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4章

6。自分の気持ちがわかりません

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それにしても、迷い子ってここの世界ではどうしたって異質な存在モノだったってことね。
普通に馴染んでるつもりだったし見た目だって何も変わらないのに、やはり違うモノなのだとシアンにも言われた。

「異質ではなく、特別ってことなんですよ」という言葉はきっとフォローのつもりだったのだろうけど、微妙に仲間外れのようで寂しい。


ーーなんてことをとりとめなく考えていたら、おじ様に料理が口に合わなかったかと心配されてしまった。

部屋のサイドテーブルの上にはおじ様が用意してくれた軽食が並べられている。
柔らかな白パンとミネストローネのような野菜スープに、リンゴジャム入りのヨーグルト。全般的に胃に優しそうなメニューで食べやすい。

丸一日食べてなかったのでお腹も空きまくりで、ありがたく頂いていたのだけどーーどうも手が止まっていたようだ。


「おじ様の料理が口に合わないなんてあり得ませんっ! いつもすごく美味しくて感動しながら食べてるんですよ? 今日のこのスープもパンもとっても美味しいです!」
「なら良いんだが……シアンの奴はひと目見ただけで食わずにどっか行っちまいやがったしな」

そんなに見た目も匂いもおかしくないと思うんだがと言いながらおじ様は少し凹んでいる様子で、見ていて申し訳なくなる。


あの、おじ様の料理に問題があるわけじゃなくて。シアンはトマトが嫌いなだけなんです!

前のピザパの時も私が作ったマルゲリータを一口も食べようとしなかったし、今日もスープにダイストマトが入ってなければ普通に食べてたと思うんです! うちの猫がホントすみません‼︎

「いや、いいんだ。好き嫌いは誰だってあるからな。ーー次は目立たないようにペーストにして混ぜておいてやろう」

あ、おじ様意地でも食べさせるつもりだ。
頑張れシアン。口直しのお茶は淹れてあげるから!


そんな感じでおじ様と楽しく雑談しているうちにご飯も食べ切って、満足しながらごちそうさまをする。

お礼を言って空になった食器をトレイに戻すと、おじ様がそれを片腕に載せながら私をじっと見つめてきた。
いつもはそんなにまじまじ見られることなんてないんだけど……?


「おじ様? どうかされました?」
「ーーああ、嬢ちゃん。これは俺の興味本位の質問になるがーーシアンとマゼンタアイツらのことはどう思ってるんだ?」
「へ? どう、と言いますと?」
「いやーー好きなのか、と思って」


私はぽかんと口を開けて固まった。

私が二人を好き? ーーって、それはどう言う意味の“好き”で訊いているのだろう。

それを訊き返そうとして、でも聞いてはいけない気がして口を閉じた。
ーーなんとなく、自分でどういう意味かも考えないといけない気がして。

でも結局、私はズルい答え方を選んだ。


「家族として、大切に思ってます。ーーこれじゃ駄目でしょうか」
「ああ駄目だな」
「ーー!? え、なん、で……」
「それじゃからだ」


残れない、から?
多分、今のは“この世界に“と言うことよね。

「……残れるんですか?」
「質問に質問を返して悪いが。もし残れたとして、嬢ちゃんはこっちに残りたいのか?」
「私、はーー」

この世界に残りたいかと聞かれれば、残りたい、とも思う。でも。
元の世界に帰れなくていいのかと聞かれればーーそれは困る、とも思ってしまうのだ。


「ーー今の質問にパッと答えられないんだったら、さっきのは聞かなかったことにしてくれ。……まだ疲れているはずだ、ゆっくり寝ろよ」

そう言って、おじ様は空になった食器を持って部屋を出て行った。
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