマ美容師の純愛

ラヴ KAZU
恋愛
涼風 凛は過去の恋愛にトラウマがあり、一歩踏み出す勇気が無い。 社長や御曹司とは、二度と恋はしないと決めている。 玉森 廉は玉森コーポレーション御曹司で親の決めたフィアンセがいるが、自分の結婚相手は自分で決めると反抗している。 そんな二人が恋に落ちる。 廉は社長である事を凛に内緒でアタックを開始するが、その事がバレて、凛は距離を置こうとするが・・・ あれから十年、凛は最悪の過去をいまだに引き摺って恋愛に臆病になっている。 そんな凛の前に現れたのが、カリスマ美容師大和颯、凛はある日スマホを拾った、そのスマホの持ち主が颯だった。 二人は惹かれあい恋に落ちた。しかし凛は素直になれない、そんなある日颯からドライブに誘われる、「紹介したい人がいるんだ」そして車から降りてきたのは大和 祐、颯の息子だった。   祐は颯の本当の息子ではない、そして颯にも秘密があった。

看取り人

織部
ライト文芸
 宗介は、末期癌患者が最後を迎える場所、ホスピスのベッドに横たわり、いずれ訪れるであろう最後の時が来るのを待っていた。 後悔はない。そして訪れる人もいない。そんな中、彼が唯一の心残りは心の底で今も疼く若かりし頃の思い出、そして最愛の人のこと。  そんな時、彼の元に1人の少年が訪れる。 「僕は、看取り人です。貴方と最後の時を過ごすために参りました」  これは看取り人と宗介の最後の数時間の語らいの話し

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

【完結】東京・金沢 恋慕情 ~サレ妻は御曹司に愛されて~

安里海
恋愛
佐藤沙羅(35歳)は結婚して13年になる専業主婦。 愛する夫の政志(38歳)と、12歳になる可愛い娘の美幸、家族3人で、小さな幸せを積み上げていく暮らしを専業主婦である紗羅は大切にしていた。 その幸せが来訪者に寄って壊される。 夫の政志が不倫をしていたのだ。 不安を持ちながら、自分の道を沙羅は歩み出す。 里帰りの最中、高校時代に付き合って居た高良慶太(35歳)と偶然再会する。再燃する恋心を止められず、沙羅は慶太と結ばれる。 バツイチになった沙羅とTAKARAグループの後継ぎの慶太の恋の行方は? 表紙は、自作です。

子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜

珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。 2匹の怪獣さんの母です。12歳の娘と6歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。 毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...