146 / 342
23.スーツを着た理由
行ってらっしゃい
しおりを挟む
「こら、柚子! 羽理が痛がってる! それにっ、そんな抱き方したらウリちゃんも落ちちまうだろ!」
両手に花状態な姉へ、大葉がすぐさま抗議したのだけれど。
「あー、ホントうるさい子ね! 貴方だってさっき羽理ちゃんに同じことして痛がらせてたでしょう! ……けど残念でしたー! もう羽理ちゃんはこの体勢にも慣れて痛くなくなったみたいでーす。それに……キュウリちゃんも私がガッチリホールドしてるから落っこちたりしませんよーだっ!」
ニヒヒッと意地悪く笑って、二人を抱く腕にさらにギュウッと力を込める柚子に、大葉はグッと言葉に詰まったのだけれど。
「あ、あのっ。柚子さんっ、私……」
柚子の腕の中の羽理が、恐る恐ると言った調子で自分を拘束する柚子に声を掛けた。
だが、「ちょっぴり痛いです」と続ける前に、柚子に畳み掛けられてしまう。
「やだぁ、羽理ちゃーん。柚子さんだなんて他人行儀なー! お願いだから柚子お義姉さまって呼んで?」
「えっ?」
「だって羽理ちゃん、うちへお嫁さんに来てくれるんでしょう?」
「当たり前だ! 昨夜プロポーズして、ちゃんと受けてもらえたんだからな!?」
「うそ! 告白すっ飛ばしてプロポーズとか……ホントなの、羽理ちゃん!?」
大葉が懸命に羽理を手元に取り戻そうとするのを、羽理とキュウリを抱いたままキッと睨んで目力だけで牽制しつつ。
柚子がその合間で羽理に問い掛けた。
途端羽理がブワッと頬を赤くして、口に出さずともそうなのだと肯定してしまうから。間近でそれを見ていた大葉も、つられて恥ずかしくなってしまった。
「もぉ、二人とも最高! たいちゃん。可愛い義妹ちゃんのことは私にドォーン!と任せて。貴方はしっかりお仕事頑張って来なさい! ――ほら、羽理ちゃんもたいちゃんに行ってらっしゃい言ってあげて?」
「……い、行ってらっしゃい、大葉」
「お、おう。――行って……来る」
そんなこんなで、大葉は半ば強制的に家から追い出されてしまったのだった。
***
会社に着いた大葉は、建物を見上げて気持ちを引き締めるようにギュッとネクタイを締め直した。
いつもより一時間ばかり遅れての出社だ。
朝一で出張などがあれば別だが、全くの私用で遅刻することはほとんどなかったので、何となく緊張してしまう。
だが、それを他者に気取らせるわけにはいかない。
自分はここ――土恵商事では、一応役付きなのだ。総務部長としての威厳というものはある程度必要だろう。
「おはよう」
「おはようございます、屋久蓑部長」
遅刻してきたことなんて何でもないことのように、受付女性にいつも通りの義務的な挨拶をして、ついでのように「社長は在社かな?」と問い掛ける。
「はい」
「分かった。有難う」
大葉がふっと表情を緩めて礼を述べた途端、受付嬢が驚いたように瞳を見開いた。今までの屋久蓑部長ならば、「分かった」のみだったはずのところに、期せずして「有難う」と付け加えられたことに驚いたのだ。
大葉は自分の変化にも受付嬢の驚きにも気付かないまま、くるりと踵を返すとエレベーターホールへと向かう。
両手に花状態な姉へ、大葉がすぐさま抗議したのだけれど。
「あー、ホントうるさい子ね! 貴方だってさっき羽理ちゃんに同じことして痛がらせてたでしょう! ……けど残念でしたー! もう羽理ちゃんはこの体勢にも慣れて痛くなくなったみたいでーす。それに……キュウリちゃんも私がガッチリホールドしてるから落っこちたりしませんよーだっ!」
ニヒヒッと意地悪く笑って、二人を抱く腕にさらにギュウッと力を込める柚子に、大葉はグッと言葉に詰まったのだけれど。
「あ、あのっ。柚子さんっ、私……」
柚子の腕の中の羽理が、恐る恐ると言った調子で自分を拘束する柚子に声を掛けた。
だが、「ちょっぴり痛いです」と続ける前に、柚子に畳み掛けられてしまう。
「やだぁ、羽理ちゃーん。柚子さんだなんて他人行儀なー! お願いだから柚子お義姉さまって呼んで?」
「えっ?」
「だって羽理ちゃん、うちへお嫁さんに来てくれるんでしょう?」
「当たり前だ! 昨夜プロポーズして、ちゃんと受けてもらえたんだからな!?」
「うそ! 告白すっ飛ばしてプロポーズとか……ホントなの、羽理ちゃん!?」
大葉が懸命に羽理を手元に取り戻そうとするのを、羽理とキュウリを抱いたままキッと睨んで目力だけで牽制しつつ。
柚子がその合間で羽理に問い掛けた。
途端羽理がブワッと頬を赤くして、口に出さずともそうなのだと肯定してしまうから。間近でそれを見ていた大葉も、つられて恥ずかしくなってしまった。
「もぉ、二人とも最高! たいちゃん。可愛い義妹ちゃんのことは私にドォーン!と任せて。貴方はしっかりお仕事頑張って来なさい! ――ほら、羽理ちゃんもたいちゃんに行ってらっしゃい言ってあげて?」
「……い、行ってらっしゃい、大葉」
「お、おう。――行って……来る」
そんなこんなで、大葉は半ば強制的に家から追い出されてしまったのだった。
***
会社に着いた大葉は、建物を見上げて気持ちを引き締めるようにギュッとネクタイを締め直した。
いつもより一時間ばかり遅れての出社だ。
朝一で出張などがあれば別だが、全くの私用で遅刻することはほとんどなかったので、何となく緊張してしまう。
だが、それを他者に気取らせるわけにはいかない。
自分はここ――土恵商事では、一応役付きなのだ。総務部長としての威厳というものはある程度必要だろう。
「おはよう」
「おはようございます、屋久蓑部長」
遅刻してきたことなんて何でもないことのように、受付女性にいつも通りの義務的な挨拶をして、ついでのように「社長は在社かな?」と問い掛ける。
「はい」
「分かった。有難う」
大葉がふっと表情を緩めて礼を述べた途端、受付嬢が驚いたように瞳を見開いた。今までの屋久蓑部長ならば、「分かった」のみだったはずのところに、期せずして「有難う」と付け加えられたことに驚いたのだ。
大葉は自分の変化にも受付嬢の驚きにも気付かないまま、くるりと踵を返すとエレベーターホールへと向かう。
4
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる