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3章
9。お礼は高くつくようです
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「さて、元妻からもお叱りを受けてしまったし、そろそろ本題に入ろうかな」
たっぷり揶揄って満足したのか、サイラスさんがこちらに向き直ってきた。
「お嬢さんーー迷い子が狙われやすいという話は、もう聞いたかい?」
「え? ーーあ、はい。つい先ほどですが」
「よろしい。その件で、君の飼い猫たちから彼女経由で私に救援要請が入ってね。本題というのはその話だ」
そう言われて、私は思わず居住まいを正した。
ーーこの話は、私の身の安全に関する話だと分かったから。
「他でもない、大事な元妻からのお願いだからね。私ができる最大限の助力をしようと思う」
「あ……ありがとう、ございます?」
やっぱり、迷い子だとバレるのは相当にマズかったらしい。どうしよう。
捕まって売られるのなんて絶対嫌だ。
「そこまで緊張しなくても大丈夫だよ。君の安全が保証できるよう既に手を回しているから」
「ーー手を回している、ですか?」
もう迷い子がいるという話は出回ってしまって、一度噂になったものを取り消すのは困難だ。
そんな不安が顔に出ていたのか、いつの間にかシアンとマゼンタが席を立って、後ろから肩に手を置いてきた。
「大丈夫だぜフィア! まだフィアの名前も顔もバレたわけじゃねーから!」
「? さっきは、私が迷い子だってバレたって話してたじゃない」
「医者にはバレましたが、口止めをしてあります。看護婦たちが知っているのは迷い子が病院に来たことまでで、詳しい情報までは流れていませんよ」
「……でも、今頃探されているのよね?」
やっぱり、何とかして今すぐ夢から醒める方法を探すべきなんじゃ…「ダメじゃ‼︎」
ーー? エリザ?
「今すぐ帰るなんて、そんな事を言うなーーソフィア、お主はわらわの友であろう?」
もっと仲良うなりたいと、言うてくれていたではないかーー
そう言って、エリザが泣きそうな顔でこちらを見ていた。
ーーそうか。帰ってしまうと、もう二度とエリザには会えないんだわ。
お城の書庫で調べたけれど、今までの迷い子達は、帰るタイミングもどこでどんな状況で帰るかもバラバラ。
でも共通しているのは、いつの間にか来て、いつの間にか帰ってしまって、二度と現れないということ。
一度帰った迷い子が再び迷い込んだ例は一つとして無かった。
『ーー私も、貴女ともっと仲良くなりたいわ』
私はエリザに、出来もしない約束をしたのかもしれない。
「さて、私の元奥さんを泣かせるわけにもいかないし、続きを話して良いかな?」
必死に帰ってはダメだと繰り返すエリザをどことなく嬉しそうに見てから、サイラスさんが話を続けた。
「一度流れた噂を消すことは容易ではないーーが、上書きなら割と簡単なんだ。そこの猫くんに持たせたローブは、私の国の特殊部隊が使っているものでね? そのローブを着た君たちが、迷い子が入院していた部屋から飛び出すところは多くの人に見られている」
今頃、迷い子は隣の帝国に拉致されたらしいという次の噂が広がっているはずだよ、と面白そうに笑われた。
なるほど。さっきシアンが噂には噂、と言ったのはそういうことなんだ。
それにしても、隣国の前皇帝陛下に工作を頼むなんて。だいぶ高くつきやしないだろうか?
私から返せるものなんて何もないのだけど……ああ、でもマゼンタの話だと迷い子の知識の中に価値のある情報があったりするのかも。
ーーまさか実際に帝国に囲われたりとかしない、よね?
