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29.心配しなくていいと伝えたいだけなのに
もう、イヤ
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そうしながら、目の前の女性を気遣うように言葉を選んで話している様子の大葉に、羽理は胸が張り裂けそうにチクチクと痛んだ。
(ねぇ大葉。最初からお見合い相手が彼女だって知っていたらどうしていたの? ――もしかして、断らなかった……?)
その忖度が大葉の優しさなのだと理解は出来るけれど、そんな不安に苛まれるあまり、羽理はいっそのこと『放せ』と冷たく言い放って、彼女のことを突き飛ばして欲しいと思ってしまった。
(ヤダ。……私、すごくイヤな女になってる……)
自分にするみたいに、大葉が彼女の背中へ腕を回していなかったことは一目瞭然で……。それだけでも自分の方が〝杏子〟さんとやらより大葉から優遇されているのは明確なのに。それでもこんなに不安になって、杏子さんが大葉から傷つけられるのを望んでしまっている。
――こんなの、人として最低じゃない!
ズキズキと痛みを訴えてくる胸のところをギュウッと掴みながら、羽理は大葉起因のこの胸の痛みや動悸のことを、心臓の病気だと思っていた頃を懐かしく思う。
あの頃ならばきっと、こんなシーンを見せられてもここまで辛くならなかったはずだ。
「もう、イヤ……」
ポロリと涙をこぼしてそうつぶやいたと同時。
大葉が「けどごめん。伯父さんが期待させるようなこと言って悪かったとは思うけど……俺にはもう心に決めた女性がいるんだ。……だから、キミとはどうこうなれない」と杏子をハッキリと拒絶して……。キュウリが少し離れたところへ立ち尽くしたままの羽理に気付いて、尻尾を振りながら駆け寄ってきた。
***
今の今まで足元でキャンキャン吠えていた愛犬キュウリが、ふと何かに気付いたようにぴたりと吠えるのをやめて駆け出したことに、大葉は思わず意識をそちらに囚われて。
見るとはなしにキュウリの動作を追って背後に視線を向けて、三メートルばかり離れたところに羽理が立っているのに気が付いた。
「羽理……!」
大葉より一足早く羽理の足元へたどり着いたキュウリが、嬉しそうに彼女の足元で尻尾をブンブン振りながら、撫でられ待ちをするみたいにお座りをして羽理を見上げている。
杏子への塩対応が嘘みたいに羽理へ甘える愛娘の態度に、大葉はキュウリも自分のパートナーとして羽理を認めてくれているような気がして何だか嬉しくなった。
思い返してみれば、キュウリは初めましての時から羽理には吠え付かなかったな? と、今更のように気付かされる。
実家へ来るまでの道すがら、散々アレコレ思い悩んでいたくせに、羽理と彼女に懐く愛犬の姿を見た途端全てどうでもよくなって……。ただただ羽理を腕の中へ抱き締めたい! と思った。
大葉がその衝動に突き動かされるみたいに一歩足を踏み出したら、「ヤダ! たいくん、行かないで!」と杏子に右腕全体を抱き締めるみたいに掴まれて――。
それを見た羽理が、居た堪れないみたいに眉根を寄せて、フイッと大葉から視線を逸らした。
そればかりか、クルリと向きを変えて大葉から逃げたいみたいに歩き始めてしまうから。
「――っ!」
大葉は羽理以外のことなんてどうでもいいと思ってしまった。
(ねぇ大葉。最初からお見合い相手が彼女だって知っていたらどうしていたの? ――もしかして、断らなかった……?)
その忖度が大葉の優しさなのだと理解は出来るけれど、そんな不安に苛まれるあまり、羽理はいっそのこと『放せ』と冷たく言い放って、彼女のことを突き飛ばして欲しいと思ってしまった。
(ヤダ。……私、すごくイヤな女になってる……)
自分にするみたいに、大葉が彼女の背中へ腕を回していなかったことは一目瞭然で……。それだけでも自分の方が〝杏子〟さんとやらより大葉から優遇されているのは明確なのに。それでもこんなに不安になって、杏子さんが大葉から傷つけられるのを望んでしまっている。
――こんなの、人として最低じゃない!
ズキズキと痛みを訴えてくる胸のところをギュウッと掴みながら、羽理は大葉起因のこの胸の痛みや動悸のことを、心臓の病気だと思っていた頃を懐かしく思う。
あの頃ならばきっと、こんなシーンを見せられてもここまで辛くならなかったはずだ。
「もう、イヤ……」
ポロリと涙をこぼしてそうつぶやいたと同時。
大葉が「けどごめん。伯父さんが期待させるようなこと言って悪かったとは思うけど……俺にはもう心に決めた女性がいるんだ。……だから、キミとはどうこうなれない」と杏子をハッキリと拒絶して……。キュウリが少し離れたところへ立ち尽くしたままの羽理に気付いて、尻尾を振りながら駆け寄ってきた。
***
今の今まで足元でキャンキャン吠えていた愛犬キュウリが、ふと何かに気付いたようにぴたりと吠えるのをやめて駆け出したことに、大葉は思わず意識をそちらに囚われて。
見るとはなしにキュウリの動作を追って背後に視線を向けて、三メートルばかり離れたところに羽理が立っているのに気が付いた。
「羽理……!」
大葉より一足早く羽理の足元へたどり着いたキュウリが、嬉しそうに彼女の足元で尻尾をブンブン振りながら、撫でられ待ちをするみたいにお座りをして羽理を見上げている。
杏子への塩対応が嘘みたいに羽理へ甘える愛娘の態度に、大葉はキュウリも自分のパートナーとして羽理を認めてくれているような気がして何だか嬉しくなった。
思い返してみれば、キュウリは初めましての時から羽理には吠え付かなかったな? と、今更のように気付かされる。
実家へ来るまでの道すがら、散々アレコレ思い悩んでいたくせに、羽理と彼女に懐く愛犬の姿を見た途端全てどうでもよくなって……。ただただ羽理を腕の中へ抱き締めたい! と思った。
大葉がその衝動に突き動かされるみたいに一歩足を踏み出したら、「ヤダ! たいくん、行かないで!」と杏子に右腕全体を抱き締めるみたいに掴まれて――。
それを見た羽理が、居た堪れないみたいに眉根を寄せて、フイッと大葉から視線を逸らした。
そればかりか、クルリと向きを変えて大葉から逃げたいみたいに歩き始めてしまうから。
「――っ!」
大葉は羽理以外のことなんてどうでもいいと思ってしまった。
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