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1章
41。夢じゃない、とか言われました
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「……すみません、今の会話の流れから、どうしてその単語が出るのかも説明してもらえませんか?」
私、普通の事しか話してないよね?
意図せず薬を盛っちゃった事に対して、焦って心配して、大丈夫って聞いて安心して。
森で迷ってました、って事もおじ様に話してないよね?
訳が分からず再び混乱する私を見て、おじ様は困ったように眉を下げた。
「嬢ちゃ……お嬢さんは、アイツらから何処まで聞いてるんだ?」
「言いにくいならもう『嬢ちゃん』で良いです。えっと、ほとんど何も聞いていません」
聞いたのは『迷い子』というのは別の世界から迷い込んでくる子供のことで、迷子とは違うこと。
マゼンタもシアンも、猫は猫だけど、私の知っている猫とは違う生き物だってこと。
名付けと血の交換を行うと、飼い主とペットとしての契約が成立すること。
聞いていたことを一通り話すとおじさまは微妙な顔をしたあと、続けてくれと促してきた。
ーーすでにおかしな部分でもあったのかしら。
「あの、もう本当にそれくらいしか知らなくて。ここには昨日来たばかりなんです」
「……昨日飼い主になったところとは聞いてたが、この世界に来たのも昨日ってことか……なら、此処に来てから変だと思った事でいい。そいつを話してくれ」
うーん、それを言ったら変な事だらけなんだけど。何から話そうか?
まずは犬や猫が半分以上人間みたいな姿で、人の言葉を話している事。
洗浄魔法や転移なんて魔法が存在する事(しかも公共事業として!)
西が通じなくて、太陽の沈む方だと言ったら日替りみたいな言い方をされた事。
あとはシアンの胸から、なぜか心臓の音がしなかったこと。
あ……ひょっとしてコレ?
「おじ様……つかぬ事を伺っても?」
「なんでそんなに畏った言い方なのか分からないが、何だ」
「……おじ様って、心臓なかったりするんですか?」
ジッと顔を見つめながら聞いてみる。
この答えがどう返ってくるかで、この世界とやらの信憑性が決まると思う。
「心臓はある。ーーが、動いてはいないな」
はい、夢決定ー。
いやいや、だって!心臓動いてないとかそれもう死んでるからね!?
異世界ものとかの小説だって、心臓が動いてないとかそんなパターン読んだ事ないわよ?!
私の読書量が足りないとか、そんな意見はひとまず却下だ。
「ーー実は死んでる、とかですか」
「俺が死んでると思うのか」
「思わないですけど、心臓止まってるのに生きてたらオカシイんですよ」
少なくとも、私の常識ではそうだ。
「言っとくが俺は死んではいないし、心臓が動いていないのも嘘じゃない。ついでに言うと、此処が夢ってオチもないからな」
「……先回りして全部潰さないでくれます?」
夢じゃなければ何だというのだ。異世界だとでも言うつもりですか。
「嬢ちゃんが居た世界から見れば、異世界って事で合ってるよ」
まあ信じられないだろうがな、とおじ様は目を伏せた。
しっぽが下がってるのは、ストレスを感じている時だっけ?
犬は飼っていたことがないから、耳や尻尾からの感情が読みにくい。
……どうしよ、沈黙が気まずい。
おじ様のことは信じたい……信じたいけど、今の言葉を本当だと認めてしまうと、ショックが大きすぎてこの場で寝込んでしまいそう。
夢だから、と思ってどうにかスルーできていたことがたくさんあった気がするのだけど……例えばさっきのシアンにされた事とか昨日の契約の時のアレとかその前のーーって今思い出しちゃダメ!
こんな場所で色々と記憶から引っ張り出した挙句自滅するとか、オマエ何してんだって話だ。
……そうなった理由を聞かれでもしたら、ライフがゼロどころかマイナスまで行く自信があるわ。
ーーああぁぁあ、もうっ!どうしたら良いのか全然分かんないっ!!
頭を抱えて赤くなったり青くなったりを繰り返していたら、スッとおじ様が腕を差し出してきた。
ええと、コレはどうしろと?
「とりあえず、確実に確かめられることから確かめたらどうだ?ーー心臓が動いてるかどうか、手首のとこで分かるだろ?」
脈をみてみろということだったらしい。
「……じゃあ失礼しますね」
手のひらを上に向けてテーブルに置いてもらい、実際試してみる。
普通に掴めばいいのに、と言われたが、普通に今日会ったばかりのしかもヒトの旦那様の腕をさわるって、地味にハードル高いんですよ。
あくまで医療行為の延長としてやらねば、マヤさんに対する申し訳なさと羞恥心が刺激されてよろしくない感じなので。
ーーというか、この夢の住人たちは全般的に距離感おかしくないか?……私が無意識にスキンシップに飢えているみたいですっごく嫌なんだけど。
頭の中でぶつぶつ文句を言いつつも、真面目に脈をみてみる。
場所を少しずつずらしてみたり、少し強めに押さえてみたりもしたけれど、結局脈拍は感じられなかった。
けれど、ふれた腕はちゃんと血の通った温かさだし、腕の血管も透けて見えているーーおじ様結構色白なのね。……って思わず現実じゃないのに現実逃避してしまうのは許してほしい。
「やっぱり、脈打ってはいないんですね」
「気は済んだか?……まあ心臓は動いていないが、血は巡っている。血液自体に体を巡る力があるんだ」
細かい説明も要るか?と聞かれて首を横に振る。
……そんなこの世界の詳細設定みたいなのを把握するは、もう少し信じる気になってからでいい。
まだここが夢って線で考える事にしたいもの。うん、そうしよう。簡単に希望を捨てちゃいけないわ。
主に私の心の平安の為に、私はそう思い込むことにした。
私、普通の事しか話してないよね?
意図せず薬を盛っちゃった事に対して、焦って心配して、大丈夫って聞いて安心して。
森で迷ってました、って事もおじ様に話してないよね?
訳が分からず再び混乱する私を見て、おじ様は困ったように眉を下げた。
「嬢ちゃ……お嬢さんは、アイツらから何処まで聞いてるんだ?」
「言いにくいならもう『嬢ちゃん』で良いです。えっと、ほとんど何も聞いていません」
聞いたのは『迷い子』というのは別の世界から迷い込んでくる子供のことで、迷子とは違うこと。
マゼンタもシアンも、猫は猫だけど、私の知っている猫とは違う生き物だってこと。
名付けと血の交換を行うと、飼い主とペットとしての契約が成立すること。
聞いていたことを一通り話すとおじさまは微妙な顔をしたあと、続けてくれと促してきた。
ーーすでにおかしな部分でもあったのかしら。
「あの、もう本当にそれくらいしか知らなくて。ここには昨日来たばかりなんです」
「……昨日飼い主になったところとは聞いてたが、この世界に来たのも昨日ってことか……なら、此処に来てから変だと思った事でいい。そいつを話してくれ」
うーん、それを言ったら変な事だらけなんだけど。何から話そうか?
まずは犬や猫が半分以上人間みたいな姿で、人の言葉を話している事。
洗浄魔法や転移なんて魔法が存在する事(しかも公共事業として!)
西が通じなくて、太陽の沈む方だと言ったら日替りみたいな言い方をされた事。
あとはシアンの胸から、なぜか心臓の音がしなかったこと。
あ……ひょっとしてコレ?
「おじ様……つかぬ事を伺っても?」
「なんでそんなに畏った言い方なのか分からないが、何だ」
「……おじ様って、心臓なかったりするんですか?」
ジッと顔を見つめながら聞いてみる。
この答えがどう返ってくるかで、この世界とやらの信憑性が決まると思う。
「心臓はある。ーーが、動いてはいないな」
はい、夢決定ー。
いやいや、だって!心臓動いてないとかそれもう死んでるからね!?
異世界ものとかの小説だって、心臓が動いてないとかそんなパターン読んだ事ないわよ?!
私の読書量が足りないとか、そんな意見はひとまず却下だ。
「ーー実は死んでる、とかですか」
「俺が死んでると思うのか」
「思わないですけど、心臓止まってるのに生きてたらオカシイんですよ」
少なくとも、私の常識ではそうだ。
「言っとくが俺は死んではいないし、心臓が動いていないのも嘘じゃない。ついでに言うと、此処が夢ってオチもないからな」
「……先回りして全部潰さないでくれます?」
夢じゃなければ何だというのだ。異世界だとでも言うつもりですか。
「嬢ちゃんが居た世界から見れば、異世界って事で合ってるよ」
まあ信じられないだろうがな、とおじ様は目を伏せた。
しっぽが下がってるのは、ストレスを感じている時だっけ?
犬は飼っていたことがないから、耳や尻尾からの感情が読みにくい。
……どうしよ、沈黙が気まずい。
おじ様のことは信じたい……信じたいけど、今の言葉を本当だと認めてしまうと、ショックが大きすぎてこの場で寝込んでしまいそう。
夢だから、と思ってどうにかスルーできていたことがたくさんあった気がするのだけど……例えばさっきのシアンにされた事とか昨日の契約の時のアレとかその前のーーって今思い出しちゃダメ!
こんな場所で色々と記憶から引っ張り出した挙句自滅するとか、オマエ何してんだって話だ。
……そうなった理由を聞かれでもしたら、ライフがゼロどころかマイナスまで行く自信があるわ。
ーーああぁぁあ、もうっ!どうしたら良いのか全然分かんないっ!!
頭を抱えて赤くなったり青くなったりを繰り返していたら、スッとおじ様が腕を差し出してきた。
ええと、コレはどうしろと?
「とりあえず、確実に確かめられることから確かめたらどうだ?ーー心臓が動いてるかどうか、手首のとこで分かるだろ?」
脈をみてみろということだったらしい。
「……じゃあ失礼しますね」
手のひらを上に向けてテーブルに置いてもらい、実際試してみる。
普通に掴めばいいのに、と言われたが、普通に今日会ったばかりのしかもヒトの旦那様の腕をさわるって、地味にハードル高いんですよ。
あくまで医療行為の延長としてやらねば、マヤさんに対する申し訳なさと羞恥心が刺激されてよろしくない感じなので。
ーーというか、この夢の住人たちは全般的に距離感おかしくないか?……私が無意識にスキンシップに飢えているみたいですっごく嫌なんだけど。
頭の中でぶつぶつ文句を言いつつも、真面目に脈をみてみる。
場所を少しずつずらしてみたり、少し強めに押さえてみたりもしたけれど、結局脈拍は感じられなかった。
けれど、ふれた腕はちゃんと血の通った温かさだし、腕の血管も透けて見えているーーおじ様結構色白なのね。……って思わず現実じゃないのに現実逃避してしまうのは許してほしい。
「やっぱり、脈打ってはいないんですね」
「気は済んだか?……まあ心臓は動いていないが、血は巡っている。血液自体に体を巡る力があるんだ」
細かい説明も要るか?と聞かれて首を横に振る。
……そんなこの世界の詳細設定みたいなのを把握するは、もう少し信じる気になってからでいい。
まだここが夢って線で考える事にしたいもの。うん、そうしよう。簡単に希望を捨てちゃいけないわ。
主に私の心の平安の為に、私はそう思い込むことにした。
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