【本編完結】森で遭難しかけたら獣とおかしな人達に囲まれました 〜飼い猫が私を逃してくれません!〜

夕木アリス

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2章

22。ご褒美を強請られました

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見るとマゼンタとは対照的に、シアンの方は納得したような顔で頷いてくれている。

…ひょっとして、シアンって本を読む猫なのかしら?どうしよう、こんな時じゃなければ聞いてみたいけど、今はダメよね。

そろそろとシアンの顔を見上げると、ニッコリと笑われた。

「なるほど。でも久しぶりと言っても、その調子なら元の世界ではたくさん読んでいたのでしょう?」
「そうなんだけど。ここに迷い込む直前まで、海外に留学していて。留学先は言葉が違ったから、思うように読めなかったのよね……」


日本に留学していた期間はおそよ半年。その間は、好き放題本を読むなんて事はできなかった。

もちろん日本でも洋書を買う事はできるし、頑張れば日本語で書かれた本を読む事もできたろう。
でもホームステイ先で好きに本を買って私物を増やすのはなんか違う気がしたし、日本語の本を読むのはどうしても勉強って感じがして、楽しんで没頭するというところまではいかなかった。

だから久しぶりに好き放題ストレスなく読める環境というのは、時間を忘れるには十分だったのだ。

そんなことを説明すれば、シアンが困ったような顔で私の目をジッと見つめてきた。

「その感じだと、ひょっとしてこれからもあの書庫に通う気ですか?」
「ええ、できれば毎日でも通って色々調べたいのだけど……ダメかしら」

まだ迷い子に関する資料も全然読めてないし、せっかくエリザにも許可をもらったんだから他の本だって読んでみたい。
もちろん今後は低血糖で倒れたりなんかしないようにちゃんと休憩も食事もとるつもりだからと頭を下げれば、シアンもマゼンタも渋い顔をして黙ってしまった。

しばらく根比べのように二人と見つめあっていたが、先にシアンがため息をついて「しょうがないですね」と折れてくれた。

「本当なら許可したくありませんが…迷い子の情報を集めるのに協力するという約束でしたからね」
「まあしゃーねーかぁ……ホントは嫌だけどな」
「ーー!シアン、マゼンタ、二人ともありがとう!」

満面の笑みでお礼を言うと、マゼンタには「別に…」とそっぽを向かれ、シアンは「どういたしまして」と普通に返された。
あら、意外とマゼンタって照れ屋さんなのかしら?いい大人なのに、ちょっと可愛いわね。

許可をもらえて嬉しいのとマゼンタの様子が微笑ましいので笑っていたら、シアンが「ただし、条件があります」と言葉を続ける。

「僕かマゼンタか、最低でもどちらか一人は連れて行くこと。僕らが二人とも不在の時は城のメイドを連れて行くなりして、絶対に一人にはならないでください」
「?書庫にはクレイがいるから、どうやっても一人にはならないと思うわよ?」
「だからさあ、アイツと二人きりにならないでって言ってんの!アイツ雄だぜ?」

なんで分かんないかなーと呆れた顔でマゼンタに言われ、ムッとする。

「男の子なのは分かってるわよ、でもまだ子供でしょう?」

年頃の男女が二人きりってのがマズいのは分かってるが、さすがにあの年齢の子を警戒するのはやり過ぎだろう。

「それに、私クレイには嫌われてるもの。そんな心配をする必要はないわ」

あんなにハッキリばっさり嫌いと言われたのだ。誤解のしようもないじゃない。

そう言えば、今度は二匹揃ってため息をつかれた。

「ーー仮にそうだとしても。彼は今日倒れそうになるまで、ソフィーのことを放って置いたんですよ?」
「そうだぜフィア。嫌われてるってんなら、次同じ状況になってもおかしくねーだろ」
「それは…まあそうだけど」

放置されたのは、そう頼んだからなんだけど。だから悪いのは私であって、クレイじゃないのに。
頑張って説明を試みるが、二人とも揃って首を横に振る。

「どのみち、今はあのウサギのことは信用できませんね」
「大体、アイツ言うほどガキでもねーし…。フィアのことも、これに関しては信用すんの難しーから。大人しく誰か連れてってくれよ」
「……分かったわ、そうする」

了承すると、ヤレヤレといった感じで苦笑いされた。


どうも今回の件で、だいぶ信用をなくしてしまったらしい。…失くしても仕方ないことをしたのかもしれないけど。

しばらくは一人で本を読むのも、何処かに行くのも許してもらえなさそうだわ。
当面は大人しく言うことを聞いて、信用を取り戻すべく実績を積まないとね。

心の中でそう決意を固めながら食べ終わった食器をまとめていると、「そういえばさ」とマゼンタが話しかけてきた。


「マゼンタ、どうかしたの?」
「フィアさ、女王様の仕事請けたら、ご褒美くれるって言ってたよな?」

ーー言ったわね。確かたくさん撫でるって約束と、あとはお茶を淹れるって話もしたはず。

「ええ、もちろん覚えているわ。じゃあ、家に帰ってからお茶を…」
「そんなのよりオレ、キスがいいな」


……は?え、今なんて?

バッと顔をあげれば、ニヤニヤ笑う飼い猫の顔が見えて。

こんな場所で揶揄ってくるなんてと睨みつければ、「言っとくけど、冗談じゃないからね」と追い討ちをかけられた。


ーー飼い猫に人前でキスを強請られるとか、飼い主ワタシにどう対処しろと?

そういうのは、せめて家に帰ってから言って欲しかった…!

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