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4章
22。消さない理由は
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「はぁ……。で、結局ここは何処なの?」
「リンドバーク辺境伯の居城ですね。国の防衛の要として置かれた城ですよ」
「ーーってことは国境?」
一瞬でそんな遠くまで来てたなんて、やっぱり転移魔法って便利ーーじゃなくて!
だからってなんで塔の上?!
「ここから見る夜景がなかなか綺麗なんですけどーー下の方見られますか?」
なるべく高さを意識しないように空ばかり見ていたけど、これだけガッチリ腰をホールドされてれば落ちることはないはず……大丈夫、よね。
恐る恐る目線を下げていく。
「ーー! 綺麗……」
「辺境伯領の城下町なんですけど、結構栄えてるでしょう?」
問われて無言で肯く。ーー本当に綺麗。
元の世界と違って高いビルなんかはないけど、小さな光の粒が一面に広がって下にも星があるみたいだ。
「ここは見晴らしが抜群なので、夜景は一番綺麗に見えるんですよ」
「エリザのお城の塔より高いものね……」
「見張り用の監視塔なので。ちなみに城壁を挟んで向こう側はモーリタリア共和国ですよ」
その言葉にこの前の誘拐事件が思い出されて体が勝手にふるりと震えた。
下手をすれば今頃はあの壁の向こうにいたのかもしれない。それか、あの時より危ない目にあって元の世界に戻っていたかも。
キズひとつない状態で未だこの世界に居られるのも、あの時二人に助けてもらったおかげだ。
でもそのせいでシアンは怪我をしてしまったけど……。
後ろを振り返ればシアンが首をコテッと傾げながら柔らかく微笑んでくれる。
ーー最初はもっと、ニヤニヤとかニマニマした感じで笑ってたのに。いつの間にこんな笑い方をするようになったんだろう。
「ねぇ、その怪我ってまだ痛むの?」
「まあ違和感はありますが、もう触ってもそんなに痛くもないですよ」
気になるなら見ますか? と猫耳を向けられたので、傷口に触らないように気をつけながらランタンをかざした。
抜糸も終わって腫れも血の跡もなくなってはいるけど、それでもかなり痛々しい。
「これ、痕が残っちゃうのかしら……」
「そうですね。キレイさっぱり消す方法もなくはないですがーー」
「できるの!? だったらーー「やりませんし、教えません」」
「なんでよ?!」
聞く前にサクッと断られてジト目で睨むが、シアンはちっともこたえてない風に淡々と答える。
「ぼくは消したいと思ってないからです」
「どうして? せっかくの綺麗な毛並みなのに……」
「この傷を残しておけば、僕の耳を見る度にソフィーが気にしてくれるでしょう?」
……この猫、一体何を言ってるの?
「気になって、ひょっとしたら罪悪感も抱くかもしれない。その度に僕のことをたくさん考えてーーそれがあなたをこの世界に留めるための枷になるかもしれませんから」
「そんなことのため?!」
「重要でしょう? 可能性だけでも十分試す価値がある」
そう言ったシアンが私の手を掴む。
咄嗟に手を引っ込めようとしたが傷口の部分に持っていかれ、赤く膨らんだそこを無理矢理触らされた。
ーーああこれ、絶対まだ痛いやつだ。
「……ほら、そんな泣きそうな顔をするから利用されるんですよ?」
「ーーッ! 悪趣味、イジワル猫!」
「否定はしませんが」
「あ、頭オカシイんじゃないの?!」
「そうかもしれませんね」
ギャアギャアと文句を言ってみても全然取りあってくれない。むしろ『気にしてもらえて嬉しい』と笑っている。
ーーでも、そんな事のために傷痕を残しておくなんて。
「……どうしたらその傷消してくれるの?」
「おや、消すと言えば何かしてくれるんですか?」
「その、何でもはムリだけど……私ができることなら。だから治せるならちゃんと治療をーー」
「……そうやって付け入る隙を作るの、良くないと思いますけどね」
その言葉の後に首を飾るリボンをぐっと引っ張られ、シアンの胸に倒れ込んでしまう。
慌てて体を起こそうとしているところに上から整った顔が近づくのが見えて、私は反射的に目を閉じた。
*==================*
そういえばシアンはヤンデレ気味でした。
「リンドバーク辺境伯の居城ですね。国の防衛の要として置かれた城ですよ」
「ーーってことは国境?」
一瞬でそんな遠くまで来てたなんて、やっぱり転移魔法って便利ーーじゃなくて!
