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29.心配しなくていいと伝えたいだけなのに
美住杏子
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***
愛犬キュウリを抱っこしたまま実家に着いて、数寄屋門をくぐってすぐ。しゃがみ込んで地べたに触れた大葉は、触れないほど熱くない温度に、やはり土はアスファルトとは違うな? と思いながらキュウリを地面に下ろした。
ついでに、きっと身に着けているだけで暑いだろうフリルと羽根のついたハーネスを、キュウリの身体から外してやる。
「暑かったでちゅね」
自分をじっと見上げてくるキュウリの頭をスリスリと撫でて瞳を細めたと同時。キュウリが大葉の背後――いま通り抜けてきたばかりの門の方へ向けてワンワン!と甲高い声で吠えながら走って行ってしまう。
「あ、ちょっと……ウリちゃん!」
愛娘の、突然の番犬モードに大葉が慌てて立ち上がって背後を振り返った途端、「たいくん!」という声がして、いきなり小柄な人物に真正面から抱き付かれた。
「……何でお見合い、断っちゃったの?」
今にも泣きそうな顔で「私のこと、嫌い?」と付け加えられて、潤んだアーモンドアイで見上げられた大葉は、思わず怯まずにはいられない。
「あ、んず……? ……な、んで……お前が俺の見合いのこと……」
まるで縋り付くみたいに二の腕へ力を込めてくる相手に、戸惑いの余りオロオロしてしまった大葉を見上げて、キュウリはご主人様の一大事だと思ったんだろう。
二人の周りをぐるぐる走り回りながら〝杏子〟と呼ばれた女性を牽制するように吠えまくって――。
小型犬特有の耳にキン!とくる吠え声が、静かな敷地内に響き渡った。
きっと、その吠え声が聴こえたんだろう。
向きを変えたことで背後になってしまった玄関扉が開く音がした。
***
美住杏子は、今年三十歳になる。
杏子本人はそんなに結婚願望が強い方ではないのだが、美住家の一人娘ということもあって、父・美住大地は何としても杏子をどこかへ嫁がせて、あわよくば孫の顔を見たいと望んでいるらしい。
小さい頃に母親を亡くして、男手ひとつで育てられたと言うのも大きいのかも知れない。
父親はとにかく杏子に甘々で、下手をするととっても過保護で若干暴走気味。
もしも自分に何かがあったら杏子が一人ぼっちになってしまう! と、娘に伴侶を見つけることだけはどうしても譲れない喫緊の課題だと豪語してはばからない。
杏子は『そんなに心配しなくても大丈夫だよ? 私一人でも生きていけるよ?』とアピールしているのだが、肝心の父親がそう思ってくれないのだからどうにも厄介なのだ。
これまでにも何度も何度も大地から見合い話を持ってこられては、うんざりしながらそれを反故にしてきた杏子だったのだけれど。さすがに二十代もあとわずかともなれば、大地の方にも焦りが生じてきたらしい。
いくら童顔で幼児体形。メリハリボディとは程遠い身体つきのせいで年齢より余裕で五つくらいは若く見られるといっても、限度というものがある。
「杏子、お父さんは諦めないからな!?」
そう宣言されて、「次にセッティングする相手とは何が何でも会ってもらう!」と言い渡されてしまった杏子は、つい苦し紛れ。初恋の相手の名前を出してしまったのだ。
愛犬キュウリを抱っこしたまま実家に着いて、数寄屋門をくぐってすぐ。しゃがみ込んで地べたに触れた大葉は、触れないほど熱くない温度に、やはり土はアスファルトとは違うな? と思いながらキュウリを地面に下ろした。
ついでに、きっと身に着けているだけで暑いだろうフリルと羽根のついたハーネスを、キュウリの身体から外してやる。
「暑かったでちゅね」
自分をじっと見上げてくるキュウリの頭をスリスリと撫でて瞳を細めたと同時。キュウリが大葉の背後――いま通り抜けてきたばかりの門の方へ向けてワンワン!と甲高い声で吠えながら走って行ってしまう。
「あ、ちょっと……ウリちゃん!」
愛娘の、突然の番犬モードに大葉が慌てて立ち上がって背後を振り返った途端、「たいくん!」という声がして、いきなり小柄な人物に真正面から抱き付かれた。
「……何でお見合い、断っちゃったの?」
今にも泣きそうな顔で「私のこと、嫌い?」と付け加えられて、潤んだアーモンドアイで見上げられた大葉は、思わず怯まずにはいられない。
「あ、んず……? ……な、んで……お前が俺の見合いのこと……」
まるで縋り付くみたいに二の腕へ力を込めてくる相手に、戸惑いの余りオロオロしてしまった大葉を見上げて、キュウリはご主人様の一大事だと思ったんだろう。
二人の周りをぐるぐる走り回りながら〝杏子〟と呼ばれた女性を牽制するように吠えまくって――。
小型犬特有の耳にキン!とくる吠え声が、静かな敷地内に響き渡った。
きっと、その吠え声が聴こえたんだろう。
向きを変えたことで背後になってしまった玄関扉が開く音がした。
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美住杏子は、今年三十歳になる。
杏子本人はそんなに結婚願望が強い方ではないのだが、美住家の一人娘ということもあって、父・美住大地は何としても杏子をどこかへ嫁がせて、あわよくば孫の顔を見たいと望んでいるらしい。
小さい頃に母親を亡くして、男手ひとつで育てられたと言うのも大きいのかも知れない。
父親はとにかく杏子に甘々で、下手をするととっても過保護で若干暴走気味。
もしも自分に何かがあったら杏子が一人ぼっちになってしまう! と、娘に伴侶を見つけることだけはどうしても譲れない喫緊の課題だと豪語してはばからない。
杏子は『そんなに心配しなくても大丈夫だよ? 私一人でも生きていけるよ?』とアピールしているのだが、肝心の父親がそう思ってくれないのだからどうにも厄介なのだ。
これまでにも何度も何度も大地から見合い話を持ってこられては、うんざりしながらそれを反故にしてきた杏子だったのだけれど。さすがに二十代もあとわずかともなれば、大地の方にも焦りが生じてきたらしい。
いくら童顔で幼児体形。メリハリボディとは程遠い身体つきのせいで年齢より余裕で五つくらいは若く見られるといっても、限度というものがある。
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そう宣言されて、「次にセッティングする相手とは何が何でも会ってもらう!」と言い渡されてしまった杏子は、つい苦し紛れ。初恋の相手の名前を出してしまったのだ。
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