【本編完結】森で遭難しかけたら獣とおかしな人達に囲まれました 〜飼い猫が私を逃してくれません!〜

夕木アリス

文字の大きさ
132 / 174
4章

5。やっぱり迷い子なせいでした

しおりを挟む
「まあ端的に言えば、やはりあなたが迷い子なせいですね」

その言葉にひゅっと息を止め、私はシーツから半分だけ顔を出してシアンを見た。


「ふふ、やっと出てきてくれましたね。可愛いと褒めただけなのにそんな照れないでくださいよ」
「照れたんじゃない、身の危険を感じただけ! 大体ヒトの顔見て笑ったでしょ?!」

真っ赤になってた自覚はあるが、何も笑わなくてもいいのに!

「ああ、それで拗ねたんですか? まあそんなあなたも可愛いですけど」
「だから可愛くないって!」
「可愛いですよ」

懲りずに“可愛い”と繰り返しながら、シアンは今度はからかう風ではなくにっこり笑った。


うーん。この猫さん、耳だけじゃなくて目まで痛めちゃったんだろうか。

美形に可愛いを連呼されるなんて、逆に自分がペット枠に入れられた気分だ。


「はあ、もういいわ。それよりさっきの話。私が迷い子だから認識阻害がうまくいかなかったってどういうことなの? 今まで転移魔法も洗浄魔法も、迷い子だから掛からないなんてことなかったのに……」
「正確に言えば掛かるけれども解けてしまう、ということのようです。声を出してしまうと認識阻害の効果がなくなるのはご存知ですよね」

それは最初にエリザに説明されたから分かってる。でも脱走中、私は一切声を出さなかったはずなのに。

「今回検証して分かったことですが、声でなくても術者の体内から出た音によって効果が消えたり、弱まったりするようですね。そしてーー」

シアンが私の左胸を指さした。

「迷い子はそこから音を出しているでしょう? それによって効果が薄れたみたいですね」
「心音のせいってこと? でもそれなら最初から」
「ええ、ずっと鳴っていますよね。けれど常に安定して、同じように鳴っているわけではないでしょう。さっきも最初のうち、つまり平静時は完璧に認識阻害は掛かっていたのに、途中から効果が薄れていきました」

検証のために色々触らせてもらいましたが、狙い通りドキドキして頂けたようですね? とかなんとか訊かれたが、もちろん黙秘だ。
墓穴を掘る趣味はない。


「ーーつまり、動悸が激しくなったのが原因なのね」

確かにあの夜は地下牢から逃げてから緊張しっぱなしで、心臓どころか体全体がドクドク脈打っている感じだった。

「まあでも、効果が減るといってもわずかなものです。僕とマゼンタがかろうじて気配を追えるくらいでしたし」
「猫は気配に敏感だからってこと?」
「かもしれません。こちらの人間でも多少は血の流れる音や関節を動かす音はするわけなので、そう簡単には解けなくなっているんじゃないでしょうか。ーーなんにせよあなたに欠陥品を渡した女王には、それなりに責任を取ってもらわないとですよね?」

クレームを入れる気満々で「お詫びに何を強請ゆすってやろうか」とまで言い出したシアンを慌てて止める。

「ちょっと! 変に文句とか言わないでよ?! 元々エリザの好意で貰ったものなんだし、実際おかげで助かったんだから」
「そうですか? 折角だから無理難題でも言ってやれば良いと思いますがーーまあ、あなたがそうしたいなら」


まだ少し不満そうな顔をしつつも了承してくれたシアンに「ありがとう」と笑いかける。

こっちにそういう習慣があるかは分からないけれど、ベッドの上で正座をして頭を下げた。


「あと、あの夜のことも。助けてくれてーー助けに来てくれてありがとう」
「僕がそうしたくてやったんですから、お礼の言葉なんて良いんです。でもそうですね……ご褒美は欲しいかな?」

ーー嫌な予感がして、頬がヒクリ、と引き攣る。


「……今度は口にキスしろ、なんて言わないわよね?」
「さすがに大事な初めてをお礼として頂くのは自重しますよ。そうですね、さっきの続きで、抱きしめてもいいですか?」

そう言って返事を聞く前にシアンはベッドに腰掛け、私の方に腕を伸ばしてきた。

「え、ええと……ハグだけならまあ……?」
「あと、忘れずに認識阻害も掛けてくださいね」
「んん? ーーそこも再現するの?」

見えてない相手を抱きしめるって、むしろ落ち着かない気がするんだけど。


一体何のためにと頭の中にはてなマークが浮かぶが、催促されて姿を消してみせるとシアンが嬉しそうに抱きしめてきた。

そのまま見えていないはずの私の顔に頬ずりをしながら、うっとりとした声でつぶやきを落とす。

「こうやって見えてないのに感触だけがしっかりあるというのも変な感じですが、悪くないですね。ーーねやで触れ合うとこんな感じなんでしょうか」


ーーそのあとシアンを全力で突き飛ばしたのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...