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第三札 それぞれの狙いと目的。いざメイド面接!
しおりを挟む「この世界は家政婦は人気の職業なのか…?」
本日何度目かの通話を終えた俺は面接希望の多さに驚きを隠せなかった。
メモ帳を見た所名前と連絡先、面接日時が8人分書いてある所を見ると希望者は8人だったんだろう。
今日一日で8人だ。
明日以降も同じくらい面接希望の電話があるんじゃないだろうか。
「全員面接してもいいっちゃいいんだが……こりゃ募集期間の短縮だな……」
ぐぅ。
腹が減った。
とりあえず、昼飯でも買いに行くか。
家の事や電話やらをしていたら時間が過ぎるのはあっと言う間だ。
自室に財布を取りに行く途中、寝転びながら浮かんでいるサキを見つける。
「…………」
サキはこちらに気づいておらず、変わらずゆったりふわふわと漂っている。
「…………」
俺はサキを無言で凝視する。
「……ぁ……」
俺の視線か気配に気づいたのかサキが振りかえる。
「利剣、いたんだ」
「………」
「ど、どうしたの?真剣な顔して……」
「いや……その袴の下は見えるのか、履いてるのかと思って―――」
「~~~~~!!!!変態!!死ねぇっっ!!」
顔を真っ赤にしてサキは物凄い勢いで天井へと吸い込まれるように消えて行った。
「……霊体だからか何も見えん……」
霊に欲情したら俺も終わりだな…。いや、欲情してないけど。
ただ気になっただけだ!
人間の好奇心ってのはすごい。
…さて、昼飯を買いに行くか。
――――
結局翌日にも2人の面接希望の電話があり、10人になった時点でこの後が怖くなって以降の面接を打ち切る事にした。
現在の10人で面接を行い、それでも不採用だった場合は随時折り返しの電話をします、と。
ホント、就職難なんだろうかこの世界。
こっちに来て一ヶ月も経ってないから社会情勢が分からない。
それでも「家には幽霊がいます☆」なんて言ったら働いてくれる人はいないだろう。
何としてもサキには隠れていてもらおう。
リンゴーン…
呼び鈴が鳴った。
さて、第一号の面接希望、頑張るぞー!!
―――
「模部野 樹羅々さん……16歳…」
「はぁーい」
間延びした返事。
茶髪で制服をかなり着くずしたまさにJK。
促していないのに既に座っているし。
「え、ええと…志望動機は…」
「えっとぉー、初心者でもカンゲーでぇー、住み込みオッケーって書いてたから?」
「あ、あぁ……。家政婦の初心者は歓迎だけど、家事はある程度出来ないと困るかなぁ…」
「え、ヤバくないですかぁ?」
「お、おぅ…」
ヤバいのは君の頭だよ! と言いたいのをグッと堪える。
「うん、あと16歳だからご両親の同意書も欲しいかな…」
「あー、それって知人でもいいんですかぁ?」
「え?」
「あーし、親と喧嘩して家出してるんでぇ、彼氏でもいいのかなぁって」
「ダメっすわー」
何かがぶっ飛び、ぶっきらぼうに即答する俺。こういうのって絶対後でめんどくさい事になる。
「じゃあいいですー。帰りますねぇ」
「お疲れしたー」
開始からわずか五分。
こうして俺の面接第一号は幕を閉じた。
いやいや、後九人もいる!
気を取り直して次だ次!
