【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

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32.偉央の泣き言と結葉の内緒ごと

たまにはこういう朝食もいいでしょう?

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 純子は朝食作りのため、毎朝大体決まって五時半に起きてくる。
 一方せりはお弁当を作る日は五時半起きだけれど、そうでない日は六時過ぎまで寝ているといった感じでまちまちだ。

 結葉ゆいははいつも五時には起きてゴソゴソしているので、今朝も一番乗りで台所にいても、誰にも怪しまれなかった。


「おはよぉ、結葉ゆいはちゃん。今朝も早起きさんだね~。もぉめっちゃいい匂いしてるとか……神ぃ~」

 寝起きで、いつもよりほんの少しホヤッとした表情をしたせりが、キッチンにいる結葉ゆいはにどこか間伸びした声をかけて。

「あたしも、とりあえず顔洗ってシャキッとしてくるね~」

 そう言って一旦引っ込んだ。


 それと入れ替わるように、
「おはよう、ゆいちゃん。いつも早起きだけど、ちゃんと身体、休められてる?」

 せりとは対照的。

 すでにピシッと身支度を整えた純子がキッチンに顔を出した。


 偉央いおに責めさいなまれて起きられない時以外は、基本的に五時起きが多かった結葉ゆいはだ。


「おはようございます。早起きは結婚してた時の習慣で身体に染みついちゃってるんで大丈夫です。お気遣い有難うございますっ」

 そう言って微笑んだら、「ゆいちゃんは本当に働き者さんだね~」って頭をヨシヨシされた。

 純子はちょいちょい結葉ゆいはの頭を撫でてくるのだけれど、きっとそうが幼い頃からことあるごとに結葉ゆいはの頭を撫でてくるのも、純子の影響があるんだろうな、と思った結葉ゆいはだ。

 そう言えば、公宣きみのぶも先日会社の会議室で結葉ゆいはの頭を撫でようとして、そうに睨まれていたのを思い出す。

 そう考えてみると、山波家やまなみけでは、頭を撫でると言う行為が、割と日常茶飯事なのかな?と思って。

そうちゃんに頭を撫でられるの、そんなに構えなくてもいいのかも?)

 そうされるたび、何年間も照れてきておいて今更だけど、そんな風に思った結葉ゆいはだった。


***


「今日はちょっとおかず、多めに作りすぎちゃって。もしよかったらせりちゃんも使って?」

 卵焼きなんかはわざと多めに作って、せりのお弁当にも入れられるよう、切るサイズまで調整した結葉ゆいはだ。

 結葉ゆいはの言葉に、たくさん並べられた惣菜の山を見て、せりが目をキラキラと輝かせる。


「わぁ~。すごい! 今日ってもしかしたらこれ入れさせてもらって、ご飯詰めたらお弁当完成じゃない?」

 ヤッター!と諸手もろてを挙げて喜ぶせりを見て、「そんな風に言ってもらえるの、すっごく嬉しい」って微笑み返したら、横からヒョイッと手が伸びてきてつくねの照り焼きを一個、さらって行ってしまった。

「あっ」
 
 せりが抗議の声を上げる目の前で、純子が口をモグモグさせながら「ん~、美味しっ♡」と微笑んだ。

「お母さんっ!」

 ムムッとするせりを、

「まだ、たくさんあるから大丈夫だよ?」

 結葉ゆいはが苦笑しながらなだめてみたけれど、せりは自分の弁当箱のフタを閉めて包むまで、そんな母親を警戒し続けていた。

 きっとせりにとってはハプニングとしか呼べない母子おやこのやり取りも、結葉ゆいはにはとっても微笑ましく見えて。

 自然口の端に笑みが浮かんでしまう。


「おはよー。……って結葉ゆいは、お前朝っぱらからなに楽しげに笑ってんの? 何か面白おもしれぇーことあった?」

 そうが起きてきて、結葉ゆいはの表情に気が付いてそんな言葉を投げかけてきて。

 結葉ゆいはがふるふると首を振っていたら、入り口付近で立ち止まった息子を押すようにして「こら、そう、でっかいのが通路を塞ぐな」と公宣きみのぶがキッチンに入ってくる。

「みんな、おはよう」

 一家の大黒柱の起床に、みんなが一斉に「おはよう」と返して。

 皆が話している間も、一人黙々と朝食の準備をしていた純子が、「今日の朝ごはんはミネストローネとディナーロールとサラダでぇ~す」と、食卓に出来上がったばかりの料理を並べていく。

 ディナーロールは純子の友人がやっているという、自宅ショップのパン屋さんから買ってきたものだとかで、バターがたっぷり使われたフワフワツヤツヤの美味しそうなパンだった。

 今日の朝食は、ワンプレート料理の形式で供するつもりらしく、真っ白な大きめの皿に載せられたディナーロールの隣には、カットトマトとレタスなどのサラダが添えられていて、そのそばにはスープ用カップに入れられたミネストローネがゆるゆると湯気をくゆらせていた。

 山波家やまなみけのキッチンには、今朝結葉ゆいはがご飯を炊かせてもらった炊飯器の他に、電気圧力鍋があって、今日みたいに時折スープが仕込まれていることがある。

 タイマー付きらしく、朝皆が起き出してくる頃を見計らったみたいに、いい匂いがキッチンを満たしたりする。

 結葉ゆいはもマンションにいた頃は、電気圧力鍋ではなかったけれど、サブの炊飯器を利用して朝起きたらスープが出来ているようにセットして眠ったりしていた。
 材料をインして炊飯スイッチを押すだけで、手軽においしいスープが作れるので、忙しい朝には結構重宝したのを覚えている。


「わぁー、何か今日の朝ごはん、カフェみたいでかっこいい!」

 せりが言ったら「たまにはパンもいいでしょ~?」と純子が微笑んだ。


 そう。基本的には朝はお米が食卓に登ることの多い山波家やまなみけだ。
 現に結葉ゆいはがここに来て半月以上経ったけれど、朝食にパンが出て来たのを見たのは初めての経験だった。


 前にアパートでそうと一晩明かした朝、材料がなくてパンを朝食にしたことがあったけれど、あのときそうちゃん、本当はご飯が食べたかったんじゃないのかな?とふと思ってしまった結葉ゆいはだ。

 それで、見るとはなしにチラチラとそううかがい見てしまって、「ん? どした?」とそうに小首をかしげられてしまった。

「あっ、――なっ、何でもないっ」

 実際、過ぎてしまった日のことを言われても今更だよね、と思いながらソワソワとそう答えた結葉ゆいはだったけれど、そうには煮え切らない結葉ゆいはの態度がやたらと引っかかってしまって。

 実質的にはそうに対して別のこと――偉央いおへの差し入れ――を隠していた結葉ゆいはだったけれど、この時そうに違和感を抱かせたことが、結果的には結葉ゆいはを救うことになるのは、もう少しあとの話になる――。
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