【本編完結】森で遭難しかけたら獣とおかしな人達に囲まれました 〜飼い猫が私を逃してくれません!〜

夕木アリス

文字の大きさ
124 / 174
3章

37。最後の最後で捕まりました

しおりを挟む
「やっと見つけた……騒ぐなよ?」

ハスキーな声でそう言われ、誰ともしれない胸に顔を押し付けられたがーーこの固さは男の胸よね。

今の流れで全く無関係の人なわけないから、犯人グループの一人なのだろうが……こんな男いた?


私は身動ぎをしてなんとか男の腕の中から出ようとしたのだが、力の差は歴然で視界は相変わらず塞がれたまま。
けれど逃げようと必死に抵抗する私の顔や首筋を、とてもふわふわとした何かがなだめるように撫でてくるのを感じ、不審に思って動きを止めた。

なんていうか、筆みたいにくすぐったいけどもっと柔らかくて……
……動物の、というか猫の、しっぽ?

ということは、犯人側にもう一匹いた届け物屋の猫よね?
てっきり残りの人質の転移に回されて、こっちには来ないと思ったのだけどーー


ーーあれ……なんかオカシクない?

大体、なんでこっちの猫に見つかるのよ。

そもそもが地下牢から外に出た時点で認識阻害の魔道具は発動させていたんだから、地下牢に入る前に会っている例の男と黒猫さん以外に私の顔は割れていないはずだ。

脱走した時も外に居た見張りの前から問題なく逃げられたんだから、魔道具はちゃんと機能しているはず。
今だって声は出していないから認識阻害効果は切れていない。

見えていないはずなのに、なんで私のことがバレたんだろう?
こんなにさっくり見つかってしまったことが信じられない。

ーーそれに、見つかってしまったのに何もされずに抱きしめられているだけ、というのがまた信じられない。

さっきから犯人の男の声がしているのは知っているだろうに、引き渡しに行こうともしないし。
こっちの猫も実は黒猫さんと同じで、私を捕まえる気がないとかだろうか。


考えれば考えるほど意味が分からず訝しんでいれば突っ張っていた腕の力が弱まってしまい、ますます強く抱き竦められてしまう。

……っていうか、いい加減ホントに離してくれないかなこの猫。
男の力で締め上げられたら普通に息苦しいんですけど?!

なんとか離れようともう一度胸をぐっと押そうとして、ハタと手を止めた。


ーー確かもう一匹の方の猫はサビ柄だったわよね……?

サビ猫は三毛猫の一種だ。そして、三毛猫のオスはほとんど居ない。

ならこの猫はなんなの……?

混乱した頭のまま、私は確認するように目の前の胸をペタペタ触ってみた。
ーーやっぱり女性の胸じゃないし結構筋肉もついている気がするし……あれ、これ腹筋も割れてるんじゃ……


「くっ……ふふっ、あーもうダメ! フィアって結構大胆だよなー。こんな外で触ってくるなんてさ?」

そんなにオレの身体って魅力的だった? と思いっきり揶揄うような声に、バッと顔を上げる。

い、今私のことをフィアってーーじゃあこの猫はーー


「……マゼンタ、なの……?」
「大正~解ーッ! 景品はオレでどう?」

すっごく役に立つしお買い得だよ? こうやって飼い主のピンチにもしっかり駆けつけるしさ!

そんな言葉とともにこぶしひとつ分だけ体を離されたので、改めて目の前の相手をまじまじと見つめる。


「……ま、こんな状況でそんなふざけたことをいう猫はアンタくらいよね……」

そこに立っていたのは、ニヤニヤと不敵な顔で笑うマゼンタカラーの猫だった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...