だが…この後の面接も色々と散々だった。
家事は出来るが、質問を許した時に何やら家の事から始まり資産とか聞いて来る既婚者、
敬語が苦手と豪語するウェーイ系とか、
恋人、奥さんいますか?もし良ければ…と誘惑してくるどこか影のある人や給料は半分以下でいいんでぜひこの洋館で働かせてくださいと志願してくる人、
求人を出していない遠方から面接に来た人もいた。
何なんだこれは。
リンゴーン…
そして次は七人目の面接希望者。
もう六人も終わってしまい、後四人しかいないのかと思うと焦りが生じてしまう。
少しでもマシな人が来ますように……
――――――
「ええと、瀬堂流那さん」
履歴書に書かれた名前を読み上げ、顔写真を確認する。
「は、はいっ!」
緊張しているのか、背筋を不自然なくらいピシッと伸ばし、短く返事を返す瀬堂さん。
背中まで伸びた明るい栗色の髪を首の後ろで束ねた、ゆるふわ系の衣装に身を包んだ子だ。
「どうぞ、座ってください」
「し、失礼しますっ」
ギクシャクと動き、ストンと椅子に腰を下ろす瀬堂さん。
「じゃあ瀬堂さん。志望動機から聞いてもいいですか?」
「あ、はいっ!えっと…流那…、いえ、私はっ―――」
(第一人称が自分の名前とか大丈夫か?年齢は…19歳かぁ…)
少し残念な印象を抱く。
「早く独立をして…母を楽にしてあげたくて、志望しました…」
「ふむふむ」
あ、いい子。
いやいや、面接の時だけの演技かもしれない。
「楽に、というのは経済的にですか?」
「はいっ。りゅ…私がずっと家にいるだけで、母の負担になってしまうので…」
今、流那っていいかけたな。まぁなんか雰囲気が可愛いから許せる、ってかもう許すわ。
「んーー…母は子供に迷惑をかけられてナンボだとは思いますけどね…」
「………」
俺の言葉に反論をしたそうだけど、上手く言えずに瀬堂さんはうつむいてしまった。
「あー…、まぁ人それぞれですしね。感じ方は」
「あ、は、はいっ」
何で俺がフォローしてあげてるんだか。
「うちは住み込み歓迎ですが自宅からも勿論通えます。どちらを希望ですか?」
「私は、住み込みでお仕事をさせていただきたいですっ」
え? まじで? いや、19歳の女の子だよね?
男の娘じゃないよな?
うん、履歴書にはしっかり女にマルがついている。
こんな男一人しかいない洋館に住み込み希望とか、どんだけ親に気を遣ってるんだ。
だが今まで来た中では一番マトモな人だ。
「で、家事とかは得意ですか?」
俺の問いに瀬堂さんは一度だけ頷く。
「家事は家で母のお手伝いを毎日していますので出来ますっ!」
おお、返答に今までのやり取りになかった力強さと自信を感じる。
しかし俺は彼女に伝えておかねばならない事がある。
黙って働かせて、いざ遭遇した時に大変な事になりかねない。
「コホン…。最後に当館では、その…もしかしたら…本っっ当にもしかしたらですが」
「は、はいっ」
俺の長い前フリに表情をこわばらせる瀬堂さん。
「見える人には、幽霊が見えるかも…知れません」
「ゆ、幽霊ですかっ…?」
さっきまでの力強さはどこへやら、瀬堂さんの顔は真っ青になっている。
「いやぁ!もしかしたらの話です!もし出ても俺が何とかしますから!!大丈夫!」
相手はサキだし、物にも触れられないし人畜無害だ。
何とかなるだろう!
「ぁ……利剣さんは法術師さんなんですねっ…」
咄嗟に俺が言ったフォローを聞いた瀬堂さんの顔に安堵の色が見られる。
「え、えっと…ホウジュツシ?」
「はいっ。えっ、違うんですか?」
ホウジュツシ?何だそれは。
この場合何て答えるのが正解なんだろう。
うーん…とりあえず後で調べるとしてこの場は誤魔化すか。
「まぁ、霊に対する対策は万全なので安心してください」
「あ、はいっ!」
よっし、誤魔化し成功。
「面接は以上です。採用不採用は後日連絡させてもらいます」
「今日はありがとうございましたっっ!」
そう言って立ち上がった瀬堂さんはペコリとお辞儀をした。
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