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キミを見つけた日
僕だけが知っていればいい
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キミのことを好きになってしまった瞬間、僕の中で何かが静かに音を立てて壊れていくのを感じた。
今までの僕ならば、素敵なものを見つけたらみんなに共有したいって思ったはずなのに。
なんでかな?
キミのことは……キミの魅力だけは……誰にも教えたくないって思ったんだ。
キミが誰よりも綺麗で……誰よりも可愛いことは、僕だけが知っていればいい。
誰にも知られたくない。
〝地味子ちゃん〟と揶揄われている眼鏡っ子のキミが、誰よりも美人で、誰よりも可愛いってこと――。
***
全国各地に数ある国公立大学の中でも偏差値が高くて有名な『明都大学法学部』へ首位で入学したのは、実家が創業八〇年近い法律事務所を営む法律一家の跡取りたる僕には当然のことだった。
父も母も、そんな僕の頑張りを褒めてくれることなんてない。
いつもそう。
出来て当たり前。出来なければ両親から軽蔑の目で見られ、結果を出せなければ問答無用で蔑まれる。けれど……出来たときにはそれが当然なのだという顔をされてしまう。
それが、僕が育った八神家の日常だった。
大学入学を機に、そんな両親から離れて一人暮らしが出来るようになったのは僕にとって行幸だった。
表向きはニッコリ笑顔で誰にでも優しく。
生まれ持った美貌と、物腰柔らかな微笑み。
幼い頃から、両親に〝そうあるべき〟だと押し付けられ、自然と身についていたクソみたいな表の顔。
そうしていさえすれば、周りの人間も僕に好意を持って接してくれるということが分かってからは、人生をイージーモードに運ぶためにもこの〝仮面〟は重要だと学んだ。
そんな感じで一年生の春。
そもそも入学式で新入生代表として祝辞を述べた時から、僕は学内では有名な存在。
誰も彼もが僕に近付きたがったし、そんな輩に対して僕はにこやかに応対した。
成績優秀でお高く留まったやつ。そんな風に思われないために、最新の注意を払って学生生活をスタートしたのだ。
その甲斐あって、僕のことを女子たちが密かに(?)『明都大の王子様』なんて恥ずかしいあだ名をつけて噂しているのを僕は知っている。
(ホント、みんなチョロいよね)
なんて本心は、もちろんおくびにも出さないよ?
でも、そんな僕とは対照的な位置づけの〝篠宮沙良〟という子だけは違ったんだ。
僕がどんなに笑いかけても、どんなに優しい言葉をかけても、〝彼女〟だけはまるで僕に興味がないみたいに俯いたままだった。
一年生の選択科目で履修した心理学概論の授業でたまたま同じグループに振り分けられた中に、篠宮沙良はいた。
文学部の女子生徒だという彼女は、まるでそこだけ照明が落ちてるんじゃないの? と錯覚してしまうような暗さを持っていた。
グループワークの最中も、僕や周りのメンバーがどんなに話しかけても、彼女は一言もしゃべらず、ずっとメモだけを黙々と取っていたんだ。
(僕に興味を持たない子なんて新鮮だ……)
そう思ったのを覚えている。
だけど僕はそんな彼女にだって他の子たちにするように、分け隔てなく接したんだ。
当然だよね。
両親に常に認められる存在でいるためにも、僕はいついかなる時にも手を抜くわけにはいかないんだから。
なのに――。
僕の方を見ようともしないってどういうこと?
そんな〝稀有〟な存在に、僕は初めての敗北感を覚えた。
最初は本当、そんなくだらない理由で僕はキミに興味を持ったんだ。絶対に彼女に僕を認識させてやるんだ、ってね。
だけど――。
その後も、気が付けば僕は学内で彼女を見かける度に、妙に篠宮さんのことを気にしていることに気が付いて……ああ、これは〝よくない兆候〟だなって思った。
だってこの感じ。高校生の頃にクラスメートの女の子を好きになった時に似てるんだもの。あの時は僕が未熟過ぎて、せっかく好きな子と恋人同士になれたのに……彼女との距離の詰め方を間違えてしまって、最終的には彼女に気味悪がられて逃げられてしまった。
僕は誰かを好きになり過ぎると後先考えられなくなるところがあるらしい。
その子しか見えなくなって、世界が狭まってしまうんだ。
でも大丈夫。……僕は成長のない子供じゃない。
あのとき負った痛手からちゃんと学習しているし、あの時と同じ轍は二度と踏まないつもりだ。
今までの僕ならば、素敵なものを見つけたらみんなに共有したいって思ったはずなのに。
なんでかな?
