8 / 28
8。
しおりを挟む
目の前では男二人が、何やら困った顔をして相談している。
何やら俺の処遇についてらしいが…困ってんならその辺に放り出せばいいのに、そうする気はないらしい。
「おれ、軽ーい雑談のつもりだったんだけどなあ…リーダー、どうします?」
「…そもそも、奴隷としての動物の売買は違法だ。どこの国でもな。ーーどっかの然るべき機関に引き渡して、保護を求めるのが妥当だろう」
「引き渡すって、このチビっ子をですかい?そこら中ケガしてんですぜ?」
こんなちっこいのに、そいつは可哀想じゃねーですか…と若い男の方が渋面を作る。
「最終的には商隊長の判断だが、何も今すぐってわけじゃない。怪我が治ってから、一番安全そうな国で引き渡すのが良いだろう」
「一番安全な国っていうと…あそこですかねー。例の女王の国」
「ま、ウチの商隊の目的地でもあるからな、ちょうど良いだろ」
…なんだか俺の意見なんて関係なしって感じで、どんどん話が纏まっていく。
俺は成り行きを黙って眺めながら、必死で考えていた。
そもそも、コイツらを信用していいのか?人間の、しかも男ーー俺を奴隷にしようとしていた奴隷商人たちと同じ種類の連中だ。
暗くなるのを待って、こっそりと逃げた方がいいんじゃないか?
そう思ってると、話し合いの終わったらしい二人がこちらを向いた。
「…ってことだ坊主。お前は、しばらくオレらと一緒にこの商隊で旅をしてもらう」
「逃げ出そうとか考えているかもだけど、この辺の国は物騒だからねー。絶対止めといた方がいいよー」
それにその脚、結構酷めに捻ってたから。しばらく立てないと思うよーと指を差される。
…完全に忘れてた。
包帯でグルグル巻きにされて見えないが、左右で足首の太さが倍ぐらい違ってる。
これは、しばらく逃げられないな。
「今は鎮痛剤が効いてるだろうが、まだかなり痛むハズだ。大人しく寝とけ」
「そうそう!そんだけ酷い捻挫は、ちゃんと治るのに一ヶ月くらい掛かると思うし?その頃には目的の国に着いてるからさー」
逃げんならそれからにしたら?おれらと一緒なら飯の心配もないよー、と続けられる。
ーーまあ、脚が治るまでは他に選択肢もないから、仕方ないな。
にしても…コイツらはなんで俺の面倒を見ようとしているんだろう?
それをそのまま聞いたら「置いてくのが心配だからに決まってるでしょ?!」と若い方に言われた。
心配って、どういう事だ?俺は犬だぞ?…お前ら人間は俺たちを奴隷として利用するか、愛玩動物として所有して気が向いた時に玩ぶだけなんじゃないのか?
なのにコイツら奴隷として売るつもりもなさそうだしーー人間って本当によく分からないな。
…あの女も、俺の手当てをして助けるつもりの様だったが。戻って俺がいないのを見て、どう思ったろう。
ーーひょっとして、心配したんだろうか?
