148 / 264
(21)解毒*
遅くなってすまなかった
しおりを挟む
「高嶺!? 何故お前がここに!?」
驚きの余りだろうか。風見が上司であるはずの高嶺尽のことを呼び捨てにして。
尽はそれを完全に無視すると、風見が何か言い募るのも聞かず大股でソファへ近付いた。そうして無言のまま風見を掴み上げて天莉から引き剥がすと、投げ捨てるように床へドサリと転がしてしまう。
本音を言えば、追い討ちで一・二発ぶん殴るか、蹴り飛ばすかして制裁を加えてやりたかった尽だ。
だが、ここへ突入する際、尽は直樹から【決して誰にも暴力を振るわないこと】を散々約束させられたのだ。
『お前がそんなことをしようものなら、減刑の材料にされかねない。相手が許せないと思うなら、絶対に手を上げたりするな! 分かったな!?』
勤務時間内であったにも関わらず、あえて直樹が秘書としてではなく、友として忠告してきた言葉に、尽はグッと奥歯を噛んで了承した。
『もしそれを守れないようなら、突入はお前には任せられない。僕が行く』と言い切られてしまったのもある。
室内にいる天莉の状態が分からなかったから、いくら信頼している直樹相手でも、これ以上自分以外の男を中へ踏み込ませたくないと思ってしまった尽だ。
もちろん、何の防御もなくいきなり自分が天莉と対面するのだって、本当に正解かどうかも分からなかった。けれど、少なくとも辛い思いをしているであろう天莉の姿を、これ以上他者の目に触れさせたくなかったのだ。
はやる気持ちを抑えるようにして、室内へ押し入ってみれば、幸い天莉はまだ服をまとっていてくれて。
素肌に直接ワンピースを着ず、下着でワンクッション設けていてくれたことが不幸中の幸いと言うべきか、背面のファスナーを完全に下ろされていても尚、天莉の肌はむき出しにならずに済んでいた。
でも――。
本来ならばそんな姿でさえ、他者に見せるようなものではない。
尽だって、自分以外の人間が天莉のあられもない姿を目にしたんだと思うと、腹立たしさに腑が煮え繰り返りそうなのだ。
そんな無体を強いられた天莉の気持ちを思うと、こうなる前に駆けつけられなかった自分の愚かさに心底腹が立つ。
風見を押し退けるなり見えた天莉の泣き濡れた顔から、相当怖い思いをさせられたのだと悟った尽は、愛しい女性をこんな目に遭わせた者達全てを地獄へ突き落してやりたいと思った。
そうして、その処罰対象の中には天莉を危険から守ってやることが出来なかった自分も含まれていると思った尽は、グッと唇を噛んで己の不甲斐なさを悔やみながら、スーツのジャケットを脱いで天莉を覆い隠してやる。
「……遅くなってすまなかった」
ジャケットで包み込むようにして壊れ物を扱うみたいにそっと天莉を抱きしめたら、尽の腕の中、天莉が涙に濡れたまつ毛を揺らしながら不安げに尽の方を見上げてきた。
「……め、なさ………」
そうしてボロボロに傷ついているにも関わらず、懸命に声にならない声で尽に謝罪の言葉を述べようとする。
『ごめんなさい』のたった六文字すらうまく紡げないことがもどかしくてたまらないという風に、今にも再び泣き出してしまいそうな顔をする天莉に、尽は胸がギュッと締め付けられて。
それと同時――。
驚きの余りだろうか。風見が上司であるはずの高嶺尽のことを呼び捨てにして。
尽はそれを完全に無視すると、風見が何か言い募るのも聞かず大股でソファへ近付いた。そうして無言のまま風見を掴み上げて天莉から引き剥がすと、投げ捨てるように床へドサリと転がしてしまう。
本音を言えば、追い討ちで一・二発ぶん殴るか、蹴り飛ばすかして制裁を加えてやりたかった尽だ。
だが、ここへ突入する際、尽は直樹から【決して誰にも暴力を振るわないこと】を散々約束させられたのだ。
『お前がそんなことをしようものなら、減刑の材料にされかねない。相手が許せないと思うなら、絶対に手を上げたりするな! 分かったな!?』
勤務時間内であったにも関わらず、あえて直樹が秘書としてではなく、友として忠告してきた言葉に、尽はグッと奥歯を噛んで了承した。
『もしそれを守れないようなら、突入はお前には任せられない。僕が行く』と言い切られてしまったのもある。
室内にいる天莉の状態が分からなかったから、いくら信頼している直樹相手でも、これ以上自分以外の男を中へ踏み込ませたくないと思ってしまった尽だ。
もちろん、何の防御もなくいきなり自分が天莉と対面するのだって、本当に正解かどうかも分からなかった。けれど、少なくとも辛い思いをしているであろう天莉の姿を、これ以上他者の目に触れさせたくなかったのだ。
はやる気持ちを抑えるようにして、室内へ押し入ってみれば、幸い天莉はまだ服をまとっていてくれて。
素肌に直接ワンピースを着ず、下着でワンクッション設けていてくれたことが不幸中の幸いと言うべきか、背面のファスナーを完全に下ろされていても尚、天莉の肌はむき出しにならずに済んでいた。
でも――。
本来ならばそんな姿でさえ、他者に見せるようなものではない。
尽だって、自分以外の人間が天莉のあられもない姿を目にしたんだと思うと、腹立たしさに腑が煮え繰り返りそうなのだ。
そんな無体を強いられた天莉の気持ちを思うと、こうなる前に駆けつけられなかった自分の愚かさに心底腹が立つ。
風見を押し退けるなり見えた天莉の泣き濡れた顔から、相当怖い思いをさせられたのだと悟った尽は、愛しい女性をこんな目に遭わせた者達全てを地獄へ突き落してやりたいと思った。
そうして、その処罰対象の中には天莉を危険から守ってやることが出来なかった自分も含まれていると思った尽は、グッと唇を噛んで己の不甲斐なさを悔やみながら、スーツのジャケットを脱いで天莉を覆い隠してやる。
「……遅くなってすまなかった」
ジャケットで包み込むようにして壊れ物を扱うみたいにそっと天莉を抱きしめたら、尽の腕の中、天莉が涙に濡れたまつ毛を揺らしながら不安げに尽の方を見上げてきた。
「……め、なさ………」
そうしてボロボロに傷ついているにも関わらず、懸命に声にならない声で尽に謝罪の言葉を述べようとする。
『ごめんなさい』のたった六文字すらうまく紡げないことがもどかしくてたまらないという風に、今にも再び泣き出してしまいそうな顔をする天莉に、尽は胸がギュッと締め付けられて。
それと同時――。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する
早瀬佳奈26才。
友達に頼み込まれて行った飲み会で
腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。
あまりの不愉快さに
二度と会いたくないと思っていたにも関わらず
再び仕事で顔を合わせることになる。
上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中
ふと見せる彼の優しい一面に触れて
佳奈は次第に高原に心を傾け出す。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!
如月 そら
恋愛
「それなら、いっそ契約婚でもするか?」
そう言った目の前の男は椿美冬の顔を見てふっと余裕のある笑みを浮かべた。
──契約結婚なのだから。
そんな風に思っていたのだけれど。
なんか妙に甘くないですか!?
アパレルメーカー社長の椿美冬とベンチャーキャピタルの副社長、槙野祐輔。
二人の結婚は果たして契約結婚か、溺愛婚か!?
※イラストは玉子様(@tamagokikaku)イラストの無断転載複写は禁止させて頂きます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる