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不測の事態
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秋も深まった今、さすがに春のように原っぱ一面に野イチゴが♪という光景は見られなくなっていた。
「蛇、居ないよね?」
前を歩くナスターについて恐る恐る足を踏み出しながら、パティスがつぶやく。
幸い夜空に浮かんだ満月が、惜しみない月光を降り注がせてくれているので視界は思いのほか開けている。
それでも草が生い茂った野原は、パティスにはちょっぴり怖かった。
十年前、ブレイズに連れられてここを訪れたとき、気をつけて歩かなければ毒蛇がいるぞ、とたしなめられたのを覚えているからだ。
あのときパティスはブレイズが吸血鬼だなんて知らなくて……。
空には今みたいにまん丸なお月様が浮かんでいた。
激情に任せて家出してみたものの、移動費だけで所持金を使い切ってしまったあの日のパティス。
泊まる場所はおろか、食料さえ確保していなかった自分に、ブレイズが食べさせてくれたのがここの野イチゴだったのだ。
「ブレイズの足元に影が出来ていないって気付かされたときはビックリしたっけ」
今宵も、自分の足元には色濃く影が落ちている。
でも、同じ月明かりの下、どこに居るのか分からないブレイズにはないはずだ。
そう思ったら何だか切なくなった。
「ブレイズ……」
自分は吸血鬼なのだ、と明かしたあの日のブレイズは、とても寂しそうな目をしていた。
それを思い出したのだ。
「どこにいるの?」
いつも、何も告げずにふらりと出て行ってしまうブレイズに、パティスは怒りを感じる以上に不安を覚えていた。
遠いあの日、自分は一人ぼっちなのだと悲しい目をしたブレイズは、もう過去の人なのかもしれない。
(ブレイズ、実はどこかにもっと素敵な相手を見つけていて、自分がいなくなっても寂しいなんて思ってくれないんじゃ……?)
ふとそんなことを考えて、パティスは慌ててそれを否定した。
「……そんなはず、ないよね」
不吉な考えに、いつの間にか足が停まっていた。
引き綱の先を握るパティスが動かなくなったことに気付いたナスターが、近付いてきてパティスの手を舐める。
「ナスター」
温もりはなくても、こういう気遣いが堪らなく嬉しい。
「有難う」
ブレイズの使い魔であるナスターは、こんなにも優しい。だからブレイズだって。
ナスターの製作に、半分は自分の手も加わっていることはこの際考えないことにした。
その間も、ずっと気遣わしげに自分のことを見上げ続けていたナスターに、パティスはニコッと微笑んだ。
「心配かけてごめんね」
言って、ナスターの前にしゃがみ込もうとしたら、地面がぐらりと揺れた。
「あ、れ……?」
グルグルと回る世界の中、パティスは草のにおいと、降り注ぐ月光のほのかな明かりが混ざり合うのを感じた――。
「蛇、居ないよね?」
前を歩くナスターについて恐る恐る足を踏み出しながら、パティスがつぶやく。
幸い夜空に浮かんだ満月が、惜しみない月光を降り注がせてくれているので視界は思いのほか開けている。
それでも草が生い茂った野原は、パティスにはちょっぴり怖かった。
十年前、ブレイズに連れられてここを訪れたとき、気をつけて歩かなければ毒蛇がいるぞ、とたしなめられたのを覚えているからだ。
あのときパティスはブレイズが吸血鬼だなんて知らなくて……。
空には今みたいにまん丸なお月様が浮かんでいた。
激情に任せて家出してみたものの、移動費だけで所持金を使い切ってしまったあの日のパティス。
泊まる場所はおろか、食料さえ確保していなかった自分に、ブレイズが食べさせてくれたのがここの野イチゴだったのだ。
「ブレイズの足元に影が出来ていないって気付かされたときはビックリしたっけ」
今宵も、自分の足元には色濃く影が落ちている。
でも、同じ月明かりの下、どこに居るのか分からないブレイズにはないはずだ。
そう思ったら何だか切なくなった。
「ブレイズ……」
自分は吸血鬼なのだ、と明かしたあの日のブレイズは、とても寂しそうな目をしていた。
それを思い出したのだ。
「どこにいるの?」
いつも、何も告げずにふらりと出て行ってしまうブレイズに、パティスは怒りを感じる以上に不安を覚えていた。
遠いあの日、自分は一人ぼっちなのだと悲しい目をしたブレイズは、もう過去の人なのかもしれない。
(ブレイズ、実はどこかにもっと素敵な相手を見つけていて、自分がいなくなっても寂しいなんて思ってくれないんじゃ……?)
ふとそんなことを考えて、パティスは慌ててそれを否定した。
「……そんなはず、ないよね」
不吉な考えに、いつの間にか足が停まっていた。
引き綱の先を握るパティスが動かなくなったことに気付いたナスターが、近付いてきてパティスの手を舐める。
「ナスター」
温もりはなくても、こういう気遣いが堪らなく嬉しい。
「有難う」
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ナスターの製作に、半分は自分の手も加わっていることはこの際考えないことにした。
その間も、ずっと気遣わしげに自分のことを見上げ続けていたナスターに、パティスはニコッと微笑んだ。
「心配かけてごめんね」
言って、ナスターの前にしゃがみ込もうとしたら、地面がぐらりと揺れた。
「あ、れ……?」
グルグルと回る世界の中、パティスは草のにおいと、降り注ぐ月光のほのかな明かりが混ざり合うのを感じた――。
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