【本編完結】異世界から来た迷い犬は婚約破棄令嬢を拉致することにした

夕木アリス

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「コレの起動、ちょーーっと手間なんですけどねぇ?…まあゴネて居座られるよりかマシなので」
「お、なんだ。ちゃんとあるじゃねーの」
「ありますけどぉ、とーっても面倒なんですよね~」
「いいからさっさと動かして!」

職員と護衛のニイちゃん二人だけで会話を進めていくので、当事者の俺は完全に蚊帳の外だ。


「準備できましたよ、こちらへどうぞ」
しばらくして、水晶の前の椅子に座るよう促される。…だから、これは一体何なんだ。

「これはまあ、ノラかどうかの判別をつけるための魔道具だと思ってもらえれば」

…なんだその微妙な魔道具。ここでしか使わないようなものじゃないか。
作ったヤツは相当な暇人だな、間違いない。

「水晶を起動させた後に手を置いて、水晶が光れば飼い犬、光らなければノラって感じです。ではどうぞ」

ナニが“ではどうぞ”だ。怪しさ満点で試す気にもなれんぞ。
触った途端に呪われたりしないだろうな?

引き攣った顔で水晶を見つめていたら「チビちゃん頑張れー!」と間の抜けた応援が…ったく、お前のせいだぞこれ。
俺はこんなナントカカントカセンターに用なんてなかったのに、なんでこうなった。
あー、さっさと帰ってベッドにひっくり返りたい…。

そう思うが、これを終わらさない限りウチの連れの方が納得しなさそうなので、半ばヤケクソで言われた通りに手を置いてやる。
するとーー


一際明るく…というか目潰しに近いレベルでピカーっと水晶が光り、部屋全体が明るく照らされーーその後フッと光りが消えた。
唖然として手を置きっぱなしにしていると、そのままゆっくりしたリズムで水晶が明滅を繰り返す。

えっ…と、コレは。どっちなんだ?


手を離すタイミングが分からず職員やツレの方を交互に見るが、どちらも面食らったような顔で口を開けていた。
気づけば騒がしかったカウンター周辺も、水を打ったように静寂に包まれている。

これは…ひょっとして、何かマズい事をしたんだろうか。
どうしたもんかーー今からでもズラかれるかな。


そう思ってソッと手を戻し、椅子から静かに立ち上がって逃げようとしたがーー

「ま、待ってください!」
受付の職員にガシッ、と拘束されてしまった…遅かったか。

そのあとは周りの職員が蜂の巣を突いたように騒ぎ出し、そのままあれよあれよと言う間に連行されてしまった。


いやいや、何でだよーーー俺が何をやったんて言うんだ?!





連行された場所は、センター内の応接室だった。
なんでもあんな風に水晶が明滅するのはセンターができてから初めてのことらしく、運営母体ーーこの場合国そのものだった訳だが、そっちに急遽連絡しているから、返事が来るまで待ってほしい、とのことだった。

ついでに要らない情報だったが、光の強さは潜在的なものを含めての魔力の総量らしい…なんじゃそら。
魔力だけあっても、魔法の使えない俺には宝の持ち腐れだ。なんならどっかで売れればいいのに。

ちなみにツレの護衛の奴は、商隊の面子に連絡してくるとか何とかいってその時点で戻って行った…アイツ、バックれやがったな。

しょうがないから大人しく部屋で待っているうちに、あっという間にその情報が城の上層部に伝わり「面白そうだから連れてこい」となったらしい。

待っていた部屋から建物の外の妙な魔法陣に引っ張って行かれ、その時俺を連行していたやつに転移魔法とかいうのを使われ、目を開けたらもう城の中の一室に立っていたーー。





ーーと、いった感じで今に至っているのだが。


ホント、なんだかなぁ。と思いながら、俺は目の前の幼女な女王様を見る。

と言うか、なんでその見た目で俺よりも年上の娘がいるんだよ。色々おかしいだろ、どうやって産んだんだよ。

「んー、その辺の説明は省略じゃな。誰彼構わず話すなど言語道断だと、身内に釘を刺されておるでの」
…そして説明してくれないのかよ。


「ふむ、そう拗ねるでない。そのうち折をみて説明してやろう。
それより、じゃ。お前、誰ぞ異世界のものと契約を結んでおるの?
まだ仮のようじゃが、主従関係が成立しておる」
ちょい待てや。話が飛び過ぎてついていけない。

「お主、ここではない世界で、誰ぞに名前を貰ったろう?その時に、あわせて血の交換をしたはずじゃ」
覚えはないか?と言われてーーーうん、覚えてるな。

向こうには毒出しだか破傷風予防だかで、矢傷から血を吸い出されたし。
俺は手の甲の血のりを舐めとったから、その時だな。

「ふむ、それじゃな。名付けと同時に血の交換を行うと、“血の契約”の効果が発生する。
通常であれば書面にも起こして置くのじゃが、そこまでやったわけではないみたいじゃな」

なんか物騒な単語が出たな。なんだよ“血の契約“って。


「その辺も今日は時間がないから詳細はじゃ。
ざっくり言うなら、非常に強い繋がり結ぶという意思表示じゃの」

…またよく分からん単語を使ってくるし。後半は逆に普通の説明すぎてよく分からない。
強いと言われても、何がどう強いかが全く想像つかないんだが。

「補足するなら、“空間を飛び越えるほど”の繋がりなんじゃが……むふふ、良い事を思いついたわ。お主、わらわと取引をせんか?」


うっわ…これ、絶対面倒な事を押し付けられるヤツだ。間違いない。


悪い話ではないぞ?と言ってくるが目の前でニンマリ笑う様を見せられては、とても良い話とも思えず俺は頬をヒクリと痙攣ひきつらせたのだった。
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