キミのことは……キミの魅力だけは……誰にも教えたくないって思ったんだ。
キミが誰よりも綺麗で……誰よりも可愛いことは、僕だけが知っていればいい。
誰にも知られたくない。
〝地味子ちゃん〟と揶揄われている眼鏡っ子のキミが、誰よりも美人で、誰よりも可愛いってこと――。
***
全国各地に数ある国公立大学の中でも偏差値が高くて有名な『明都大学法学部』へ首位で入学したのは、実家が創業八〇年近い法律事務所を営む法律一家の跡取りたる僕には当然のことだった。
父も母も、そんな僕の頑張りを褒めてくれることなんてない。
いつもそう。
出来て当たり前。出来なければ両親から軽蔑の目で見られ、結果を出せなければ問答無用で蔑まれる。けれど……出来たときにはそれが当然なのだという顔をされてしまう。
それが、僕が育った八神家の日常だった。
大学入学を機に、そんな両親から離れて一人暮らしが出来るようになったのは僕にとって行幸だった。
表向きはニッコリ笑顔で誰にでも優しく。
生まれ持った美貌と、物腰柔らかな微笑み。
幼い頃から、両親に〝そうあるべき〟だと押し付けられ、自然と身についていたクソみたいな表の顔。
そうしていさえすれば、周りの人間も僕に好意を持って接してくれるということが分かってからは、人生をイージーモードに運ぶためにもこの〝仮面〟は重要だと学んだ。
そんな感じで一年生の春。
そもそも入学式で新入生代表として祝辞を述べた時から、僕は学内では有名な存在。
誰も彼もが僕に近付きたがったし、そんな輩に対して僕はにこやかに応対した。
成績優秀でお高く留まったやつ。そんな風に思われないために、最新の注意を払って学生生活をスタートしたのだ。
その甲斐あって、僕のことを女子たちが密かに(?)『明都大の王子様』なんて恥ずかしいあだ名をつけて噂しているのを僕は知っている。
(ホント、みんなチョロいよね)
なんて本心は、もちろんおくびにも出さないよ?
でも、そんな僕とは対照的な位置づけの〝篠宮沙良〟という子だけは違ったんだ。
僕がどんなに笑いかけても、どんなに優しい言葉をかけても、〝彼女〟だけはまるで僕に興味がないみたいに俯いたままだった。
一年生の選択科目で履修した心理学概論の授業でたまたま同じグループに振り分けられた中に、篠宮沙良はいた。
文学部の女子生徒だという彼女は、まるでそこだけ照明が落ちてるんじゃないの? と錯覚してしまうような暗さを持っていた。
グループワークの最中も、僕や周りのメンバーがどんなに話しかけても、彼女は一言もしゃべらず、ずっとメモだけを黙々と取っていたんだ。
(僕に興味を持たない子なんて新鮮だ……)
そう思ったのを覚えている。
だけど僕はそんな彼女にだって他の子たちにするように、分け隔てなく接したんだ。
当然だよね。
両親に常に認められる存在でいるためにも、僕はいついかなる時にも手を抜くわけにはいかないんだから。
なのに――。
僕の方を見ようともしないってどういうこと?
そんな〝稀有〟な存在に、僕は初めての敗北感を覚えた。
最初は本当、そんなくだらない理由で僕はキミに興味を持ったんだ。絶対に彼女に僕を認識させてやるんだ、ってね。
だけど――。
その後も、気が付けば僕は学内で彼女を見かける度に、妙に篠宮さんのことを気にしていることに気が付いて……ああ、これは〝よくない兆候〟だなって思った。
だってこの感じ。高校生の頃にクラスメートの女の子を好きになった時に似てるんだもの。あの時は僕が未熟過ぎて、せっかく好きな子と恋人同士になれたのに……彼女との距離の詰め方を間違えてしまって、最終的には彼女に気味悪がられて逃げられてしまった。
僕は誰かを好きになり過ぎると後先考えられなくなるところがあるらしい。
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でも大丈夫。……僕は成長のない子供じゃない。
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