12 / 44
告白
2
しおりを挟む
「ブレイズさんはこの辺に住んでるの?」
滅多に人が通っていなさそうなあの小道をわざわざ選んで入ったのだ。きっと彼はその先の住人に違いない。
そう当たりをつけて問いかけると、ブレイズは一瞬困ったように眉根を寄せ、そうして諦めたような溜め息とともにうなずいた。
「ブレイズでいい。――お前、案外頭切れるのな」
案外、という余計な部分はこの際聞かなかったことにする。パティスには、どうしてこの青年が困惑したような表情を浮かべたのかというほうが重要に思えたからだ。
「もしかして……聞いちゃまずかった?」
「あ、いや、んなわけじゃ……」
ますます煮え切らないブレイズの態度に、野イチゴを運ぶ手が止まる。
そういえば彼、さっきからひとつも実を口にしていなかった。
「嫌いなの?」
「……?」
いきなり話題を変えてしまったので、ブレイズにはそれが何を指しての言葉だったのか伝わらなかったらしい。
「野イチゴ」
彼が手に載せた実を指差しながら言う。
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、お腹が空いてない……?」
「いや、どっちかっちゅーと減ってるような……」
またもや煮え切らない返答。
先程までの小憎たらしい歯に衣着せぬ物言いとは明らかに違っているその態度に、パティスは彼が自分のことを聞かれるのが好きではないのかも、と思い至る。
「ごめんなさい、私ったら。聞かれたくないこと聞くのは大人じゃなかったね」
ペロリと舌を出して微笑むと、ひどく真剣な顔で見つめられた。
「……な、何――?」
ただ目が合っただけなのに心臓が壊れそうなくらいドキドキしてしまう。
それを悟られたくなくてブレイズから視線をそらしてうつむくと、彼の手があごにかかった。そのまま顔を上向けられて、またもや目があってしまう。
パティスの眼前にあるのは吸い込まれそうなピジョンブラッドの双眸。
「俺が怖いか?」
そのまま見つめ続けていたらどうにかなってしまいそうで思わず視線をそらすと、どこか悲しそうな声で問いかけられた。
「え……?」
怖かったわけではない。
ただ、そのまま見つめているとブレイズにときめきを気付かれてしまいそうで恥ずかしかっただけ。それを隠したかっただけのパティスは、ブレイズの言葉の意味を掴み損ねてきょとんとする。
「……どうして?」
かろうじてそう問い返すと、彼はパティスの顔にかけた手を離して何も言わずに立ち上がった。
座った状態でブレイズを見上げる格好になってしまったパティスは、月光を背にして自分を見下ろす彼が、とても綺麗だと思った。
そうして同時に凄く寂しそうにも思えたのだ。
「ブレイズ?」
呼びかけると、彼はパティスから一歩遠ざかって己の足元を指し示した。
「?」
彼が何をしたいのか分からず戸惑うパティスに、今度は月を指差してみせる。
導かれるままにその両方を見たパティスは、彼の足元にあるべきはずの影がないことに気が付いた。
「……影……?」
パティスの口をついてでた言葉に、ブレイズは自分の言いたいことが伝わったことを知ったらしい。
自嘲気味に口の端を歪めると、
「俺は人間じゃない。ヴァンパイアだ」
パティスにとってもっとも理解し難い一言を口にした。
滅多に人が通っていなさそうなあの小道をわざわざ選んで入ったのだ。きっと彼はその先の住人に違いない。
そう当たりをつけて問いかけると、ブレイズは一瞬困ったように眉根を寄せ、そうして諦めたような溜め息とともにうなずいた。
「ブレイズでいい。――お前、案外頭切れるのな」
案外、という余計な部分はこの際聞かなかったことにする。パティスには、どうしてこの青年が困惑したような表情を浮かべたのかというほうが重要に思えたからだ。
「もしかして……聞いちゃまずかった?」
「あ、いや、んなわけじゃ……」
ますます煮え切らないブレイズの態度に、野イチゴを運ぶ手が止まる。
そういえば彼、さっきからひとつも実を口にしていなかった。
「嫌いなの?」
「……?」
いきなり話題を変えてしまったので、ブレイズにはそれが何を指しての言葉だったのか伝わらなかったらしい。
「野イチゴ」
彼が手に載せた実を指差しながら言う。
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、お腹が空いてない……?」
「いや、どっちかっちゅーと減ってるような……」
またもや煮え切らない返答。
先程までの小憎たらしい歯に衣着せぬ物言いとは明らかに違っているその態度に、パティスは彼が自分のことを聞かれるのが好きではないのかも、と思い至る。
「ごめんなさい、私ったら。聞かれたくないこと聞くのは大人じゃなかったね」
ペロリと舌を出して微笑むと、ひどく真剣な顔で見つめられた。
「……な、何――?」
ただ目が合っただけなのに心臓が壊れそうなくらいドキドキしてしまう。
それを悟られたくなくてブレイズから視線をそらしてうつむくと、彼の手があごにかかった。そのまま顔を上向けられて、またもや目があってしまう。
パティスの眼前にあるのは吸い込まれそうなピジョンブラッドの双眸。
「俺が怖いか?」
そのまま見つめ続けていたらどうにかなってしまいそうで思わず視線をそらすと、どこか悲しそうな声で問いかけられた。
「え……?」
怖かったわけではない。
ただ、そのまま見つめているとブレイズにときめきを気付かれてしまいそうで恥ずかしかっただけ。それを隠したかっただけのパティスは、ブレイズの言葉の意味を掴み損ねてきょとんとする。
「……どうして?」
かろうじてそう問い返すと、彼はパティスの顔にかけた手を離して何も言わずに立ち上がった。
座った状態でブレイズを見上げる格好になってしまったパティスは、月光を背にして自分を見下ろす彼が、とても綺麗だと思った。
そうして同時に凄く寂しそうにも思えたのだ。
「ブレイズ?」
呼びかけると、彼はパティスから一歩遠ざかって己の足元を指し示した。
「?」
彼が何をしたいのか分からず戸惑うパティスに、今度は月を指差してみせる。
導かれるままにその両方を見たパティスは、彼の足元にあるべきはずの影がないことに気が付いた。
「……影……?」
パティスの口をついてでた言葉に、ブレイズは自分の言いたいことが伝わったことを知ったらしい。
自嘲気味に口の端を歪めると、
「俺は人間じゃない。ヴァンパイアだ」
パティスにとってもっとも理解し難い一言を口にした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました
せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~
救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。
どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。
乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。
受け取ろうとすると邪魔だと言われる。
そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。
医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。
最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇
作品はフィクションです。
本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。
極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
葉月 まい
恋愛
『極上の彼女と最愛の彼』第3弾
メンバーが結婚ラッシュの中、未だ独り身の吾郎
果たして彼にも幸せの女神は微笑むのか?
そして瞳子や大河、メンバー達のその後は?
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる