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2章
32。チーズ祭りと思い出話
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お茶とお菓子、お水のピッチャーに氷にグラスとギュウギュウになったトレイを持って自分の部屋に入ると、すでにテーブルの上には酒瓶が乱立し、開いた場所に所狭しとチーズとチーズ料理が置かれていた。
スライスされ紙皿に並べられたチーズは白に黄色、オレンジや青カビ入りのブルーチーズなどぱっと見でも10種類以上あったが、私には詳しい名前は分からないので“こんなに種類があるんだなぁ~”くらいでスルー。
それよりも、目を引いたのは他のお皿に載せられたチーズを使ったおつまみ系料理の数々。
蜂蜜がけクリームチーズにクラッカーを添えたもの。
モッツァレラチーズとトマトのスライスを順番に重ね、バジルオイルをかけたもの。
チーズとベーコンを何かの皮に包んで揚げてあるもの、などなど。
…ここまで全てチーズづくしとは。マヤさんのチーズ好きは筋金入りだわ。
「リュウがね、色々作ってくれたの!どれも美味しいのよぉ~」
期待しててね!と片目を瞑られるが、そんな説明なんかなくてもどれも本当に美味しそう。
問題はーー真夜中のチーズってカロリーとかダイエットとか考えだすと恐ろしくなる、という点だけど。
でもリュウおじ様の料理を食べ逃すなんて手はないわね。
「いただきます」と言って、とりあえず一番紅茶に合いそうな蜂蜜がけのクリームチーズに手を伸ばす。
クラッカーで掬って口に運び、サクリと齧れば、クラッカーの塩気と蜂蜜の甘み、クリームチーズの滑らかな舌触りが口の中で混じり合う。
……素晴らしいハーモニーだわ。極限までシンプルな料理なのに、こんなに美味しいなんて!
目から鱗とはこのことだ。
今度自分でもお茶請けに作って出してみようと思いつつ、二枚目のクラッカーに手を伸ばす。
「うふふ、ソフィアさんそれが気に入ったの?」
「はい!これ、とっても美味しいですね!」
ぶっちゃけすごい好みの味。手間らしい手間が掛からないのに美味しいって最高!
「そうよねそうよね!アタシが出掛けてくるって言ったのが結構直前だったから、リュウったら簡単なものしかできないって嘆いてたけど。美味しければそれが一番よねぇ~」
「むしろ短時間でここまで準備してくれるリュウおじ様って凄いですねよ」
「そうなの!自慢の夫なのよぉ~」
マヤさんは赤ワインのグラスを片手に揚げ物に手を出していた。
食べやすいようにと刺されているピックが、リュウおじ様を彷彿とさせる黒い犬の形の物で可愛らしい。
「マヤさんとリュウおじ様ってラブラブですもんね。仲良し夫婦で羨ましいです」
「あらぁ、ソフィアさんのご両親だってそうなんじゃないの~?」
「ーーえっと。私のところは、死別しているので。まあでも、昔は見ている子供の方が呆れてしまうくらいの仲良しでしたねー」
マヤさんが気にしなくて済むよう、なるべく軽い感じで言う。
「あ…ゴメンなさい、アタシってば……」
「いえ、もう十年も前の話なので。そんなに引きずってるとかもないんですよ?」
十年前、私は七歳だ。当時はまあ辛かったとは思うけど、母との思い出も今となっては断片的にしか思い出せないくらいなのでそこまで心の傷にもなっていない。……それはそれで薄情だとは思うけど。
それよりもダメージが大きかったのは当時十七歳だった姉、そして何より父だった。
父はーーそれまでとは、別人になってしまった。
それまでは何より家族と過ごす時間を大事にしていて、私や姉の事もとても可愛がってくれた。
晩ご飯は必ず家族揃って食べたり季節ごとのイベントを大切にしたり、週末には必ず家族みんなで出掛けたり、とにかく“家族命”って感じの人だったんだけど。
母が亡くなってからは、仕事に逃げる、と言う表現そのものと言った感じで、父は家に一切家に寄り付かなくなり、ひたすら仕事に没頭するようになった。
娘の学校行事も、誕生日やクリスマスも放ったらかしで、仕事仕事仕事。
多分、母との思い出の詰まった家に居るのも……母に髪と瞳の色までそっくりな私に会うのも、辛かったんだと思う。
一応家のことは家政婦さんに頼んではくれていたし、経済的にはむしろ前より裕福になったくらいなので、ネグレクトと言えるかは微妙だけど。
ーー今思えば、父が大切にしていたのは“母を囲む家族”だったのだろう。
愛妻家だとは思っていたけど、あそこまでピンポイントで妻だけを愛しているとは思わなかった。
……普通に、愛されていると思ってたんだけどな。