「ああ、もちろん君には何の請求もいかないから安心していいよ。お礼は彼女からもらうからね」
「えっ、女王様からですか?」
おっかなびっくり聞いてみたが、サイラスさんはくすりと笑って否定した。あ、笑い方クロエさんにそっくり。
やっぱり親子なんだなあ。
ちらりとエリザの方を見れば、不承不承といった顔ではあるが、頷いている。
「頼んだのはわらわじゃからの、借りは返さねばならんーー欲しいのは金か、領土か?」
「あ、あの、エリザっ!? なんかそれ大事になってない?」
お金にしても土地にしても、私のせいでこの国の人達に多大なる迷惑がかかってしまうのだけど!?
焦って止めれば、サイラスさんが首を横に振った。
「エリザ……私は君から個人的なお願いを聞いたつもりだったのだけどね? そのお礼として国の財産を渡すのは違うだろう?」
「迷い子は国の宝じゃ! おかしな事などないわ。それに個人からとしても、わらわのぽけっとまねーはそれなりの金額じゃぞ!?」
ドヤ顔でふふん、っと胸を張るエリザ。幼女の姿でやってもただただ可愛らしいだけの仕草なので一瞬状況を忘れて微笑ましく眺めてしまった。
サイラスさんも似たような表情で見ているけど……単純に美幼女を愛でているのか元奥さんとして愛でているのかは判別がつかない。
「知っているよ。でもお金も領土もお礼として受け取るつもりはない」
「むっ……ならば、何が欲しいのじゃ。さっさと希望を言わんか」
わらわの持っているものなら好きにくれてやろう、と太っ腹な事をエリザは言っているけどーーそれ、多分言っちゃダメなやつなんじゃーー
案の定、サイラスさんが「言ったね?」とニヤリと笑った。
「なら、君の時間をもらおうかな」
「時間じゃと? どういう事じゃ」
「そのままだよ。欲しいのは君との時間。もちろんプライベートでね。ーーそうだな、お忍びで一日デートなんてどうだい?」
帝都の街にもいいデートスポットがたくさんあるんだよ、とサイラスさんがエリザに笑い掛けている。
エリザの方は顔を真っ赤にして、金魚みたいに口をパクパクさせていて。
そんな二人をクロエさんがヤレヤレと言った顔で見遣り、ため息をついていた。
たっぷり揶揄って満足したのか、サイラスさんがこちらに向き直ってきた。
「お嬢さんーー迷い子が狙われやすいという話は、もう聞いたかい?」
「え? ーーあ、はい。つい先ほどですが」
「よろしい。その件で、君の飼い猫たちから彼女経由で私に救援要請が入ってね。本題というのはその話だ」
そう言われて、私は思わず居住まいを正した。
ーーこの話は、私の身の安全に関する話だと分かったから。
「他でもない、大事な元妻からのお願いだからね。私ができる最大限の助力をしようと思う」
「あ……ありがとう、ございます?」
やっぱり、迷い子だとバレるのは相当にマズかったらしい。どうしよう。
捕まって売られるのなんて絶対嫌だ。
「そこまで緊張しなくても大丈夫だよ。君の安全が保証できるよう既に手を回しているから」
「ーー手を回している、ですか?」
もう迷い子がいるという話は出回ってしまって、一度噂になったものを取り消すのは困難だ。
そんな不安が顔に出ていたのか、いつの間にかシアンとマゼンタが席を立って、後ろから肩に手を置いてきた。
「大丈夫だぜフィア! まだフィアの名前も顔もバレたわけじゃねーから!」
「? さっきは、私が迷い子だってバレたって話してたじゃない」
「医者にはバレましたが、口止めをしてあります。看護婦たちが知っているのは迷い子が病院に来たことまでで、詳しい情報までは流れていませんよ」
「……でも、今頃探されているのよね?」
やっぱり、何とかして今すぐ夢から醒める方法を探すべきなんじゃ…「ダメじゃ‼︎」
ーー? エリザ?
「今すぐ帰るなんて、そんな事を言うなーーソフィア、お主はわらわの友であろう?」
もっと仲良うなりたいと、言うてくれていたではないかーー
そう言って、エリザが泣きそうな顔でこちらを見ていた。
ーーそうか。帰ってしまうと、もう二度とエリザには会えないんだわ。
お城の書庫で調べたけれど、今までの迷い子達は、帰るタイミングもどこでどんな状況で帰るかもバラバラ。
でも共通しているのは、いつの間にか来て、いつの間にか帰ってしまって、二度と現れないということ。
一度帰った迷い子が再び迷い込んだ例は一つとして無かった。
『ーー私も、貴女ともっと仲良くなりたいわ』
私はエリザに、出来もしない約束をしたのかもしれない。
「さて、私の元奥さんを泣かせるわけにもいかないし、続きを話して良いかな?」
必死に帰ってはダメだと繰り返すエリザをどことなく嬉しそうに見てから、サイラスさんが話を続けた。
「一度流れた噂を消すことは容易ではないーーが、上書きなら割と簡単なんだ。そこの猫くんに持たせたローブは、私の国の特殊部隊が使っているものでね? そのローブを着た君たちが、迷い子が入院していた部屋から飛び出すところは多くの人に見られている」
今頃、迷い子は隣の帝国に拉致されたらしいという次の噂が広がっているはずだよ、と面白そうに笑われた。
なるほど。さっきシアンが噂には噂、と言ったのはそういうことなんだ。
それにしても、隣国の前皇帝陛下に工作を頼むなんて。だいぶ高くつきやしないだろうか?
私から返せるものなんて何もないのだけど……ああ、でもマゼンタの話だと迷い子の知識の中に価値のある情報があったりするのかも。
ーーまさか実際に帝国に囲われたりとかしない、よね?
「ああ、もちろん君には何の請求もいかないから安心していいよ。お礼は彼女からもらうからね」
「えっ、女王様からですか?」
おっかなびっくり聞いてみたが、サイラスさんはくすりと笑って否定した。あ、笑い方クロエさんにそっくり。
やっぱり親子なんだなあ。
ちらりとエリザの方を見れば、不承不承といった顔ではあるが、頷いている。
「頼んだのはわらわじゃからの、借りは返さねばならんーー欲しいのは金か、領土か?」
「あ、あの、エリザっ!? なんかそれ大事になってない?」
お金にしても土地にしても、私のせいでこの国の人達に多大なる迷惑がかかってしまうのだけど!?
焦って止めれば、サイラスさんが首を横に振った。
「エリザ……私は君から個人的なお願いを聞いたつもりだったのだけどね? そのお礼として国の財産を渡すのは違うだろう?」
「迷い子は国の宝じゃ! おかしな事などないわ。それに個人からとしても、わらわのぽけっとまねーはそれなりの金額じゃぞ!?」
ドヤ顔でふふん、っと胸を張るエリザ。幼女の姿でやってもただただ可愛らしいだけの仕草なので一瞬状況を忘れて微笑ましく眺めてしまった。
サイラスさんも似たような表情で見ているけど……単純に美幼女を愛でているのか元奥さんとして愛でているのかは判別がつかない。
「知っているよ。でもお金も領土もお礼として受け取るつもりはない」
「むっ……ならば、何が欲しいのじゃ。さっさと希望を言わんか」
わらわの持っているものなら好きにくれてやろう、と太っ腹な事をエリザは言っているけどーーそれ、多分言っちゃダメなやつなんじゃーー
案の定、サイラスさんが「言ったね?」とニヤリと笑った。
「なら、君の時間をもらおうかな」
「時間じゃと? どういう事じゃ」
「そのままだよ。欲しいのは君との時間。もちろんプライベートでね。ーーそうだな、お忍びで一日デートなんてどうだい?」
帝都の街にもいいデートスポットがたくさんあるんだよ、とサイラスさんがエリザに笑い掛けている。
エリザの方は顔を真っ赤にして、金魚みたいに口をパクパクさせていて。
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