【完結】光と闇の境界線〜『月夜の約束』②〜

鷹槻れん

文字の大きさ
10 / 40
不測の事態

-

しおりを挟む
 秋も深まった今、さすがに春のように原っぱ一面に野イチゴが♪という光景は見られなくなっていた。

「蛇、居ないよね?」

 前を歩くナスターについて恐る恐る足を踏み出しながら、パティスがつぶやく。

 幸い夜空に浮かんだ満月が、惜しみない月光を降り注がせてくれているので視界は思いのほか開けている。
 それでも草が生い茂った野原は、パティスにはちょっぴり怖かった。
 十年前、ブレイズに連れられてここを訪れたとき、気をつけて歩かなければ毒蛇がいるぞ、とたしなめられたのを覚えているからだ。

 あのときパティスはブレイズが吸血鬼だなんて知らなくて……。
 空には今みたいにまん丸なお月様が浮かんでいた。

 激情に任せて家出してみたものの、移動費だけで所持金を使い切ってしまったあの日のパティス。
 泊まる場所はおろか、食料さえ確保していなかった自分に、ブレイズが食べさせてくれたのがここの野イチゴだったのだ。

「ブレイズの足元に影が出来ていないって気付かされたときはビックリしたっけ」

 今宵こよいも、自分の足元には色濃く影が落ちている。

 でも、同じ月明かりの下、どこに居るのか分からないブレイズにはないはずだ。

 そう思ったら何だか切なくなった。


「ブレイズ……」

 自分は吸血鬼なのだ、と明かしたあの日のブレイズは、とても寂しそうな目をしていた。
 それを思い出したのだ。

「どこにいるの?」

 いつも、何も告げずにふらりと出て行ってしまうブレイズに、パティスは怒りを感じる以上に不安を覚えていた。

 遠いあの日、自分は一人ぼっちなのだと悲しい目をしたブレイズは、もう過去の人なのかもしれない。

(ブレイズ、実はどこかにもっと素敵な相手を見つけていて、自分がいなくなっても寂しいなんて思ってくれないんじゃ……?)

 ふとそんなことを考えて、パティスは慌ててそれを否定した。

「……そんなはず、ないよね」

 不吉な考えに、いつの間にか足が停まっていた。

 引き綱の先を握るパティスが動かなくなったことに気付いたナスターが、近付いてきてパティスの手を舐める。

「ナスター」

 温もりはなくても、こういう気遣いが堪らなく嬉しい。

「有難う」

 ブレイズの使い魔であるナスターは、こんなにも優しい。だからブレイズだって。

 ナスターの製作に、半分は自分の手も加わっていることはこの際考えないことにした。

 その間も、ずっと気遣わしげに自分のことを見上げ続けていたナスターに、パティスはニコッと微笑んだ。

「心配かけてごめんね」

 言って、ナスターの前にしゃがみ込もうとしたら、地面がぐらりと揺れた。

「あ、れ……?」

 グルグルと回る世界の中、パティスは草のにおいと、降り注ぐ月光のほのかな明かりが混ざり合うのを感じた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

高塚くんの愛はとっても重いらしい

橋本彩里(Ayari)
恋愛
時期外れ、しかも偏差値の高い有名校からなぜかわざわざやってきた話題の転校生。 「どこに隠れていたの?」 そんな彼に、突然探していたと莉乃は背後から抱きしめられ、強引に連れて行かれる。 その日から莉乃は高塚くんに振り回される毎日。 この関係は何? 悩みながらもまるで大事な恋人のように莉乃を扱う彼に絆されかけていた、あの言葉を聞くまでは……。 高塚くんの重愛と狂愛。 すれ違いラブ。 見目がいいだけの男ではないのでご注意ください。 表紙イラストは友人のkouma.作です。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

処理中です...