【本編完結】森で遭難しかけたら獣とおかしな人達に囲まれました 〜飼い猫が私を逃してくれません!〜

夕木アリス

文字の大きさ
29 / 174
1章

24。留守番犬とご主人様

しおりを挟む
「あーっと……ウチのが本当にスマン事をしたな」

申し訳なかった、この通りだ。

私は今、いい歳の大人二人から頭を深々と下げらていた。
一人は自主的に、もう一人は頭を無理やり押さえられてだが。

私はといえば猫二匹から首と腰にそれぞれ腕を回され、両サイドからぎゅうぎゅうに締め上げられている。

……ぱっと見はイケメン二人に抱きつかれているとも言える、リア充な絵面ではあるのだけど。
私のコレに関しては明かに違うので、特に羞恥心が刺激されることもなく半ば放心しながら放置中だ。
だって実態としては、お気に入りのオモチャを取られそうになって威嚇している猫二匹、ってだけだし。

それはそれで微笑ましい図かもしれないが、艶っぽい何かはカケラもないし。

……年頃の乙女として、異性に抱きつかれてのノーリアクションはどうなのかと思うが、深く考えると墓穴を掘るので考えない。


ああ、うん。言っていることが迷走してるのは自分でも理解はしているのよ?

でもだってしょうがないじゃない。こっちは絶賛混乱中なのよ。
まずは誰かこの状況を説明してくれないかしら?


ーーさっきは救世主現るって感じがしたにも関わらず、現場はカオスのままだった。



体感的には一時間、実際にはおそらく数分が経過した後。
おじ様(一応助けてくれたので呼び方も格上げだ)が頭を上げて場所を変えようと提案してくれた。

一旦店のドアにクローズのプレートを掛けてから奥の部屋に通され、今はお詫びも兼ねたお茶をご馳走になっている。

謎の美女は犬の不動産屋さんにキツく言い渡されて渋々椅子に座っているが、なんで触っちゃダメなのよう、とぶーぶー文句を言っていた。

……いやいや、ぬいぐるみでもあるまいし。普通に考えてダメだろう。
この人初対面の距離感とかないのだろうか?

マゼンタもシアンも完全に警戒モードで、私と彼女の間に入って思いっきり威嚇している。
うーん、安心安定の猫っぽさね。


とりあえず二人に落ち着くよう声を掛け、少し下がってもらう。まずはちゃんと話がしたい。
自分もお茶をコクリ、と飲み込んで喉を潤おし、ひとつ息を吐いてから一番聞きたかったことを質問した。


「ええと……それで。今更ではありますが、どちら様でしょうか?」

私以外は全員知り合いっぽい雰囲気だったから、彼女は不審者ではないのだろう。
行動は完全に不審者のそれだとしても。

「……彼女はここのオーナーだ」
「オーナーのマヤよぉ。よろしくねっ、可愛らしい飼い主さん!会えて本当に嬉しいわ!」

満面の笑みで両手を持ってブンブンと振られる。
うん、とっても歓迎されてるわ。ーー逆にアヤしさ満点だ。

「さっきはごめんなさいねぇ?貴女が聞いていたよりも可愛すぎて、つい理性が飛んじゃったのよ!」

ーーヒトを危ないクスリか何かのように言わないでほしいのだけど。


「マヤ、さっきのはやり過ぎだ……普通に引かれる」
「だってだって!こんな可愛い飼い主仲間だなんて、テンション上がっちゃうじゃない!!」

飼い主仲間?それってつまりーーー

「あの、つかぬ事を伺いますが。お二人の関係って……」

「……だから、不動産屋のオーナーと、その従業員だ」
「いやあね、他人行儀な言い方しなくてもいいじゃない。私達は飼い犬とそのご主人様よ!」

ああ、なるほど。さっきは衝撃でスルーしてしまったけど、彼女の方が雇い主兼飼い主なのね。
おじ様の方は、番犬ならぬお留守番犬だったのか。納得だわ。

さっきおじ様がマヤさんのことを後ろから抱きしめたように見えたから、私ったらつい変な勘違いをーー


「あ、その二人結婚してるから」



ーーなんですと?!
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...