飛ばない魔法は魔法じゃない!? ~no distance,no magic~

セビィ

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第一話 アルベルト=ランケス

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「訓練、始め!」

「炎の矢よ!」
水放みずはなち!」
「風の刃!」
「土よ、穿うがて!」


 教官の号令を皮切りに、横並びになっている男女複数の魔法師達がそれぞれに構えを取って魔法を放ち始める。

 ここはフォルテナ魔法学院の実技訓練場。

 遮蔽物さえぎるものがない、四方を壁に囲まれた空間。

 横一列に並んだ魔法師達の向かい側には人の形を模した金属の的が並べられており、魔法師達によって放たれた地・火・風・水と様々な属性の魔力弾が的にぶつけられる。

「次! 前へ!」

 撃ち終えた魔法師が横に移動し、後方の魔法師が前に出て同じような攻撃魔法を放つ。

「次!」

 一種の作業のように魔法師が様々な術をって魔法を放っていく。

 それが何巡なんじゅんか繰り返されて最後の魔法師達に至った時、放ち終えた魔法師達から侮蔑ぶべつを含んだ囁き声が聞こえた。

「ほら、アイツだぜ…」
「ふふっ…」
「あんなんでよくこの学院にいるよなぁ…」
「恥さらしだよ。さっさと退学にすればいいのに…」

 そんな言葉が並んでいる生徒に聞こえるくらいの声で話されているが教官はそれをとがめもしない。

「始め!」

 合図と共に並んだ魔法師が次々と的に向かって魔法を放つ。

炎の剣よフレア・ソード!!」

 赤髪の男子生徒がそう叫ぶと突き出した両手から剣の形を成した炎が4本現れ、的目掛けて高速で射出される。

 ドドドドッ!!

 一本も外す事なく炎の剣はそれぞれ両手、頭、心臓部分に突き刺さり、爆炎を巻き起こした。

「すげぇ…」
「さすがクラス一ね…」
「よっ! 炎騎士フレアナイト!」

氷塊弾アイシクルバレット…」

 青髪の女子生徒がポツリと呟くと、彼女の周囲の温度が一気に低下した。

 瞬く間に親指サイズの氷が数えきれない程大量に生まれ、彼女の周りを目まぐるしく回転する。

「行きなさい」

 彼女が静かに的を指差した直後、無数の氷は弾丸となって的目掛けて襲いかかった。

 キキキキキキキキキィン!!

 氷の弾丸を受けた的がけたたましい金属音を鳴らす。

「アイシアさんも負けてないわね…」
「そりゃあ、氷姫ひょうきだし…」
「おい、次だぜ…」

 二人の魔法師が撃ち終わった直後、生徒の視線が一斉に最後の魔法師である銀髪の少年に集まる。

「ぅ……」

 視線が集まる中、少年は居心地が悪そうにもじもじとしていたが一度深呼吸を行うとゆっくりと姿勢を低くして構えを取る。

「えっと……」

 両手を前に出し、必死に何かを念じている。

「ぷっ……」
「お、おい笑うなって…くくっ…」
「今回も見せてくれるのかねぇ?」

 周囲が少年の様子を見てクスクスと笑い合う中。

 教官もまた、冷ややかな目で銀髪の少年を小馬鹿にするように見ていた。

 時間にしてものの十数秒ではあったが痺れを切らしたのか教官が口を開く。

「アルベルトー。今日やめておくか?」

 威圧的なその声にアルベルトがビクリと肩を震わせる。

「い、いえっ……その…やり、ます…」

 集中を欠いたアルベルトが教官の顔色をうかがうようにそっと顔だけ向け、すぐに顔を伏せながらボソボソと答えた。

「上達しないお前の為を思って時間をかけてもいい様に順番を最後にしてやっているんだ。存分にやれよー」

 言葉の文面だけを見れば…いや言葉にも感情にも表情にも。
 そこに一切の思いやりはなかった。

 だがアルベルトは逃げ出したい、放り出したい気持ちを抑えてグッっと的を睨みつけた。

 身体中にある魔力の流れを感じ取り、それを掌に集中させ……一気に放つ。
 イメージは一直線に伸びる炎の奔流ほんりゅう
 当たって、燃える的。

「火よ……!」

 アルベルトが念じながら声を出した。

……。

 だが何も起きはしなかった。

 ただ言葉を言っただけ。

 イメージと術式は間違っていないんだ。

 そう自分に言い聞かせてアルベルトは再び腕に力をこめた。

「火よ……! 火よ…!」

 そう念じて何度も言葉を紡ぐが先ほどと同じく何も起こらない。

「火よ! 炎の……奔流よ…!! 火炎よ…!」

 突き出した腕に無駄な力が入る。

 イメージ通りに魔法が発動せず、焦りが生まれた事で術式が霧散する。

 もはや集中力は失われ、魔法が出ない事への苛立ちに感情を支配されてしまっていた。

 全員の視線がアルベルトを責め、短い時間なはずなのにそれがとても長く感じていた時。

「アルベルト、どうする? まだ続けるか?皆お前の魔法にしてるんだぞー」

 教官の言葉に、アルベルトはギリッ…と静かに奥歯を噛む。

 そして、両手をだらんと下ろして早足で歩き始めた。

 その様子を見て生徒のざわつきはますます大きくなり、

「さすが不発っ!」
「次があるぞぉー!」
「えぇ、次もこんなだと時間の無駄なんですけどぉ」

 と野次を飛ばす者もいた。

 アルベルトは的の目の前で足を止めると恨めしそうに的を一睨ひとにらみしてから、握りしめた拳をポン…と的に当てた。

 その直後ボッ! と小さな炎が的を包み込んだかと思うとすぐに消えた。

「ありがとうございました…」

 振り返ったアルベルトが教官に一礼すると、教官は聞こえるように大きくため息を一度つき、

「よーし! 少々時間を食ってしまったが、余った時間はそれぞれ自主練とする!! 各自技を磨けよ!!」

 と生徒全員に向かって笑みを浮かべながら大声を上げた。

「っしゃー!!」
「私はコントロールの向上」
「俺は魔法の構築を早くしたいなぁ」

 今まで待機していた生徒がわらわらと的や、訓練場の隅っこへと移動していく。

 元いた位置にとぼとぼと戻るアルベルトの横を赤髪の少年が通り過ぎる。

「はぁ……ほんとクラスのお荷物だぜ…」

「フレイアード、そういう言い方は悪いと思う。例え事実だとしても」

「へぇへぇ、そりゃー悪うございましたね」

 赤髪の魔術師…フレイアードの悪態をアイシアがなだめる風な事を言う。

 二人が離れた後、アルベルトは両手を力強く握りしめた。

「なんで………出ないんだよ……」

 そんな少年の悲痛な呟きは誰に聞こえるでもなく生徒達の喧騒けんそうにかき消された。
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