まあ今となってはどうしようもないか。そもそも現実にあったことかどうかも定かじゃないしな……
…そう思っていたが。
「おおそうだ、お前を拾った場所にこれが落ちていてな。今返しておこう」
「あ、あったねーソレ。脚にも変わった植物で添え木がしてあったし、おれらの前にも誰か助けようとしてくれたんだよね?」
可愛いリボンだったから、きっと手当てしたのは女の子だよねーという声が聞こえた気もしたが、正直言葉が頭に入ってこなかった。
これ、この布は。
「ただ、リボンの端っこのは血文字だろう?オレ達には読めないが、なんて書いてあるんだろうな」
「ーーリュウ、だ」
「あれ、チビちゃんソレ読めるの?」
それとも今の、チビちゃんの名前?と聞かれる。
「ーーああ、多分。名前をくれると言っていた」
「つまりそのリボンは首輪として付けてもらったって事か」
「へぇ、そいつぁスゴいな!なら、そのリボンは大事に持っとかなきゃだなぁ」
「…そうだな、そうする」
そう言ってリボンを受け取る。
端の部分には、すっかり茶色く変色した血文字が残っていた。
ーーーやっぱり、夢じゃなかったのか。
何やら俺の処遇についてらしいが…困ってんならその辺に放り出せばいいのに、そうする気はないらしい。
「おれ、軽ーい雑談のつもりだったんだけどなあ…リーダー、どうします?」
「…そもそも、奴隷としての動物の売買は違法だ。どこの国でもな。ーーどっかの然るべき機関に引き渡して、保護を求めるのが妥当だろう」
「引き渡すって、このチビっ子をですかい?そこら中ケガしてんですぜ?」
こんなちっこいのに、そいつは可哀想じゃねーですか…と若い男の方が渋面を作る。
「最終的には商隊長の判断だが、何も今すぐってわけじゃない。怪我が治ってから、一番安全そうな国で引き渡すのが良いだろう」
「一番安全な国っていうと…あそこですかねー。例の女王の国」
「ま、ウチの商隊の目的地でもあるからな、ちょうど良いだろ」
…なんだか俺の意見なんて関係なしって感じで、どんどん話が纏まっていく。
俺は成り行きを黙って眺めながら、必死で考えていた。
そもそも、コイツらを信用していいのか?人間の、しかも男ーー俺を奴隷にしようとしていた奴隷商人たちと同じ種類の連中だ。
暗くなるのを待って、こっそりと逃げた方がいいんじゃないか?
そう思ってると、話し合いの終わったらしい二人がこちらを向いた。
「…ってことだ坊主。お前は、しばらくオレらと一緒にこの商隊で旅をしてもらう」
「逃げ出そうとか考えているかもだけど、この辺の国は物騒だからねー。絶対止めといた方がいいよー」
それにその脚、結構酷めに捻ってたから。しばらく立てないと思うよーと指を差される。
…完全に忘れてた。
包帯でグルグル巻きにされて見えないが、左右で足首の太さが倍ぐらい違ってる。
これは、しばらく逃げられないな。
「今は鎮痛剤が効いてるだろうが、まだかなり痛むハズだ。大人しく寝とけ」
「そうそう!そんだけ酷い捻挫は、ちゃんと治るのに一ヶ月くらい掛かると思うし?その頃には目的の国に着いてるからさー」
逃げんならそれからにしたら?おれらと一緒なら飯の心配もないよー、と続けられる。
ーーまあ、脚が治るまでは他に選択肢もないから、仕方ないな。
にしても…コイツらはなんで俺の面倒を見ようとしているんだろう?
それをそのまま聞いたら「置いてくのが心配だからに決まってるでしょ?!」と若い方に言われた。
心配って、どういう事だ?俺は犬だぞ?…お前ら人間は俺たちを奴隷として利用するか、愛玩動物として所有して気が向いた時に玩ぶだけなんじゃないのか?
なのにコイツら奴隷として売るつもりもなさそうだしーー人間って本当によく分からないな。
…あの女も、俺の手当てをして助けるつもりの様だったが。戻って俺がいないのを見て、どう思ったろう。
ーーひょっとして、心配したんだろうか?
まあ今となってはどうしようもないか。そもそも現実にあったことかどうかも定かじゃないしな……
…そう思っていたが。
「おおそうだ、お前を拾った場所にこれが落ちていてな。今返しておこう」
「あ、あったねーソレ。脚にも変わった植物で添え木がしてあったし、おれらの前にも誰か助けようとしてくれたんだよね?」
可愛いリボンだったから、きっと手当てしたのは女の子だよねーという声が聞こえた気もしたが、正直言葉が頭に入ってこなかった。
これ、この布は。
「ただ、リボンの端っこのは血文字だろう?オレ達には読めないが、なんて書いてあるんだろうな」
「ーーリュウ、だ」
「あれ、チビちゃんソレ読めるの?」
それとも今の、チビちゃんの名前?と聞かれる。
「ーーああ、多分。名前をくれると言っていた」
「つまりそのリボンは首輪として付けてもらったって事か」
「へぇ、そいつぁスゴいな!なら、そのリボンは大事に持っとかなきゃだなぁ」
「…そうだな、そうする」
そう言ってリボンを受け取る。
端の部分には、すっかり茶色く変色した血文字が残っていた。
ーーーやっぱり、夢じゃなかったのか。
0
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる