【本編完結】森で遭難しかけたら獣とおかしな人達に囲まれました 〜飼い猫が私を逃してくれません!〜

夕木アリス

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1章

16。物件を紹介されました

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固まってる私を横にのけて、マゼンタが犬の不動産屋さんに声を掛ける。

「あ、いたいたオッちゃん!部屋借りたいんだけど、良いの紹介してくれよ!」
「おや、誰かと思えば。届け物屋の坊主達か。今日は仕事は頼んでないはずだが?」

器用に片方の眉だけ上げながら答える不動産屋さん。
というか、どうも顔見知りらしい。
相変わらずオマエら目に痛い色してんなぁと言いながら、マゼンタの耳を引っ張っている。

うん、やっぱりこの色、この世界でも派手ってことよね。
地毛じゃなくて染めているのかしら。


「あーもー止めろよ!違うって!今日は客なんだよっ」
「客?オマエらがか?いくら知り合いでもノラに家はーー」

そこまで言って、マゼンタが得意げに引っ張っている首輪に気づいたらしい。


首輪とマゼンタの顔を交互に見つめた後、改めてこちらの方に視線を合わせてきた。

「ーーってことはこっちの嬢ちゃ……お嬢さんが飼い主さんか?」
「あ、はい……一応そういうこと、みたいです……」
「一応って……いつコイツらと知り合った?」

昨日ですと答えると、正気かよと首を振られたーー困ったことに同感だ。

なんか穴が開きそうなくらいマジマジと見られている。
居心地悪い……て言うか居た堪れない。


そうこうしているうちに、シアンが壁に貼っていた間取り図を何枚か剥がして持ってきた。

おじさんはそれらにサッと目を通しながら、「ご希望は?」と聞いた。


「ペット可、個室が三部屋以上で家具つきの物件。郊外で構わないので、できれば隣近所とは離れた一軒家で」
「はあ……了解だ。で、申請書は?」
「昨日のうちに提出しました」
「手、早過ぎだろ……」


オマエらが飼い猫ねぇ、とつぶやきながら、おじさんは一枚の紙を抜き出してシアンに渡した。

「さっきの条件なら、まあこの辺が第一候補だな」

「案内してくれねーの?」
「必要ないだろ、勝手に見てこい。決めたらここに戻ってきな」

手続きはちゃんとしてやるよ、と言っておじさんはヒラヒラ手を振って奥に引っ込んでしまった。


「ちぇー。碌に接客してくれねえし」

今日はオレら客なのになーとぶちぶち文句を言いながら、マゼンタがシアンから受け取った物件情報の紙を確認している。
横から覗いてみたが、二階建ての一軒家のようだ。部屋数もあってそこそこ広そうに見える。

ただ、間取り図のところ以外は読んでもよく分からない。いや、文字は問題なく読めるのだけど。
住所は見たところで土地勘がないからさっぱりだし、通貨も違うようで家賃が安いのか高いのかも分からない。

しばらくはお世話になる家なのだろうけど、私は居候させてもらうだけだしね。
寝る場所さえ確保できるならそれで充分だわ。

それよりも、さっきおじさんが気になることを言っていたわよね。
私の隣に戻ってきたシアンに小声で尋ねてみる。


「ねえ、さっきの不動産屋さんって普段は仕事相手だったりするの?」
「ええ、たまに仕事を頼まれることはありますね」

おお、ちゃんと仕事してるんだ!
まあそうじゃなければ、部屋を借りることもできないものね。

「届け物屋、って言われてたけど。宅急便みたいな仕事?」

やっぱ猫だけに?黒くないのが惜しいけど。

「……宅急便が何かが分かりませんが、指定された場所にヒトやモノや情報なんかを届ける仕事になりますね」

人や情報も届ける?
タクシーとか郵便屋さんも兼ねてるのかしら?

首を傾げていると、マゼンタが「なんだよタクシーって」と突っ込んできた。聞いてたんだ?


「やっぱ、ちょいちょい知らない言葉使うよなオマエ……郵便はあるけど、そっちは手紙か小包くらいしか届けないし、時間も掛かるから。届け物屋とは別な」

……?届け物屋を使う方が早いってこと?

「んー、詳しい説明はまた後でな。それより家見に行こうぜ!」
「書類の確認は終わりましたか?」
「おう!条件は文句なくいい感じ。けど、見ないことには決めらんねえしな」

善は急げだ、今から行こうぜ!とマゼンタは気合い十分にドアから出て行ってしまった。

……

…………

ーーえ、もうお終い?不動産屋ここでの用事終わっちゃったの??


家を借りる時って、もっと色々相談しながら決めるもんじゃないの?
不動産屋さんと何件も部屋を回って中を見せてもらいながら、どの物件にしようかってじっくり考えるイメージだったんだけど。

こんな、入って挨拶して五分で終了、って感じで即決するものだろうか。

残ったシアンの方をちらりと見上げると「一応、最終的には見てから決めるので」と、フォローなのか何なのか分からない言葉が降ってきた。


……うん、いいんだけど。二人の家だしね。
そうつぶやけば、三人の家ですよ、と訂正された。

その割に私には意見も求めてくれないんだ、という言葉はしっかり飲み込むことにする。
盛大に拗ねてるだけに思われるのは、なんだかシャクだったから。

……これって結局は拗ねてるってことよね。ほんとシャクだわ。
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