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31.大切な連絡
ゆいちゃん、何かあった?
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***
アメリカに住む両親との連絡は、コミュニケーションアプリのラインを介して行うことにした結葉だ。
マンションにいた頃は、偉央が固定電話から両親へ電話してくれていたけれど、あの家を出た今、同じようにすることは不可能だったから。
美鳥の携帯番号も、茂雄のものも、予め知っていたから、想に手伝ってもらって電話番号によるアカウント検索をして、友達登録申請をした。
あちらの二人にとっては、結葉の新しい携帯番号は初見になるので、想にお願いして、前もって自分の新しい番号を連絡してもらっておいた結葉だ。
ニューヨークと日本の時差はおよそ十三時間。
こちらの方があちらより半日ちょっと進んでいる感じだ。
時刻はいま二二時過ぎ。あちらは朝の八時頃だろうか。
父・茂雄はきっと仕事中か、もしくは通勤途中か何かなんだろう。
家にいると思われる美鳥はすぐに既読になったけれど、想のメッセージ自体、茂雄の方は未読のままとのことで。
(朝の忙しい時間だもん。仕方ないよね)
そう思って、(お父さんとは、いますぐ連絡を取ることは無理かな?)と諦めた結葉だ。
とりあえず、想のメッセージをすぐに読んでくれて、結葉からの申請に対しても割とすんなり追加をしてくれた美鳥と先に話そうかな、と思って。
でも――。
今回結葉が両親と連絡を取るための手段を構築した理由は、偉央とのことを話さねばならないからに他ならない。
内容が内容なだけに、どう切り出したらいいのか分からなくて、なかなか音声通話のボタンがタップ出来ない結葉だ。
繋がったばかりの美鳥の連絡先をじっと見詰めたまま止まってしまっていた。
と、手にしたままだったスマートフォンが着信を知らせてきて。
見れば、結葉がなかなか通話ボタンを押せずにいた母・美鳥からの、アプリを介した音声通話のリクエストだった。
想の部屋で、慣れないラインの設定などを教わりながらの作業途中だった結葉は、美鳥からの着信に飛び上がるほど驚かされる。
不安に駆られた目で想を見詰めたら、「大丈夫だ」と励ますように小さく頷いてくれて。
気を遣ってくれたのか、そのまま自室を出て行こうとする。
結葉はそんな想の服の裾をギュッと握って引き留めると、そのままここにいて欲しいと意思表示してから、緊張に震える手で応答ボタンをタップした。
母親と話すだけなのに、一人にされるのが、何だか凄く不安だったのだ。
「――もしもし?」
恐る恐る音声通話を受けたと同時、美鳥が『ゆいちゃん、……何かあった?』と何の前置きもなしに単刀直入に切り込んでくる。
「えっ、あ、あのっ――」
きっと、いきなり電話番号が変わって。その上その連絡を偉央ではなく想がしてきたことが美鳥を不安にさせたのだろう。
そんな美鳥の懸念は間違いなく正しくて――。
母に心配をかけてしまったことが、申し訳なくて堪らないと思ってしまった結葉だ。
その上、いまから更に母を悲しませるであろうことを、自分は告げねばならないのだ。
そう思うと苦しくて苦しくて仕方がなくなってくる。
「あ、あの、あのね……」
不安と絶望に苛まれて、ヒュッと喉の奥で息が詰まる感じがして、何かを言わねばと紡いだ声が情けないくらいに震えていて。
そのことにどんどん追い詰められるように、結葉はブルブルと身体を震わせた。
それを押さえようと頑張れば頑張るほど、腿の上に乗せた、スマートフォンを持っていない方の手まで、無意識に真っ白になるぐらい力を入れて握りしめてしまう始末。
結葉は、背中を嫌な汗が伝うのを感じた。
そんな結葉を見かねたのか、想が手を伸ばして、血の気がなくなるぐらい強くギュッと拳を作ってしまっていた結葉の手を、そっと包み込んでくれる。
想の、温かくて大きな手のひらの感触に、結葉は一瞬だけビクッと身体を跳ねさせると、でも少しずつ、少しずつ……平常心を取り戻していった。
『……ゆいちゃん?』
電話口、明らかに動揺している様子の娘の気配に、美鳥が心配そうに呼びかけてきて。
結葉はスマートフォンを一旦口元から離すと、一度だけ大きく深呼吸をした。
「――ごめんなさい、お母さん。心配を掛けて」
次に電話を耳に当てたときには、結葉の声はさっきみたいに震えたりしていなかった。
***
家の管理を任せている、お隣の山波建設の長男坊――山波想から、スマートフォンにメッセージが入ったのは、丁度主人である茂雄を仕事に送り出してしばらくしてのことだった。
スマホに表示された時刻を見ると、八時過ぎ。
日本はここ――ニューヨークより十四時間ばかり進んでいるはずだから、夜の二二時くらいだろうか。
あちらが朝でこちらが夜、なら家に何かあったのかしら?と思えるところだけれど、残念ながらそうじゃない。
「――?」
不思議に思いながらメッセージを開いてみると、『結葉さんの電話番号が変わりました。新しい番号は――』というメッセージで。
何故夫の偉央さんからではなく、お隣の想くんが?とますます疑問が募った美鳥だ。
スマートフォンを握りしめたまま、とりあえず娘の結葉が新しく変えたという番号を、自分のスマホに登録し直した。
番号を変えたということは、いつも結葉が手にしていた、あの小さな携帯は通じなくなってしまったということだろうか?
