【完結】【R18】誰にも見せたくない〜僕だけの君でいて?〜

鷹槻れん

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キミと僕だけの世界*

リラックスできますように

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 高校時代から独学で作ってきたスマートフォン用アプリと、データ解析に基づいた投資で得た収益。
 人の心理を読むのは得意だから、株も仮想通貨も、読みさえ間違えなければ悪くない金になる。

 それらを元手にした副業収入で、僕はもう、親のスネをかじらなくても生きていけるし、司法試験に合格すれば更に稼げるようになるはずだ。

 キミを囲うのに、他力なんてイヤだからね。

 僕がキミを迎える場所として、自力で稼いだ金でこの部屋を選んだ。それだけの話だ。

 だけど僕の心配をよそに、沙良は違うことを思っていたらしい。

「……ごめんなさい。急にお邪魔してしまって。もしかして……朔夜さくやさん、ご家族と一緒にお住まいなんじゃ?」

 沙良にはここがファミリー向けの物件に見えたらしい。
(なんて可愛くて純粋な発想だろう!)
 けど……うん。僕がキミと暮らすこと想定で用意したマンションだからね。ある意味間違ってないよ?

「あぁ。そういうことか。ちゃんと話してなくてごめんね? ここ、すっごく広いけど僕一人で住んでる家だから安心して?」

「えっ?」

「僕の実家が、結構大きな弁護士事務所を開設してる弁護士一家だっていうのは沙良、知ってる?」
「……いえ、初めて聞きました」
「そっか。まあ、僕自身はまだただの学生だけどね。両親が心配性でさ。一人暮らしするって言ったら、絶対に〝セキュリティ重視で選びなさい〟ってうるさくて」

 僕は照れたように笑ってみせた。

「……それで、ちょっとオーバースペックな部屋になっちゃったんだ」

 恥ずかしそうに言った僕に、沙良がふっと笑う。けれどその瞳には、まだほんの少しだけ緊張の色が浮かんでいる。

「広くても僕一人の家だし、そんなに肩ひじ張らなくていいからね? ……キミを招き入れたからには、とにかく沙良に安心してくつろいで欲しいんだ」

 僕はそっと沙良の手を取ると、彼女の手を引いてリビングの奥のソファへと促した。

「ここでちょっと待ってて? すぐ温かい飲み物を淹れるから」

「あ、あの、でも……」

 ソワソワと僕を見つめてくる沙良に、僕はにっこり微笑んだ。

「お願い、大好きなキミをおもてなしさせて?」

 縋るような思いを眼差しに乗せれば、沙良が戸惑いながらも小さく頷いてそろそろとソファへ腰を落ち着けてくれた。

 そんな沙良の様子を目の端に収めながら、僕はキッチンに立って、ティーポットを温める。
 今日、用意するのはこの日のために研究を重ねた特別ブレンド――。僕が〝沙良のためだけに〟作った、最高にリラックスできて……うまくすればキミが眠ってしまうやつ。
(眠らないとしても、意識がトロンとするはずだ)

 乾燥させたカモミールの花に、削ったレモンの皮を少量。蜂蜜をティースプーンに一杯。
 そして、香り付け程度に垂らすのは、熟成されたブランデー。このお酒の加減が一番苦労したポイント。
 余りにたくさん入れ過ぎるといかにもアルコールです、って感じになって警戒されそうだし、少なすぎると効果が薄くなっちゃう。
 沙良が酒に弱いことは織り込み済みだから……同じようにアルコール慣れしてない子で、僕はたくさん実験を重ねたんだ。
 もちろん他の子には興味なんてないし、寝かせるだけで手なんて出してないけど……沙良は別。
 キミにはこれを飲ませてしてみたいことがたくさんある。

 僕の手元で沙良のためだけに開発したスペシャルブレンドが温かい蒸気とともに溶け合って、空気に甘く柔らかい香りが広がっていく。

 淹れている僕自身が眠くなりそうなくらい、優しい香り。

(……でも、眠るのは沙良だよ?)

 ホカホカと湯気のくゆるティーポットとカップをトレイに乗せてリビングへ戻ると、沙良は両手を膝の上で組んで、所在なさげに僕を見つめてきた。
 ソファの端っこ。まるで、部屋全体に対して遠慮しているみたい。

「はい。僕の特製カモミールブレンド。……ちょっとだけ、大人味かも」

「え?」

「リラックス効果があるって言われててね。……ほんの少しだけ、香りづけにブランデーを入れてあるんだ。ほんとに気付かないくらいだから、安心して?」

 飲めば眠くなるだなんて、口が裂けても言えないね。

 沙良は驚いたように僕の顔を見て、それからそっとカップを受け取る。
 両手で抱えるようにして、鼻先に近づけ、ふわりと香りを吸い込んだ。

「……あ、いい匂い……。なんだか……落ち着きます」

 その言葉を聞いて、僕はゆっくりと微笑んだ。

(キミがハーブティーを、――中でもカモミールティーが特に好きなこと、僕は知ってるよ?)

「よかった。今日はいろんなことがあったもんね。どうか沙良がリラックスできますように」

 願いを込めるみたいに僕がつぶやけば、沙良が小さく頷いて、カップへそっと口をつけた。
 温かさに頬が緩み、身体から緊張が解けていくのが分かる。
 僕は沙良と一緒のものを飲んでいるふりをしながら、カップ越しに沙良の動向を丁寧にじっくりと観察する。

 ふぁ、と小さく沙良があくびをして、目が少し虚ろになってきた。

「沙良?」

 そっと彼女に呼び掛けて、沙良が手にしたままのカップを優しく引き取ってテーブルの上に戻せば、「朔夜、さ……?」と小さくつぶやいて、懸命に眠気と戦っている。

「眠くなっちゃった?」

 沙良の頬をそっと撫でて問い掛ければ、沙良が小さくうなずいた。やがて、ソファへもたれ掛かるようにして、まぶたがゆるく落ちかけては開かれる、というのを繰り返す。

「……すごく、あったかくて……なんだか……ほわほわします……」

(――ふふ。効いてきたね)

 ほくそ笑む僕のすぐそばで、沙良が目を閉じたまま、ぽつりとつぶやいた。

「……私って、ほんとダメな子ですよね……」

 不意にこぼれたその言葉に、僕は沙良の顔を見つめた。

「どうして?」
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