そんなことを思って少しだけブルーになっていると、近くでしゃくり上げるような音が聞こえて、沈んでいた意識が浮上する。
パッと横を見るとーーマヤさんが、滂沱の涙を流していた。
スライスされ紙皿に並べられたチーズは白に黄色、オレンジや青カビ入りのブルーチーズなどぱっと見でも10種類以上あったが、私には詳しい名前は分からないので“こんなに種類があるんだなぁ~”くらいでスルー。
それよりも、目を引いたのは他のお皿に載せられたチーズを使ったおつまみ系料理の数々。
蜂蜜がけクリームチーズにクラッカーを添えたもの。
モッツァレラチーズとトマトのスライスを順番に重ね、バジルオイルをかけたもの。
チーズとベーコンを何かの皮に包んで揚げてあるもの、などなど。
…ここまで全てチーズづくしとは。マヤさんのチーズ好きは筋金入りだわ。
「リュウがね、色々作ってくれたの!どれも美味しいのよぉ~」
期待しててね!と片目を瞑られるが、そんな説明なんかなくてもどれも本当に美味しそう。
問題はーー真夜中のチーズってカロリーとかダイエットとか考えだすと恐ろしくなる、という点だけど。
でもリュウおじ様の料理を食べ逃すなんて手はないわね。
「いただきます」と言って、とりあえず一番紅茶に合いそうな蜂蜜がけのクリームチーズに手を伸ばす。
クラッカーで掬って口に運び、サクリと齧れば、クラッカーの塩気と蜂蜜の甘み、クリームチーズの滑らかな舌触りが口の中で混じり合う。
……素晴らしいハーモニーだわ。極限までシンプルな料理なのに、こんなに美味しいなんて!
目から鱗とはこのことだ。
今度自分でもお茶請けに作って出してみようと思いつつ、二枚目のクラッカーに手を伸ばす。
「うふふ、ソフィアさんそれが気に入ったの?」
「はい!これ、とっても美味しいですね!」
ぶっちゃけすごい好みの味。手間らしい手間が掛からないのに美味しいって最高!
「そうよねそうよね!アタシが出掛けてくるって言ったのが結構直前だったから、リュウったら簡単なものしかできないって嘆いてたけど。美味しければそれが一番よねぇ~」
「むしろ短時間でここまで準備してくれるリュウおじ様って凄いですねよ」
「そうなの!自慢の夫なのよぉ~」
マヤさんは赤ワインのグラスを片手に揚げ物に手を出していた。
食べやすいようにと刺されているピックが、リュウおじ様を彷彿とさせる黒い犬の形の物で可愛らしい。
「マヤさんとリュウおじ様ってラブラブですもんね。仲良し夫婦で羨ましいです」
「あらぁ、ソフィアさんのご両親だってそうなんじゃないの~?」
「ーーえっと。私のところは、死別しているので。まあでも、昔は見ている子供の方が呆れてしまうくらいの仲良しでしたねー」
マヤさんが気にしなくて済むよう、なるべく軽い感じで言う。
「あ…ゴメンなさい、アタシってば……」
「いえ、もう十年も前の話なので。そんなに引きずってるとかもないんですよ?」
十年前、私は七歳だ。当時はまあ辛かったとは思うけど、母との思い出も今となっては断片的にしか思い出せないくらいなのでそこまで心の傷にもなっていない。……それはそれで薄情だとは思うけど。
それよりもダメージが大きかったのは当時十七歳だった姉、そして何より父だった。
父はーーそれまでとは、別人になってしまった。
それまでは何より家族と過ごす時間を大事にしていて、私や姉の事もとても可愛がってくれた。
晩ご飯は必ず家族揃って食べたり季節ごとのイベントを大切にしたり、週末には必ず家族みんなで出掛けたり、とにかく“家族命”って感じの人だったんだけど。
母が亡くなってからは、仕事に逃げる、と言う表現そのものと言った感じで、父は家に一切家に寄り付かなくなり、ひたすら仕事に没頭するようになった。
娘の学校行事も、誕生日やクリスマスも放ったらかしで、仕事仕事仕事。
多分、母との思い出の詰まった家に居るのも……母に髪と瞳の色までそっくりな私に会うのも、辛かったんだと思う。
一応家のことは家政婦さんに頼んではくれていたし、経済的にはむしろ前より裕福になったくらいなので、ネグレクトと言えるかは微妙だけど。
ーー今思えば、父が大切にしていたのは“母を囲む家族”だったのだろう。
愛妻家だとは思っていたけど、あそこまでピンポイントで妻だけを愛しているとは思わなかった。
……普通に、愛されていると思ってたんだけどな。
そんなことを思って少しだけブルーになっていると、近くでしゃくり上げるような音が聞こえて、沈んでいた意識が浮上する。
パッと横を見るとーーマヤさんが、滂沱の涙を流していた。
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