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3章
29。人質交換
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「ほお、このお嬢さんが例の?」
「ええ、陛下のお気に入りの娘です」
しばらくコソコソとオルトさんと話をした後、私は階下の部屋に移された。
リビングだろうそこにも家具は一切なく、床には仮設だという転移魔法陣。
約束の時間にここで人質の交換を行う手筈になっているらしい。
そうしてしばらく待っていると、魔法陣から三人の人間が現れた。
四十代くらいの男と黒い猫耳のスレンダーな女性、二人の間には丁度私と同じくらいの歳の女の子が挟まれている。
ニヤニヤ笑いながら女の子にナイフを押し当てて脅している男が主犯格の一人なのだろう。
猫耳のお姉さんは無表情に立っているだけで、届け物屋として雇われただけなのか仲間なのかは微妙なところね。
女の子に目立った外傷はないが、上半身はロープで縛られ口には猿轡。顔色も良くない。
聞いた話では捕まって何日も経っているらしいから、精神的にだいぶ参っているのだろう。
「よくやったな。では早速そいつを渡してもらおうか」
「妹の解放が先です」
「おや、頼める立場だと思っているのか?」
男がそう言ってナイフを妹さんの首筋に当てて見せると、部屋の温度が下がったような感覚に襲われた。
オルトさんから殺気が飛んでるんだろうか。
「ーー少しでも傷をつけてみろ。お前を含めて、そっちのメンバー全員地の果てまで追っても皆殺しにしてやる」
「おお怖い。なら、同時と言う事で」
そんな会話の後で私と妹さんが交換され、今度は私の背中にナイフが当てられる。
目の前では解放された妹さんがオルトさんに縋りつきながら泣きじゃくっていた。感動の再会シーンってやつね。
私はと言えば薄手のワンピースに押しつけられた刃の形が丸分かりで、さっきから冷や汗が流れっぱなしだ。
人質なんだからいきなり切られたりはしないと思うけど……うっかり動いたら刃先が食い込むんじゃないかと思って固まりまくっている。多分顔も真っ青だろう。
オルトさんが妹さんを抱きしめながら、こちらをチラリと見る。
「……その娘は迷い子です。恐怖心が過ぎれば何処からでも消えて戻ってしまいますので、下手に脅さない方がいいですよ」
「は? 迷い子だって」
その言葉とともにナイフが退けられ、代わりに背中に男の耳が押しつけられた。
嫌悪感で身動ぎするが、肩を強く掴まれているせいで逃げられない。
「ーー事実みたいだな。心臓の音なんて初めて聞いた」
「そういう情報は知ってるんですね」
「当然だろう。迷い子がこの国に来たのは聞いていたが、こいつは運がいい」
男はクツクツと笑い、私を自分の方へ向かせた。
「さて、お嬢さん。お前さんの安全は保証しよう。大人しくついてきてくれるね?」
「ーー嫌だ、と言ったらどうするつもりですか。殺されるんですか?」
「まさか! 迷い子の君を傷つけるつもりはないよーーそれで帰られでもしたら大損だからね。そうだな……」
男は下ろしていたナイフを、あろうことか猫耳のお姉さんの方に突きつけた。
「これでどうだい?」
「ーーは。信じると思ってるんですか? いくらなんでも仲間を脅しに使うなんてーー」
そう言って鼻で笑ってやろうとした次の瞬間、お姉さんの猫耳の片方が途中からちぎれ失せる。
その綺麗な白い首から肩にかけてが溢れた血で濡れていくのを見て、私は悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。
「ええ、陛下のお気に入りの娘です」
しばらくコソコソとオルトさんと話をした後、私は階下の部屋に移された。
リビングだろうそこにも家具は一切なく、床には仮設だという転移魔法陣。
約束の時間にここで人質の交換を行う手筈になっているらしい。
そうしてしばらく待っていると、魔法陣から三人の人間が現れた。
四十代くらいの男と黒い猫耳のスレンダーな女性、二人の間には丁度私と同じくらいの歳の女の子が挟まれている。
ニヤニヤ笑いながら女の子にナイフを押し当てて脅している男が主犯格の一人なのだろう。
猫耳のお姉さんは無表情に立っているだけで、届け物屋として雇われただけなのか仲間なのかは微妙なところね。
女の子に目立った外傷はないが、上半身はロープで縛られ口には猿轡。顔色も良くない。
聞いた話では捕まって何日も経っているらしいから、精神的にだいぶ参っているのだろう。
「よくやったな。では早速そいつを渡してもらおうか」
「妹の解放が先です」
「おや、頼める立場だと思っているのか?」
男がそう言ってナイフを妹さんの首筋に当てて見せると、部屋の温度が下がったような感覚に襲われた。
オルトさんから殺気が飛んでるんだろうか。
「ーー少しでも傷をつけてみろ。お前を含めて、そっちのメンバー全員地の果てまで追っても皆殺しにしてやる」
「おお怖い。なら、同時と言う事で」
そんな会話の後で私と妹さんが交換され、今度は私の背中にナイフが当てられる。
目の前では解放された妹さんがオルトさんに縋りつきながら泣きじゃくっていた。感動の再会シーンってやつね。
私はと言えば薄手のワンピースに押しつけられた刃の形が丸分かりで、さっきから冷や汗が流れっぱなしだ。
人質なんだからいきなり切られたりはしないと思うけど……うっかり動いたら刃先が食い込むんじゃないかと思って固まりまくっている。多分顔も真っ青だろう。
オルトさんが妹さんを抱きしめながら、こちらをチラリと見る。
「……その娘は迷い子です。恐怖心が過ぎれば何処からでも消えて戻ってしまいますので、下手に脅さない方がいいですよ」
「は? 迷い子だって」
その言葉とともにナイフが退けられ、代わりに背中に男の耳が押しつけられた。
嫌悪感で身動ぎするが、肩を強く掴まれているせいで逃げられない。
「ーー事実みたいだな。心臓の音なんて初めて聞いた」
「そういう情報は知ってるんですね」
「当然だろう。迷い子がこの国に来たのは聞いていたが、こいつは運がいい」
男はクツクツと笑い、私を自分の方へ向かせた。
「さて、お嬢さん。お前さんの安全は保証しよう。大人しくついてきてくれるね?」
「ーー嫌だ、と言ったらどうするつもりですか。殺されるんですか?」
「まさか! 迷い子の君を傷つけるつもりはないよーーそれで帰られでもしたら大損だからね。そうだな……」
男は下ろしていたナイフを、あろうことか猫耳のお姉さんの方に突きつけた。
「これでどうだい?」
「ーーは。信じると思ってるんですか? いくらなんでも仲間を脅しに使うなんてーー」
そう言って鼻で笑ってやろうとした次の瞬間、お姉さんの猫耳の片方が途中からちぎれ失せる。
その綺麗な白い首から肩にかけてが溢れた血で濡れていくのを見て、私は悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。
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