だからってなんで塔の上?!
「ここから見る夜景がなかなか綺麗なんですけどーー下の方見られますか?」
なるべく高さを意識しないように空ばかり見ていたけど、これだけガッチリ腰をホールドされてれば落ちることはないはず……大丈夫、よね。
恐る恐る目線を下げていく。
「ーー! 綺麗……」
「辺境伯領の城下町なんですけど、結構栄えてるでしょう?」
問われて無言で肯く。ーー本当に綺麗。
元の世界と違って高いビルなんかはないけど、小さな光の粒が一面に広がって下にも星があるみたいだ。
「ここは見晴らしが抜群なので、夜景は一番綺麗に見えるんですよ」
「エリザのお城の塔より高いものね……」
「見張り用の監視塔なので。ちなみに城壁を挟んで向こう側はモーリタリア共和国ですよ」
その言葉にこの前の誘拐事件が思い出されて体が勝手にふるりと震えた。
下手をすれば今頃はあの壁の向こうにいたのかもしれない。それか、あの時より危ない目にあって元の世界に戻っていたかも。
キズひとつない状態で未だこの世界に居られるのも、あの時二人に助けてもらったおかげだ。
でもそのせいでシアンは怪我をしてしまったけど……。
後ろを振り返ればシアンが首をコテッと傾げながら柔らかく微笑んでくれる。
ーー最初はもっと、ニヤニヤとかニマニマした感じで笑ってたのに。いつの間にこんな笑い方をするようになったんだろう。
「ねぇ、その怪我ってまだ痛むの?」
「まあ違和感はありますが、もう触ってもそんなに痛くもないですよ」
気になるなら見ますか? と猫耳を向けられたので、傷口に触らないように気をつけながらランタンをかざした。
抜糸も終わって腫れも血の跡もなくなってはいるけど、それでもかなり痛々しい。
「これ、痕が残っちゃうのかしら……」
「そうですね。キレイさっぱり消す方法もなくはないですがーー」
「できるの!? だったらーー「やりませんし、教えません」」
「なんでよ?!」
聞く前にサクッと断られてジト目で睨むが、シアンはちっともこたえてない風に淡々と答える。
「ぼくは消したいと思ってないからです」
「どうして? せっかくの綺麗な毛並みなのに……」
「この傷を残しておけば、僕の耳を見る度にソフィーが気にしてくれるでしょう?」
……この猫、一体何を言ってるの?
「気になって、ひょっとしたら罪悪感も抱くかもしれない。その度に僕のことをたくさん考えてーーそれがあなたをこの世界に留めるための枷になるかもしれませんから」
「そんなことのため?!」
「重要でしょう? 可能性だけでも十分試す価値がある」
そう言ったシアンが私の手を掴む。
咄嗟に手を引っ込めようとしたが傷口の部分に持っていかれ、赤く膨らんだそこを無理矢理触らされた。
ーーああこれ、絶対まだ痛いやつだ。
「……ほら、そんな泣きそうな顔をするから利用されるんですよ?」
「ーーッ! 悪趣味、イジワル猫!」
「否定はしませんが」
「あ、頭オカシイんじゃないの?!」
「そうかもしれませんね」
ギャアギャアと文句を言ってみても全然取りあってくれない。むしろ『気にしてもらえて嬉しい』と笑っている。
ーーでも、そんな事のために傷痕を残しておくなんて。
「……どうしたらその傷消してくれるの?」
「おや、消すと言えば何かしてくれるんですか?」
「その、何でもはムリだけど……私ができることなら。だから治せるならちゃんと治療をーー」
「……そうやって付け入る隙を作るの、良くないと思いますけどね」
その言葉の後に首を飾るリボンをぐっと引っ張られ、シアンの胸に倒れ込んでしまう。
慌てて体を起こそうとしているところに上から整った顔が近づくのが見えて、私は反射的に目を閉じた。
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そういえばシアンはヤンデレ気味でした。
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