そんなことを思いながら画面を見つめていたら、またメッセージアプリからの通知が入る。
アメリカに住む両親との連絡は、コミュニケーションアプリのラインを介して行うことにした結葉だ。
マンションにいた頃は、偉央が固定電話から両親へ電話してくれていたけれど、あの家を出た今、同じようにすることは不可能だったから。
美鳥の携帯番号も、茂雄のものも、予め知っていたから、想に手伝ってもらって電話番号によるアカウント検索をして、友達登録申請をした。
あちらの二人にとっては、結葉の新しい携帯番号は初見になるので、想にお願いして、前もって自分の新しい番号を連絡してもらっておいた結葉だ。
ニューヨークと日本の時差はおよそ十三時間。
こちらの方があちらより半日ちょっと進んでいる感じだ。
時刻はいま二二時過ぎ。あちらは朝の八時頃だろうか。
父・茂雄はきっと仕事中か、もしくは通勤途中か何かなんだろう。
家にいると思われる美鳥はすぐに既読になったけれど、想のメッセージ自体、茂雄の方は未読のままとのことで。
(朝の忙しい時間だもん。仕方ないよね)
そう思って、(お父さんとは、いますぐ連絡を取ることは無理かな?)と諦めた結葉だ。
とりあえず、想のメッセージをすぐに読んでくれて、結葉からの申請に対しても割とすんなり追加をしてくれた美鳥と先に話そうかな、と思って。
でも――。
今回結葉が両親と連絡を取るための手段を構築した理由は、偉央とのことを話さねばならないからに他ならない。
内容が内容なだけに、どう切り出したらいいのか分からなくて、なかなか音声通話のボタンがタップ出来ない結葉だ。
繋がったばかりの美鳥の連絡先をじっと見詰めたまま止まってしまっていた。
と、手にしたままだったスマートフォンが着信を知らせてきて。
見れば、結葉がなかなか通話ボタンを押せずにいた母・美鳥からの、アプリを介した音声通話のリクエストだった。
想の部屋で、慣れないラインの設定などを教わりながらの作業途中だった結葉は、美鳥からの着信に飛び上がるほど驚かされる。
不安に駆られた目で想を見詰めたら、「大丈夫だ」と励ますように小さく頷いてくれて。
気を遣ってくれたのか、そのまま自室を出て行こうとする。
結葉はそんな想の服の裾をギュッと握って引き留めると、そのままここにいて欲しいと意思表示してから、緊張に震える手で応答ボタンをタップした。
母親と話すだけなのに、一人にされるのが、何だか凄く不安だったのだ。
「――もしもし?」
恐る恐る音声通話を受けたと同時、美鳥が『ゆいちゃん、……何かあった?』と何の前置きもなしに単刀直入に切り込んでくる。
「えっ、あ、あのっ――」
きっと、いきなり電話番号が変わって。その上その連絡を偉央ではなく想がしてきたことが美鳥を不安にさせたのだろう。
そんな美鳥の懸念は間違いなく正しくて――。
母に心配をかけてしまったことが、申し訳なくて堪らないと思ってしまった結葉だ。
その上、いまから更に母を悲しませるであろうことを、自分は告げねばならないのだ。
そう思うと苦しくて苦しくて仕方がなくなってくる。
「あ、あの、あのね……」
不安と絶望に苛まれて、ヒュッと喉の奥で息が詰まる感じがして、何かを言わねばと紡いだ声が情けないくらいに震えていて。
そのことにどんどん追い詰められるように、結葉はブルブルと身体を震わせた。
それを押さえようと頑張れば頑張るほど、腿の上に乗せた、スマートフォンを持っていない方の手まで、無意識に真っ白になるぐらい力を入れて握りしめてしまう始末。
結葉は、背中を嫌な汗が伝うのを感じた。
そんな結葉を見かねたのか、想が手を伸ばして、血の気がなくなるぐらい強くギュッと拳を作ってしまっていた結葉の手を、そっと包み込んでくれる。
想の、温かくて大きな手のひらの感触に、結葉は一瞬だけビクッと身体を跳ねさせると、でも少しずつ、少しずつ……平常心を取り戻していった。
『……ゆいちゃん?』
電話口、明らかに動揺している様子の娘の気配に、美鳥が心配そうに呼びかけてきて。
結葉はスマートフォンを一旦口元から離すと、一度だけ大きく深呼吸をした。
「――ごめんなさい、お母さん。心配を掛けて」
次に電話を耳に当てたときには、結葉の声はさっきみたいに震えたりしていなかった。
***
家の管理を任せている、お隣の山波建設の長男坊――山波想から、スマートフォンにメッセージが入ったのは、丁度主人である茂雄を仕事に送り出してしばらくしてのことだった。
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「――?」
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