【完結】月夜の約束

鷹槻れん

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交渉

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「……」
 紅玉こうぎょく双眸そうぼうが所在なげにこちらを見つめ返すのへ、
「私、家出してきたの。だから……」
 送っていくと言われても戻ることは出来ないのだと言外に含ませる。

「お前、俺の話を聞いてなかったのか?」
「聞いてたわ」
「だったら……!」

 何を言っても不安のためか自分を遠ざけようとするブレイズに、パティスは少しイライラする。まったくもって素直じゃない。

「私を襲う気なの?」
 絶対そんなことはしないと思ったからこそ言えたセリフ。
 挑むようなパティスの目に、ブレイズが驚いたように息を呑む。

「……バ、バカかっ!? 俺は貧乳のガキに興味はねぇ!」
 どうせ襲うのならグラマーな美女にすると言い切るブレイズに、パティスは軽いショックを受けた。
 自分の、膨らみかけの未発達な薄い胸を見て、それからブレイズへと視線を戻す。
「最ッ低ッ!!」
 パティスの怒声とともに、小気味良い音が夜気のなかに響いた。


「悪かったって。機嫌直せよ」

 つん、とそっぽを向いてしまったパティスに、この通り!といって手を合わせるブレイズ。

 パティスの平手打ちはブレイズの左頬に小さな赤い手形を残していた。
 じわじわと熱を帯びた痛みが伝わっているだろうに、それについては一切言及しない。
 きっと悪かったと思っているのは本心なのだろう。

 しかし、そのぐらいでは腹の虫がおさまらないパティス。先ほどからそっぽを向いたままブレイズを見ようともしなかった。

「なぁ、どうしたら許してくれる?」
 女は怒らせるとしつこいということを経験から知っているのか、ただひたすらに謝り続けるブレイズに、パティスも段々意地を張っているのが馬鹿らしくなってきた。

 でも、折角の申し出を反故ほごにするのはもったいない。

 何かしてもらえること――。
 そこまで考えて名案を思いついたパティスは、くるりと向きを変えてブレイズに微笑んだ。
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