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パティスの亡母
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再び一階――ブレイズの自室――に戻った二人は、部屋中のランプに火を灯してから作業を開始した。
と言っても七箇所にあったランプの火は全て一瞬で点いたし、作業自体をこなすのはパティスの役目だったのだが。
散らかったアンティーク調のテーブルの上を片すと、パティスはブレイズが持ってきた羊皮紙をまず三角形に折った。
そうしてその三角の一辺に沿ってもう一度紙を垂直方向に折ると、出来上がった長方形部分を丁寧に切り取る。
二つ折りになった三角形を広げると、それは綺麗な正方形になっていた。
「ほらね、これで真四角よ」
得意げに、出来上がったばかりの四角い羊皮紙をブレイズに向けてひらひらと振って見せると、嬉しそうににっこり笑う。
いつものおしゃまな雰囲気とは違う、その子供らしい笑みは、パティスが童心に返っていることの表れだ。
それを見たブレイズも、目を細めて柔らかな笑みを浮かべる。
「大したもんだな」
ポツリとつぶやかれたセリフも、いつものように皮肉を含んでいなかった。
「ママがね、教えてくれたの」
そこまで言って、急に何かを思い出したように押し黙るパティス。
「――?」
先ほどまでとは一変して表情の曇ってしまったパティスをいぶかしむようなブレイズの視線。
「……ママのこと、久しぶりに思い出した気がする」
独白のように告げた言葉に、ブレイズが一瞬目を見開いたのが分かった。
「ママね、私が小さい頃に亡くなったの」
それはパティスが六歳になるかならないかの頃だった。
東洋系の血を引くパティスの母親は、母国の文化だという折り紙という遊びを、沢山沢山パティスに教えてくれたのだ。
「最初はね、鳥を折ったの」
母は「折鶴」だと言っていたけれど、パティスにはイマイチ「ツル」がどんな感じの生き物なのか想像がつかなかった。
ただ、形は鳥だったから、何となく白鳥を思い描きながら見様見真似で折ったのを覚えている。
そして、幼かったパティスは母のように綺麗な「折鶴」が折れなくて、しばしば泣きべそをかいては母を困らせた。
「……パパとママね、そういうのが縁で知り合ったみたい」
パティスが淡々と話す内容に、ブレイズは一切口を挟まないでいてくれる。
でもこちらへ投げかけられている真っ直ぐな視線で、彼がちゃんと聞いてくれているのだと分かってとても嬉しかった。
話したければ話せばいい。聞いてやるから。
ここへ至るまでの道すがら、ブレイズが告げた言葉が脳裏によみがえる。
聞いて欲しい、と思った。
それは、今までずっと誰にも話さずに居たことだから。
「パパはアジアのほうの文化を研究する学者で、ママはパパが招かれた大学の生徒だったの」
外国に単身で渡り、心細い思いをしていたパティスの父親を母はことあるごとに気にかけてくれたのだそうだ。
それが縁で芽生えた恋心。
国際結婚ということもあり、すんなり……というわけには行かなかったみたいだけれど、母のお腹にパティスが宿ったことで二人ともやや強行気味に一緒になってしまったという。
と言っても七箇所にあったランプの火は全て一瞬で点いたし、作業自体をこなすのはパティスの役目だったのだが。
散らかったアンティーク調のテーブルの上を片すと、パティスはブレイズが持ってきた羊皮紙をまず三角形に折った。
そうしてその三角の一辺に沿ってもう一度紙を垂直方向に折ると、出来上がった長方形部分を丁寧に切り取る。
二つ折りになった三角形を広げると、それは綺麗な正方形になっていた。
「ほらね、これで真四角よ」
得意げに、出来上がったばかりの四角い羊皮紙をブレイズに向けてひらひらと振って見せると、嬉しそうににっこり笑う。
いつものおしゃまな雰囲気とは違う、その子供らしい笑みは、パティスが童心に返っていることの表れだ。
それを見たブレイズも、目を細めて柔らかな笑みを浮かべる。
「大したもんだな」
ポツリとつぶやかれたセリフも、いつものように皮肉を含んでいなかった。
「ママがね、教えてくれたの」
そこまで言って、急に何かを思い出したように押し黙るパティス。
「――?」
先ほどまでとは一変して表情の曇ってしまったパティスをいぶかしむようなブレイズの視線。
「……ママのこと、久しぶりに思い出した気がする」
独白のように告げた言葉に、ブレイズが一瞬目を見開いたのが分かった。
「ママね、私が小さい頃に亡くなったの」
それはパティスが六歳になるかならないかの頃だった。
東洋系の血を引くパティスの母親は、母国の文化だという折り紙という遊びを、沢山沢山パティスに教えてくれたのだ。
「最初はね、鳥を折ったの」
母は「折鶴」だと言っていたけれど、パティスにはイマイチ「ツル」がどんな感じの生き物なのか想像がつかなかった。
ただ、形は鳥だったから、何となく白鳥を思い描きながら見様見真似で折ったのを覚えている。
そして、幼かったパティスは母のように綺麗な「折鶴」が折れなくて、しばしば泣きべそをかいては母を困らせた。
「……パパとママね、そういうのが縁で知り合ったみたい」
パティスが淡々と話す内容に、ブレイズは一切口を挟まないでいてくれる。
でもこちらへ投げかけられている真っ直ぐな視線で、彼がちゃんと聞いてくれているのだと分かってとても嬉しかった。
話したければ話せばいい。聞いてやるから。
ここへ至るまでの道すがら、ブレイズが告げた言葉が脳裏によみがえる。
聞いて欲しい、と思った。
それは、今までずっと誰にも話さずに居たことだから。
「パパはアジアのほうの文化を研究する学者で、ママはパパが招かれた大学の生徒だったの」
外国に単身で渡り、心細い思いをしていたパティスの父親を母はことあるごとに気にかけてくれたのだそうだ。
それが縁で芽生えた恋心。
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