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17.彼の恋愛対象は/written by 鷹槻れん

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萌々ももちゃん、何かあった?」


 逃げるようにりゅうちゃん達の前から走り去って……えっちゃんと待ち合わせをしていた場所に向かったら、彼女が即座に私の異変に気付いてそう問いかけてきた。

 今日は2校時目からの授業だったから、いつもより少しのんびりめに家を出て、えっちゃんと途中のカフェでお茶をしてから一緒に登校しようって約束をしてて。

 日頃は通らないルートを通って登校したのだけれど……まさかそこでになっちゃうなんて。


 いま思い出しても気持ちの整理がつけられなくて混乱してしまう。


 隆ちゃんが、私のことを全く〝恋愛対象〟として見てくれていないことはとっくの昔に分かっていた。


 でも、〝隆ちゃんは男〟で〝私は女〟だから――。

 男と女である以上、いつどこで何があるかなんて分からないじゃない?、ってそれだけを支えにずっと彼のことを想い続けてきたのに――。

 もし……隆ちゃんの〝恋愛対象〟がのだとしたら……私がよすがにしていたものは、逆にかせにしかならないのだと思い知らされた。


 りゅうちゃん、せめて恋愛対象だったらいいのにな。

 無意識にそんな勝手なことを思ってしまって、小さく吐息を落とす。


 例えそうだったとしても、今日隆ちゃんが一緒にいたみたいなタイプが、隆ちゃんの好みなんだとしたら……ちんちくりんの私が入り込める余地なんて欠片もないじゃないの。

 そう、気が付いた。


***


「……えっちゃん、好きな人が女性を好きになれない人だったら……どうする?」

 それはえっちゃんにとっては「久遠寺くおんじくんがそうだったらどうする?」になってしまうのだけれど……。

 久遠寺くんの恋愛対象がそうでないことなんて、痛いくらい分かっているくせに、無意味な「たられば」を友人に投げかけてしまう程度には私、狼狽ろうばいしてて。

 ごめんね、えっちゃん。もしもの話だから、そこは違う人を想定して答えてね。

 そう思ったのだけれど。


「――萌々ももちゃん、それ……」

 なのにえっちゃんは何故かハッとしたように私を見詰めてくるの。

「――?」

 その真剣な眼差しに、私はドキドキしてしまう。


「萌々ちゃんも……もしかしてに……気付いた……?」

 私はえっちゃんの言葉に、私が久遠寺くおんじくんから告白されてしまったこと、もしかして知ってしまったの?と言葉に詰まって。

 何て答えたらいいんだろうってうつむいた……。

 なのに、「今の仮定って……久遠寺くんのことだよね?」って恐る恐る続けられて。

 え? どういうこと?と思ってしまう。

 ちょ、ちょっと待って?
 「今の仮定」って……もしかしてえっちゃん、恋愛対象が女性でなかったら、云々うんぬんのこと、指してる?

 久遠寺くんがなんだって、言ってる?


 え?
 え??
 えーっ!?

 ちょっと待って、えっちゃん。
 何でそんな話にっ!?
 私が知らない間に久遠寺くんと何があったの!?


 私はりゅうちゃんのことを束の間忘れて、えっちゃんをじっと見詰めた。
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