86 / 105
16.酒蔵祭り
修太郎さん、少し落ち着いてください!
しおりを挟む
「本当に暖かくしていらっしゃいますか? 外はすごく冷えますからね?」
朝から何度も何度も同じことを聞かれて、日織は苦笑しながら修太郎を見遣った。
「大丈夫なのです。先日修太郎さんが買ってくださった〝あったかテック〟もちゃんと服の下に着ていますし、何よりこの上にまだ法被も羽織るんですものっ」
修太郎がくれた黒色の〝あったかテック・スペシャルウォーム〟は吸湿発熱繊維というもので作られた肌着らしい。
何でも汗などの水分と反応して熱を発する素材なんだとか。
日織には詳しいシステムはよく分からなかったけれど、確かに着ているといつもの下着より暖かくて。
「ぬくぬくなのです♪」
黒と肌色を二枚ずつプレゼントされた日織は、ここ最近それを愛用させてもらっている。
「では……貼るカイロは――」
「ばっちりなのですっ!」
ペロンと背中のところを捲って腰元に貼り付けたカイロを見せると、修太郎、今度は「地肌に近過ぎませんか?」とオロオロする始末。
「あったかテックの上に着たニットに貼り付けてあるんですよ? 大丈夫なのですっ」
言っても、「いや、でももう一枚ぐらい何かあるところの方が」とか。
そんなところに貼り付けたら羽織った薄手のパーカーの上。外から丸見えになってしまうのだが、修太郎はそんなのお構いなし。
下手したら、その上に着る法被に貼り付けられたんでもいいんじゃないですか?などと突飛なことさえ言いかねない勢いだ。
「修太郎さんは本当心配性なのですっ。私、赤ちゃんじゃないんですから熱かったらちゃんとはがしますよ?」
クスッと笑う日織に、修太郎は「日織さんの綺麗な肌が火傷とかなさったら大変でしょう!」と言い募る。
「暖かくしましたか?とお聞きになられたかと思ったら今度は火傷の心配とか。修太郎さん、少し落ち着いてください!」
とうとうぷぅっと頬を膨らませた日織にたしなめられてしまった修太郎だ。
それでもソワソワ落ち着かない様子でハンドルを握ったまま助手席に座った妻をチラチラと窺い見て。
ややして諦めたように小さく吐息を落とすと、
「……式前の大事な時期です。くれぐれも体調にだけは気を付けてくださいね。僕も車を置いたら日織さんのいらっしゃるブースに即行で顔を出しますので」
そう告げてチラリと恨めしげに日織を見遣って前方に視線を戻すと、ハンドルを握る手に力を込めてもう一度だけはぁーと大きく溜め息をついた。
「そっ、そんなに急がれなくても私、本当大丈夫ですよっ?」
〝即行で〟に力を込めたからだろうか。
途端、日織がひゃわひゃわと慌てたように手を振ったけれど、そこはあえて黙殺した修太郎だ。
まぁ、修太郎が心配するのもある意味仕方がないことではあるのだ。
朝から何度も何度も同じことを聞かれて、日織は苦笑しながら修太郎を見遣った。
「大丈夫なのです。先日修太郎さんが買ってくださった〝あったかテック〟もちゃんと服の下に着ていますし、何よりこの上にまだ法被も羽織るんですものっ」
修太郎がくれた黒色の〝あったかテック・スペシャルウォーム〟は吸湿発熱繊維というもので作られた肌着らしい。
何でも汗などの水分と反応して熱を発する素材なんだとか。
日織には詳しいシステムはよく分からなかったけれど、確かに着ているといつもの下着より暖かくて。
「ぬくぬくなのです♪」
黒と肌色を二枚ずつプレゼントされた日織は、ここ最近それを愛用させてもらっている。
「では……貼るカイロは――」
「ばっちりなのですっ!」
ペロンと背中のところを捲って腰元に貼り付けたカイロを見せると、修太郎、今度は「地肌に近過ぎませんか?」とオロオロする始末。
「あったかテックの上に着たニットに貼り付けてあるんですよ? 大丈夫なのですっ」
言っても、「いや、でももう一枚ぐらい何かあるところの方が」とか。
そんなところに貼り付けたら羽織った薄手のパーカーの上。外から丸見えになってしまうのだが、修太郎はそんなのお構いなし。
下手したら、その上に着る法被に貼り付けられたんでもいいんじゃないですか?などと突飛なことさえ言いかねない勢いだ。
「修太郎さんは本当心配性なのですっ。私、赤ちゃんじゃないんですから熱かったらちゃんとはがしますよ?」
クスッと笑う日織に、修太郎は「日織さんの綺麗な肌が火傷とかなさったら大変でしょう!」と言い募る。
「暖かくしましたか?とお聞きになられたかと思ったら今度は火傷の心配とか。修太郎さん、少し落ち着いてください!」
とうとうぷぅっと頬を膨らませた日織にたしなめられてしまった修太郎だ。
それでもソワソワ落ち着かない様子でハンドルを握ったまま助手席に座った妻をチラチラと窺い見て。
ややして諦めたように小さく吐息を落とすと、
「……式前の大事な時期です。くれぐれも体調にだけは気を付けてくださいね。僕も車を置いたら日織さんのいらっしゃるブースに即行で顔を出しますので」
そう告げてチラリと恨めしげに日織を見遣って前方に視線を戻すと、ハンドルを握る手に力を込めてもう一度だけはぁーと大きく溜め息をついた。
「そっ、そんなに急がれなくても私、本当大丈夫ですよっ?」
〝即行で〟に力を込めたからだろうか。
途端、日織がひゃわひゃわと慌てたように手を振ったけれど、そこはあえて黙殺した修太郎だ。
まぁ、修太郎が心配するのもある意味仕方がないことではあるのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
31
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる