【本編完結】森で遭難しかけたら獣とおかしな人達に囲まれました 〜飼い猫が私を逃してくれません!〜

夕木アリス

文字の大きさ
69 / 174
2章

18。ご飯を忘れていたようです

しおりを挟む
「はあ…雑談はもういいでしょ。その本読みに行きなよ」
「そうねえ…ね、ここで読んでもいい?」

そう言うと、信じられないものを見るような目つきで見られた。

「は?空気読めないの?早くどっか行ってって言ってんだけど」
「あえて読んでないのよ、分かんない?ーー私は、ここで読みたいの」


だって見渡す限りの本の中で、自分以外誰もいない素敵空間を独り占めなんて最高の贅沢じゃない!
多少嫌な顔をされたって、こんな機会を逃すつもりはないわ。

「誰もいないって…ボクはココにいるんだけど」
「あら、だってクレイはお仕事中でしょう?一人で読んでるから、クレイは私のことなんか放っておいて司書だか書庫番だかの業務に戻ってくれて大丈夫よ」

むしろ放置推奨で!本は一人で読みたい派なの。

という訳で、メイドさんにも先に仕事に戻ってもらう。
お城の中なら安全ってエリザも言ってたし、ここは思う存分一人を満喫させてもらおう。ボッチ最高。


「…はあ。そんなにここがいいって言うなら、好きにすれば」
「ええ、好きにさせてもらうわね。ありがとうクレイ!」

防水魔法をかけてもらった本を手に持って、いそいそと本棚の隙間の椅子に座る。

変なヤツ、と呆れた声が聞こえた気もしたが、気にせず私は目の前の本に没頭していったのだった。









「いつまでそうしてるわけ?」
不機嫌そうな声が降ってきてぱっと顔を上げると、視線が自分と同じ色の瞳にぶつかった。


「ーーー?!び、ビックリした…」
「びっくりしたのはこっち。とっくに帰ったと思ったのに、まだ居座ってるし」

もう5時なんだけど?と言われ窓を見ると、オレンジっぽい空が見えた。え、嘘ーー

「…ごめんなさい、またやっちゃったわ…」
「また?」
「本に熱中しちゃうと、時間が経つのを忘れてしまうと言うかーー気づいたら一日終わってた、ってことがよくあって」
「…あっそ。とりあえず、そろそろ書庫ここ閉めるから。出てってくれない?」
「!ご、ゴメンなさい。閉館時間だったのね」

すぐに帰るわ、と言って立ち上がった瞬間に、世界がくるりと回った。

ーーーあ、コレ倒れる。


近づいてくる地面にギュッと目を閉じるが、顔面に衝撃はこなかった。
代わりに、お腹を鉄棒で圧迫されるような感覚で苦しくなる。

「あっ…ぶな!何やってんの!」

クレイが咄嗟に支えてくれたらしい。
小さいのに、結構力あったのね。またまたビックリだわ。


「……ゴメン、たぶん、低血糖……」
「はぁ?!食べてないの!?」

…ええと、朝はおにぎり一個とお味噌汁でしょ。
その後、エリザたちとお茶をした時にクッキーを何枚か摘んだような。
お昼は…食べてないわね。


「……食べるの、わすれてた。…とりあえずなにか糖分、とれば…なおる、から……」

冷や汗と動悸が止まらず、体をむしりたくなるような強い不安感に襲われる。
指先の震えに気づいたらしいクレイが派手に舌打ちをした。

「仕方ないーーこっち」

肩を貸してもらう格好になり、そのまま書庫の奥へと連れて行かれる。

整然と並んだ本棚をいくつもいくつも通り過ぎていくと、奥に小さなドアがあった。
開けて中に入れば、狭いワンルームアパートのような部屋。

「…ここ、は?」
「ボクの休憩室。いいから座って」

一人掛けのソファーに下され、すぐさまマグカップに入ったお茶と、砂糖壺を出される。


お礼を言ってカップを受け取り砂糖を入れようとすると、「それじゃ遅い」と口の中に角砂糖をいくつも突っ込まれた。
甘くてジャリジャリになった口の中を、お茶で無理やり空にする。

震えたままの手からマグカップをひったくり、クレイがイライラと声を掛けてきた。

「低血糖で倒れるとか、ほんと何やってんの。バカなの?」
「…ごめん」

私は低血糖になりやすい体質みたいで、普段であれば常にポケットに飴を入れているのだけど。
さすがに夢の中でまで、低血糖のことなんか考えてなかったわ。
体質まで正確に反映しなくてもいいのに。


「はあ、脅かさないでよね。馬鹿馬鹿、ほんとバカ」
「ーー馬鹿でスミマセンね」
「そっちが悪いの、大人が悪口くらいで拗ねないで」
「……悪口って分かってんなら言うの止めてよね」

減らず口の応酬をしているうちに、症状がだいぶ落ち着いてくる。
何度か深呼吸をし、握りしめていた手を開くと、震えは収まっていた。
横でクレイが、詰めていた息を吐き出すのが聞こえる。

「……うん、助かりました。ありがと」


ペコリと頭を下げる。うん、やらかした。ーーこれ、後でマゼンタとシアンにも怒られるんだろうな。

……想像するだけで憂鬱だ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...