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結界
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「俺、この界隈じゃあ結構嫌われてるわけよ。だから油断してたら寝首をかかれる可能性だってあるだろ。眠ってる間に襲われたらどうしようもねぇからな」
だから結界が不可欠なのだとブレイズは言う。
その言葉を聞いて、パティスはこの町の家々が夕闇前から扉をぴったりと閉ざしていた理由を垣間見たような気がした。
もしかしたらよそ者のパティスが外を出歩いているのを見て「危ない」と思った者もいたかも知れない。でも所詮面識のない女の子。その子が犠牲になってくれて、自分たちが安全ならそれで良いと考えたのかも。
何だかそう考えると、ブレイズがとっても気の毒に思えてしまったパティスである。
そういう考え方の人間がそろったところなら、ブレイズがどんなに友好的なヴァンパイア――これは変な言い回しだと自分でも思う――だったとしても聞く耳は持たなかっただろう。
きっと、彼は今まで異形と言うだけで阻害されていたに違いない。
何せパティスにしても、今はブレイズのことをある程度知っているからこそそう思えるのだと自認しているくらいなのだから。
彼と知り合う機会がなかったなら、きっと自分もこの町の人々と同じような反応をしていたはずだ。
だからこの町の人たちを責めるのはおかしいよね。そう思い直して苦笑する。
「ブレイズはいつからヴァンパイアなの?」
知らずそう問うてしまったのは、彼の中の孤独の長さを測ろうとしたためだろうか。
「生まれたときから」
それはどういう意味だろう。
パティスは、吸血鬼というのはそれに襲われた者がなるのだと思っていた。
だから生まれつきのヴァンパイアだなんて、今いちピンとこない。
(私の認識って間違っているの?)
きょとんとして立ち止まってしまったパティスに気付いたブレイズが
「後天的な吸血鬼ってぇのは滅多にいねぇと思ったほうがいいぞ。少なくとも俺は一人しか会ったことがない」
そう断言する。
「じゃあ、ブレイズに血を吸われても……」
「それで仲間が増やせるんなら苦労しねぇな」
どこか寂しそうな表情をして苦笑するブレイズを見て、それもそうだなとパティスは思う。
そんなことが出来たなら、彼が孤独にしている理由なんて何一つないのだから。
「ご家族は?」
「……やられた」
あっけらかんと一言で片してしまったけれど、それはブレイズにとって数少ない理解者を失くした日であり、また同時に孤独の始まりになった日でもあったはずだ。
「ごめんなさい、私……っ」
パティスはブレイズの雰囲気から、彼に両親はおろか、家族と呼べる存在――ひいては同族と呼べる存在すら――いないだろうことを承知していた。それなのに確認せずにおられなかったのは、ブレイズが一人ぼっちだと知ることで自分が唯一の理解者なのだと思いたかったからに他ならない。
(私って何て嫌な奴なの……)
謝って、しゅんとしてしまったパティスの頭をブレイズがぐしゃぐしゃと撫でる。
「ガキが大人みたく色んなこと気にしすぎるなよ」
子供は子供らしくもっと無遠慮でいいのだと、自分の非礼を責めようともしないブレイズに、パティスはますます胸が苦しくなる。
でも口を開けば憎まれ口を言ってしまいそうで。何としてもそれだけは避けたかった。
結局パティスはしばらくの間、何も言えずに彼の上着のすそを握りしめているのでやっとだった――。
だから結界が不可欠なのだとブレイズは言う。
その言葉を聞いて、パティスはこの町の家々が夕闇前から扉をぴったりと閉ざしていた理由を垣間見たような気がした。
もしかしたらよそ者のパティスが外を出歩いているのを見て「危ない」と思った者もいたかも知れない。でも所詮面識のない女の子。その子が犠牲になってくれて、自分たちが安全ならそれで良いと考えたのかも。
何だかそう考えると、ブレイズがとっても気の毒に思えてしまったパティスである。
そういう考え方の人間がそろったところなら、ブレイズがどんなに友好的なヴァンパイア――これは変な言い回しだと自分でも思う――だったとしても聞く耳は持たなかっただろう。
きっと、彼は今まで異形と言うだけで阻害されていたに違いない。
何せパティスにしても、今はブレイズのことをある程度知っているからこそそう思えるのだと自認しているくらいなのだから。
彼と知り合う機会がなかったなら、きっと自分もこの町の人々と同じような反応をしていたはずだ。
だからこの町の人たちを責めるのはおかしいよね。そう思い直して苦笑する。
「ブレイズはいつからヴァンパイアなの?」
知らずそう問うてしまったのは、彼の中の孤独の長さを測ろうとしたためだろうか。
「生まれたときから」
それはどういう意味だろう。
パティスは、吸血鬼というのはそれに襲われた者がなるのだと思っていた。
だから生まれつきのヴァンパイアだなんて、今いちピンとこない。
(私の認識って間違っているの?)
きょとんとして立ち止まってしまったパティスに気付いたブレイズが
「後天的な吸血鬼ってぇのは滅多にいねぇと思ったほうがいいぞ。少なくとも俺は一人しか会ったことがない」
そう断言する。
「じゃあ、ブレイズに血を吸われても……」
「それで仲間が増やせるんなら苦労しねぇな」
どこか寂しそうな表情をして苦笑するブレイズを見て、それもそうだなとパティスは思う。
そんなことが出来たなら、彼が孤独にしている理由なんて何一つないのだから。
「ご家族は?」
「……やられた」
あっけらかんと一言で片してしまったけれど、それはブレイズにとって数少ない理解者を失くした日であり、また同時に孤独の始まりになった日でもあったはずだ。
「ごめんなさい、私……っ」
パティスはブレイズの雰囲気から、彼に両親はおろか、家族と呼べる存在――ひいては同族と呼べる存在すら――いないだろうことを承知していた。それなのに確認せずにおられなかったのは、ブレイズが一人ぼっちだと知ることで自分が唯一の理解者なのだと思いたかったからに他ならない。
(私って何て嫌な奴なの……)
謝って、しゅんとしてしまったパティスの頭をブレイズがぐしゃぐしゃと撫でる。
「ガキが大人みたく色んなこと気にしすぎるなよ」
子供は子供らしくもっと無遠慮でいいのだと、自分の非礼を責めようともしないブレイズに、パティスはますます胸が苦しくなる。
でも口を開けば憎まれ口を言ってしまいそうで。何としてもそれだけは避けたかった。
結局パティスはしばらくの間、何も言えずに彼の上着のすそを握りしめているのでやっとだった――。
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